
AIで曲が作れるような時代だからこそ
人間の癖みたいなものを全面に出したかった
サンレコ9月号のゲーム・サウンド特集にちなんで言えば、カワムラユキはオープン・ワールドRPG『サイバーパンク2077』(2020年)の楽曲「PONPON SHIT」をプロデュースしたことで知られる人物。活動は多岐にわたり、チルアウトからダンス・ミュージックまで自在に紡ぐバレアリック・スタイルのDJ、ウォームアップ・バー渋谷花魁のプロデューサー、OIRAN MUSICのレーベル・ファウンダー、そして文筆家としても名を馳せる。そのカワムラユキがコロナ禍にDTMを再開し、完成させた10曲入りの1stアルバムが『Love Forever』だ。7月23日にデジタル・リリースされたばかりで、同日に「Adios Ayer ft. Naz」と「Magic ft. COLOR FILTER」をシングル・カットした7インチ・レコードも登場した。「Adios Ayer ft. Naz」は、敬愛する故ホセ・パディーヤの曲のカバーで、聴く者をイマジナリーな楽園へといざなう。本稿では、桃源のムードとカワムラユキの心象風景が番(つが)うアルバムのサウンドについて、制作工程を伺おう。
Text:辻太一 Photo:後藤武浩 Hair & Make:吉川清海 Location & Cooperation:another999 Oiso
“思い出をコンパイルする”というテーマ
──2021年の『R.I.P. Sunset』以降、シングルでの作品発表がメインでしたが、ここへ来てアルバムを作ろうと思った理由は?
カワムラユキ 一度は断捨離して、やめてしまっていたレコードの収集を再開して。2年くらい前にTINA AUDIOっていう沖縄のメーカーのスピーカーを購入したことがきっかけで、またレコードを聴くようになったんです。そうすると、アルバムとして音楽を聴くことが増えるじゃないですか。以前は12インチのEPばかりだったけど、LPを買うことが増えたので、アルバム単位で考えるようになったのが理由の1つ。あとはDTMを再開して、しっかりやっていこうってなったときに、アルバムの一枚もちゃんと作れないというのはどうなのかって、古い考えかもしれないけど思ったんでしょうね。シングルで出してきた曲にはさまざまな表現があって、リスナーの方々には捉えどころがないように映ることがあるかもしれません。でもアルバムとして提示すれば、いろんな音楽のバリエーションが入っているにしても、より濃密に、癖みたいなものも含めて伝わるかなと思って。

音楽鑑賞に愛用しているスピーカーはTINA AUDIO 1.0。『Love Forever』制作の契機ともなった
──最近は、どのようなレコードを聴いているのですか?
カワムラユキ 古いものが多いですね。主にジャズとか、メロウなものとか。バレアリック・スタイルのDJが、ちょっとレイドバックしたムードのときにかけるようなものも含めて、思い出やヒストリーをなぞるみたいな感じで聴いていくことがとても多くて。今回の私のアルバムにもA面、B面っていう感じがしっかり出ていると思うんです。
──6曲目の「Sprout」辺りがB面の頭というイメージでしょうか?
カワムラユキ 「Sprout」か、その1つ前の「Koko」のどちらかかなと思っています。
──確かに「Koko」から曲調が内省的になりますよね。
カワムラユキ そうなんです。外に向けた曲から、内側に入っていく。当初、内側に入った曲だけでアルバムがまとまってしまいそうだったんです。でも、1~2年くらい前に本気でアルバムを仕上げなきゃって思った辺りから、このままだと誰にも聴いてもらえないものになっちゃうぞと感じて。DJをやっているから、批評的な目線で自分のアルバムを厳しく見返したときに、もっと第三者に聴いてもらえるようにまとめないと“アルバム一枚を聴き終える”っていうことをしてもらえないんじゃないかなと思い、現在の構成に着地しました。
──ということは、アルバムの候補曲はほかにもあったのですね?
カワムラユキ はい、たくさんありました(笑)。お蔵入りにしたもの、解体したもの、さまざまあります。今はコラボの時代だし、これまでの思い出とか、そういうものをコンパイルするというテーマもあったから、素晴らしいアーティストやプレイヤーのお友達をフィーチャリングしたり、彼らに参加してもらったりすることで、アルバムとしての完成度を高めていく方向に舵を切ったんですよね。それが、さっき話した1~2年くらい前のタイミングだったのかなと思います。
今の自分だから醸し出せる至らなさ
── 例えば「Ra」「Koko」「Scared Places」といった曲には、ドラムやパーカッションのプレイヤーとしてGeorge Kanoさんがクレジットされています。
カワムラユキ 私はリズムに対してこだわりがあるにもかかわらず、リズム・パターンを考えたり打ち込んだり、打楽器の音色を具現化したりするのが、スキルとして欠けている部分かなと思っていて。そう思ったときに、たたきすぎない人で、多種多様な楽器の可能性を知っていて、なおかつトラック・メイクまでできてしまう。そして長いお付き合いで、お人柄も好きで……って考えていくと、George Kanoさんにたどり着いたのだと思います。
──カワムラさんの人脈の広さからして、アルバムのゲスト・ミュージシャンを選ぶのは大変だったのではないかと思います。
カワムラユキ いろんな人とつながっているのに、一緒に音楽を作るようなことができていなかったから、死ぬまでにやっておかないと寂しいなって。とはいえ、1stからいきなり幕の内弁当にはしたくなかった……裏を返せば、私はサービス精神が旺盛だから、幕の内になっちゃう可能性もあったんです。だから抑えなきゃと思って。それに客演を集めすぎると自分の色が薄れていくし、今の自分だから醸し出せる至らなさとか、スキルの未熟さみたいなものも消えてしまうなと。プロデューサーとか、そういう立場の人が自分名義のアルバムを作るってなったときに、素晴らしいミュージシャンを片っ端から集めるようなことがありますよね。熟練のプレイヤーがそろっているんだけど、みんな空気を読んでしまうから、それぞれの役割をまとめました的なアルバム。そんな仕上がりになるのは避けたいと思っていました。
──今の自身の状態をリアルに記録しておきたかった?
カワムラユキ 今は何でもできる時代じゃないですか。AIで曲が作れるし、歌のピッチは全部合わせられて、エフェクトもかけ放題。でも…
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Release
『Love Forever』
カワムラユキ
OIRAN MUSIC
Musician:カワムラユキ(prog、voice)、George Kano(ds、perc)、斎藤ネコ(vln)、Naz(vo)、Ryuji Tsuneyoshi(g)、Cityboy from Seoul(g)、Watusi(b)、Amy Gray(translate、reading)、Minami Taga(voice)
Producer:カワムラユキ、Hideo Kobayashi、Ryuji Tsuneyoshi
Engineer:Koyas、Hideo Kobayashi、Taichi Tsuji(House Violence)、冨田恭通
Studio:Magical Completer、Sonic Vista Studios Japan、Sugiji Studio
