2025/08/19 12:00

Widescreen Baroque

相対性理論での活動や、anoの「ちゅ、多様性。」の楽曲提供でも知られる真部脩一。彼が10年以上かけて温めてきた音楽的アイデアが、Hinanoの透明な歌声と融合し、ついに動き出す。その名は「Widescreen Baroque」。SF的なテーマを軸に、真部ならではの鮮烈なメロディと独自の詞世界が広がるサウンドは、聴く者を未知の旅へと誘う。そしてその物語が初めてステージで幕を開けるのは8月26日、東京・WWW X。ライゾマティクスの真鍋大度氏をはじめ、第一線で活躍する映像作家やメディアアーティストが集結し、視覚と音が交錯する一夜限りの体験を創り出す。果たしてその瞬間、何が目の前に現れるのか。その場で確かめてほしい。

鮮烈なメロディと独自の詞世界が広がる、Widescreen Baroqueの世界
INTERVIEW : Widescreen Baroque

Widescreen Baroque

コンポーザー・真部脩一(Vampillia、集団行動、進行方向別通行区分、ex.相対性理論)とボーカリスト・HinanoによるユニットWidescreen Baroqueが始動。初インタビューが実現した。2025年6月9日に1stシングル「Door to Door」を、8月18日に2ndシングル「NO.5」をリリースし、8月26日には渋谷WWWXで初ライブ「Widescreen Baroque pre.『WIDE SHOW』vol.0」が開催される。

ここ数年では、anoの「ちゅ、多様性。」「許婚っきゅん」といったヒットソングを手がけ、作家 / プロデューサーとして目覚ましく活躍する真部。ユニットは自らの表現活動の本拠地として位置づけたものなのだろう。「Door to Door」も「NO.5」も、耳に染み込むメロディと奇想天外なリリックを持つ。まさに“真部節”とも言うべきポップセンスを感じさせる楽曲だ。

「ニュースタンダードを目指す」というWidescreen Baroqueの意気込みについて、たっぷり語ってもらった。

インタヴュー&文 : 柴那典
写真 : 西村満

大風呂敷を広げる感じというか、過剰な包装という感じ

──まずこのユニットはどういうところから始まったんでしょうか?

真部:もともと僕が個人的に作りためていたアイデアやストックが10数年分溜まっていまして。それを世に出そうとしたことも何度かあったんですが、今回ようやく機が熟して、作品としてリリースできる機会に恵まれたというのが実情です。

──真部さんは作家仕事も順調で、求められることも多く、多忙でもあると思います。けれど、それとは別に自分の表現としてやりたいことがあるというのがWidescreen Baroqueの活動に繋がったのではないかと思ったんですが。そのあたりはいかがでしょうか?

真部:というよりも、僕は締め切りがないと作るのが苦手で。締め切りがない時に果たして音楽が作れるのかという思いが20代の頃からあったんです。求められていないところで自分の独自の表現ができるのかというチャレンジとして、定期的に作品を作っていたという。

──Hinanoさんとの出会いはどのような感じでしたか?

真部:いろんな音楽業界の方に話をしていて「リリースした方がいい」と言っていただけることも多かったんですけれど、僕は歌えないし、ボーカリストがなかなか見つからない。そんな中、僕のデビュー当時から目をかけてくれていたスタッフさんが「こういう人はどう?」って提案してくれて。その中で「この人がいいのでは」と引っかかったのがHinanoさんでした。そこから会って一緒に何かを作るようになって、すごく自分の音楽性にフィットする声だなと思って。それで「一緒にやってもらえませんか」ということになりました。

──Hinanoさんは真部さんの話を聞いての第一印象はどうでしたか?

Hinano:最初はふわっとしていました。オーディションみたいな感じでもないし、真部さんというコンポーザーがいて、曲がたくさんあるらしいよって。一緒にできることが自分にもあるのかなと思って始めました。

真部脩一

──真部さんとしてはHinanoさんの声がしっくり来た、一緒にやっていてピンとくるものがあったというのはどういうところですか。

真部:声は元々すごく良いし、歌も上手なので、ボーカリストとして不満はないんです。その上でキーポイントとしては妄想力というものがありました。僕の書いた曲を自分の解釈で自分なりに広げてくれる力がある。誤解の部分も含めて、作品を深掘りしてくれる。僕の作品を自分のもののように扱おうとしてくれる感じが共同制作者として向いているのではないかなと思いました。

──Hinanoさんとしても、曲や歌詞から自分なりにストーリーや風景が思い浮かんだりするような感じがあった。

Hinano:真部さんの楽曲には想像力を掻き立てられるし、その中で自分が今まで見てきたもの、受けたインスピレーションを、真部さんの曲を通して広げていくのが楽しくて。それでそう思ってくれたかなと思います。

──ユニットのコンセプトは定めていましたか?

真部:コンセプトはないですね。決めていないです。僕がずっと作りたかったものとしては──こう言うと語弊しかないと思うんですが──能のような究極のミニマリズムの世界と歌舞伎みたいなケレン味がある世界の両方が好きで。そういう自分の好きな感覚を同時に形にできる方法はないかとずっと模索していた。ユニット名である「Widescreen Baroque」というのも、いびつなバランスの言葉だなと思って。自分のそういった感覚を形にしようとする意思のもとで、この名前を使ってやろうという感じです。

──能と歌舞伎というのは、言ってみればミニマリズムとマキシマリズムですよね。

真部:マキシマリズムというよりは、大風呂敷を広げる感じというか、過剰な包装という感じですかね。

──これを共存させるというのは、真部さんの中でどういう美学なんですか。

真部:単純に僕はそういうものを見たいというか、そういうものがあった方が良いと思うんです。騙し絵みたいなもので、両方が並び立つことはないのは分かりきっていますが、並び立っているような気がする瞬間が作り出せたら最高だな、という感じですね。

──なるほど。ユニット名はSF小説のジャンル名から来ているとのことですが、どういう由来だったんでしょうか?

真部:特にSF的な言葉をつけたいというよりは、この言葉を知った時から引っかかっていて。すごく良い言葉だな、自分の美意識にしっくりくるなと、ずっと心の片隅に持っていた言葉だったんです。特定の作法に囚われないというか、懐の広い言葉だと思うんですよね。「Widescreen Baroque」というSFのジャンル自体が、時間移動や空間移動を駆使すると定義されているもので。特定の時代性やファッションに影響されない。言ってしまえば簡単ですが、自由でありたいという気持ちです。

Hinano

Write A Comment

Pin