『あんぱん』(NHK総合)は、第21週に入り時代は昭和39年に。戦後の混乱が落ち着き、高度経済成長期真っ只中の年だ。現代を生きる人々が振り返る昭和を象徴する年といえる。昭和の空気が漂う『あんぱん』の中で、一際空気を作り上げているのが河合優実の存在だ。

 フリーの物書きになった蘭子(河合優実)は、水玉やチェック柄が目立つレトロの装いで、これまで以上に昭和の文化人の雰囲気をまとっている。河合自身の涼やかな雰囲気の顔立ちも相まって、昭和な見た目がこれ以上ないほどにしっくりくる見た目だ。

『あんぱん』写真提供=NHK

 思えば、河合がお茶の間で見つかるきっかけとなった作品である『不適切にもほどがある!』(TBS系)でも彼女は昭和を担う役柄だった。聖子ちゃんカットに、丈の長いスカートのセーラー服のスケバン風ファッション、赤リップがよく似合い、懐かしさと昭和独特の若者文化を体現してみせた。令和と昭和を行き来するタイムスリップものである『不適切にもほどがある!』の設定に、説得力を持たせる人物だったといえるだろう。

河合優実の歌声に集約された『不適切にもほどがある!』の凄み “時代”からの解放がここに

〈私は今、17歳。まだ何者でもない 私はまだ、17歳。昔話のネタがない〉
 『不適切にもほどがある!』(TBS系)第6話におい…

 サントリー「クラフトボス」のCMでは、小泉今日子の代表曲「なんてったってアイドル」の歌唱でも好評を集め、1月に公開された映画『敵』では、令和では珍しい白黒映画でも存在感を発揮。その顔立ちから“令和の山口百恵”と評されることもある河合は、画面に難なくレトロな雰囲気を流し込める俳優といえる。

 同じく、昭和の雰囲気を醸す俳優として、中島歩にも言及したい。『あんぱん』では、のぶ(今田美桜)の最初の夫であり、貨物船の一等機関士である若松次郎を演じた中島。彫りが深く、目鼻立ちがくっきりしながらも柔らかな目元など、いわゆる昭和の男前という顔立ちで、戦時中の雰囲気を表していた。中島は『不適切にもほどがある!』にも、昭和の価値観を持った教師・安森として出演。一見、人畜無害そうな見た目なのに、悪びれずに低コンプライアンスな価値観をぶつける様子は、河合とは違う意味で昭和という時代を背負う役割を担っていた。のちに令和のフェミニストの社会学者・向坂サカエ(吉田羊)と恋仲になるが、2人の恋愛描写に絶妙なトレンディ感があったのも、中島が持つ印象によるものだろう。

『あんぱん』写真提供=NHK

 放送中の『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)では、主人公・小川愛実(木村文乃)の交際相手である川原洋二を演じている。こちらは現代劇ではあるものの、画面に独特の湿り気を出す上で中島が一役買っているように見える。

 9月5日公開の映画『遠い山なみの光』で主人公・悦子(広瀬すず)の夫として、松下洸平をキャスティングした理由を、石川慶監督は「古風とも言える昭和感がありながら華もある」(※)と話している。昭和という現代とは異なる文化を持つ時代を描く作品では、俳優自身の顔立ちや雰囲気による、その時代を違和感なく表現できる説得力が重要視されるのかもしれない。思えば、ブレイクのきっかけとなった朝ドラ『スカーレット』(2019年度後期)でも、松下は昭和中期を生きる若者を演じていた。

『遠い山なみの光』©2025 A Pale View of HIlls Film Partners

 近年の朝ドラは、昭和初期から平成初期頃までを描く作品が多い傾向だが、最近は民放ドラマでも昭和を舞台にした作品が増えつつある。『不適切にもほどがある!』や『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)のように昭和と令和の価値観を対比させるものや、『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)や『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)のように原作の力を借りて、時代を超える普遍的な価値観を見せるものまでさまざまだ。そして、そのどれもが世間から一定の評価を受けている。現代から昭和の価値観や生活を見直すことによって、現代人に響くメッセージを紡ぐというのが一種のブームとなっているといえるだろう。

 こういった作り手からのメッセージを伝えるためにも、高い演技力を持ちながら、レトロな雰囲気を背負える俳優の存在は欠かせないのだ。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/08/post-2111264.html

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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