映画『バレリーナ:The World of John Wick』作品レビュー

 キアヌ・リーブス主演の大ヒットアクション「ジョン・ウィック」シリーズのスピンオフ作品。シリーズ第3作「ジョン・ウィック パラベラム」とクロスオーバーしながら、新たな暗殺者の復讐劇を描く。主演は「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」「ブレードランナー 2049」のアナ・デ・アルマス。

●ストーリー
 イブ・マカロ(アナ・デ・アルマス)は、ルスカ・ロマに属する暗殺者ハビエル(デヴィッド・カスタニェーダ)と、ヨーロッパ某国に拠点を置く暗殺者たちのカルト教団に属する女性との間に生まれた娘でした。
 だが、イヴがまだ幼い頃、ハビエルは教団の手から娘を守るため、命がけでイヴを連れ出すのです。その行動がもとで妻は命を落とし、ハビエル自身も教団の追撃を受ける中で娘だけを逃し、自らは命を落としてしまいます。身寄りを失ったイヴを引き取ったのは、ニューヨーク・コンチネンタルの支配人ウィンストン(イアン・マクシェーン)でした。彼の計らいで、イヴはルスカ・ロマのディレクター(アンジェリカ・ヒューストン)のもとで育てられ、バレリーナとして、そして暗殺者としての技を磨きながら、やがて冷静かつ強靭な戦士へと成長していくのでした。

 12年後、伝説の殺し屋ジョン・ウィックを生み出した組織「ルスカ・ロマ」で殺しのテクニックを磨き、暗殺者として認められたイヴは、ある殺しの仕事の中で、亡き父親に関する手がかりをつかみます。父親を殺した暗殺教団の手首にあった傷が、倒した敵にもあったのです。それが長く封じ込めていた記憶を呼び起こし、彼女の心に深く沈んでいた復讐の炎に再び火を灯すのでした。
 まず彼女は、コンチネンタルホテルへ出向き、支配人のウィンストンとその忠実なコンシェルジュのシャロン(ランス・レディック)を頼り、父親の復讐に立ち上がろうとします。しかし、暗殺教団とルスカ・ロマは、はるか以前から相互不干渉の休戦協定を結んでいたのです。
 復讐心に燃えるイヴは立ち止まることなく、教団の拠点に単身で乗り込んでいきますが、裏社会の掟を破った彼女の前に、あの伝説の殺し屋ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)が現れるのです。

●解説
 その伝説の元殺し屋の復讐劇は、愛犬が殺されたことから始まりました。キアヌ・リーブス主演の「ジョン・ウィッグ」は、回を重ねるごとに、奇妙な世界設定が追加されることになります。完結編となる一昨年の4作目は、3時間に垂だとする長尺も相侯って、壮大なサーガの風格すら漂っていました。

本作は、父を殺され、暗殺者養成施設(3作目で出てくる)に身を寄せた女性を主人公とする外伝となります。本作を鑑賞する前に、3作目を見ておく方が、ジョン・ウィッグの置かれた立場とイヴとの関係性において余計な疑問を抱かなくて済むことでしょう。

 「ジョン・ウィック」の世界観とアクションの様式を受け継いだ作品だけに、全編が長大な格闘、銃撃シーンで占められています。「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」でこのジャンルへの適性は証明済みのアルマスが、スケート靴や火炎放射器を駆使した複雑で激しい振り付けのアクションをこなし、復讐に燃える主人公の気性の荒さを体現しました。
 クライマックスに登場するキアヌ・リーブスのさすがの存在感、オーストリアのハルシュタットなどロケーションの素晴らしさも際立ち、「ジョン・ウィック」の冠に恥じない出来ばえとなりました。
  アクロバティックな身体アクション、先端的でありつつ時代錯誤的な舞台装置。ウィッグ映画の魅力は、先般ひとまず有終の美を飾ったトム・クルーズのミッション・インポッジブル(MI)シリーズに通じます。信念ゆえに自らの組織に反抗するヒーロー像も同じです。ただ国際平和という至上命令を完遂せんとするトム的正義が向日性に拠るとしたら、一匹の愛犬のためなら捨て身の報復を厭わないキアヌ的正義は背日性に深く根を下ろしているといえそうです。

 トムなしでMIは成立不可能でしょう。ならキアヌなしのジョン・ウィツクの世界はどうでしょうか?人気シリーズのスピンオフへの挑戦に、立ち向かうのはアナ・デ・アルマス。亡き父の敵討ちという彼女の動機づけは分かりやす過ぎますが、忍術の里のごとき刺客者村の住人全員に襲撃されるという展開。新米の殺し屋なのにいくら何でも強すぎるとか突っ込みどころはいくつもあるし、感情的な深みは皆無です。
 アクションも、氷が敷き詰められたダンスホールでの格闘、スケートシューズによる即席ヌンチャク芸など、荒唐無稽すれすれの体技で健闘しています。
 前半、火と水のイメージを駆使した映像詩人タルコフスキーがさり気なく言及されていた。最後の壮絶な「放射」対決の伏線と考えるのは、穿ち過ぎでしょうか。

●感想
 シリーズが発展させてきた銃 (ガン)を使った格闘術「ガンフー」を駆使する力強いアクションは健在で、女性を主人公に据えたことで戦い方はより多彩に。ジョンと同じ組織で暗殺術をたたき込まれたイヴは、銃はもちろん、皿やスケート靴など身の回りの物全てを武器にして敵を迎え撃つのです。
 華麗と言うよりは体重や重力をしっかりと感じさせる動き方と、自身も少ながらぬダメージを負いつつ敵を一人ずつ倒していく執念。せりふに頼らずともイヴの肉体から復讐という行為の業の深さと、それを選んだ覚悟が立ち上ります。アクションでの語り方を熟知した描写がさすがの見応えでした。

 レストランでのシーンなど、イブがさまざまなアイテムを駆使してチートもありのアクションで見せていく展開に興奮しました。
 ほぼスタントに頼っていないというアルマスのキレのある動きを見ているとスピンオフ以外での活躍にも期待してしまいます。続編もアリのような展開でしたね。予想以上にリーブスの登場シーンがあったのもうれしかったです。
 但し、本作でジョンの役割はイブの暴走を止める役割だったはず。場合によっては殺害も予定されていました。それなのに、いつの間にか彼女に加勢してしまうのは、いくら同じ組織の同僚ではあるとはいえ、いささか説明不足に思えました。

公開日 : 2025年8月22日
上映時間:125分

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