『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)が面白い。

 磯村勇斗演じる「学校が嫌い」なスクールロイヤー・白鳥健治が、生徒たちと関わることで、気づけば彼自身にも生徒たちや教師たちにも大きな変化が生まれている様子を丁寧に描いている。

 生徒役を演じる『ぼくのお日さま』『国宝』の越山敬達、『からかい上手の高木さん』(TBS系)の月島琉衣など、今後が楽しみな若手俳優の魅力が、綺羅星のように煌き、尚且つ、珠々(堀田真由)の「推し」である宮沢賢治の世界観と、健治が深く関わる天文部の面々が見上げる星空が見事にマッチして、秀逸なことこの上ない。

 本作の脚本を手掛けるのは大森美香。2025年は『新・暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)、『憶えのない殺人』(NHK BS)、先日最終回を迎えた『ひとりでしにたい』(NHK総合)に次いでの本作ということで、ジャンルを問わぬその多作ぶりも驚くべきことである。

『ひとりでしにたい』はなぜ“信頼できる”作品なのか “胸キュン”シーンを描かなかった凄み

カレー沢薫とドネリー美咲(原案協力)による漫画を原作とした『ひとりでしにたい』(NHK総合)は、学芸員をしている35歳の山口鳴海…

 カレー沢薫とドネリー美咲(原案協力)の同名コミック(講談社)が原作である『ひとりでしにたい』は、大森が原作の世界観に忠実に「実際の人間が演じ立体的に動いたとき、どうやったら成立するかをいちばん考えた」作品だったと言う。合間に挟み込まれる麿赤兒の舞踏、主演・綾瀬はるかによる妄想シーンやラップバトルなど奇抜でコミカルな展開の中に、普段私たちが目を背けたくなる現実が落とし込まれていて、グサグサと心に突き刺さる。しかし最後まで観てみると『ひとりでしにたい』は、独身女性・山口鳴海が「どう死ぬか=この先どう生きるか」を模索する作品であると同時に、登場人物それぞれがより自分らしく、(家族・友人・恋人・同僚といった)大切な人たちと「共に楽しく生きていく」ための方法を探るドラマだった。

 もちろん、原作のある作品のため、ここから大森美香脚本らしさを導き出すのは大変暴論ではあるが、孤独死した伯母・光子(山口紗弥加)との最終話での邂逅といい、自分本位な自己の性質を認めながら、それでも相手のことを知りたいともがく主人公の強さは希望だと思った。

 『僕達はまだその星の校則を知らない』は、大森美香脚本の魅力が凝縮された作品だと思う。作品ごとに異なるキャラクターを見事に演じ分ける磯村勇斗が演じる本作の主人公・白鳥健治が持つ優しさや繊細さは、妻である和宮(深川麻衣)を一途に愛した『青天を衝け』の徳川家茂役が持っていた優しさや儚さと性質が少し似ている。また、第1話の終盤で主人公・白鳥健治が言う言葉「本当の幸いって、一体なんなんでしょうね」が、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のジョバンニの台詞「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう」と重なるように、白鳥健治は、どこか宮沢賢治を思わせるキャラクターである。

 健治ばかりでなく、健治のよき理解者となりつつある幸田珠々を演じる堀田真由は、まさに「けなげな鈴が銀色の粉をまきながら震えているよう」という健治による評がぴったりな優しい声で宮沢賢治の詩や物語の一節を口ずさむ。また、第5話において自作の物語を話す場面で特にそれが際立ったように、語尾の「~なのです」といった特徴的な喋り方が印象的な1年生の江見芽衣を演じる月島琉衣も、いつまでも聞いていたくなるような、弾むような声の持ち主である。

Write A Comment

Pin