
パイプオルガンの前に並ぶ(右から)高橋博子さん、宮川正雪さん、木村綾子さん=金沢市の県立音楽堂で
七尾の川越さん 奏者とタッグ 同じ被災者の心に寄り添う、パイプオルガンの音色を届けたい−。能登半島地震からの復興を願い、七尾市国分町の川越(かわこし)紀美子さん(83)が初めて企画した演奏会が14日、金沢市の県立音楽堂で開かれた。被災者ら千人余りが、川越さんの義理の娘で気鋭のオルガニスト、高橋博子さん=東京都=による荘厳な音色に包まれ、心を震わせた。(高橋雪花)
演奏会はアイルランド民謡「ロンドンデリーの歌」、フランスのオルガニスト、フォーレ作「レクイエム」と、2曲の追悼歌で幕を開けた。5143本のパイプを持つ、ドイツ製の大型パイプオルガンが響き渡ると、来場者は耳を傾けた。
企画した川越さんは地震で自宅が一部損壊。自身が運営する高齢者の交流拠点「介護予防くつろぎ処」の利用者も被災し、家の解体や仮設住宅の生活で気落ちしていた。そんな中、思い出したのが、以前聴いた高橋さんの生演奏だった。
高橋さんは川越さんの次男の妻で、アニメ映画「名探偵コナン 戦慄(せんりつ)の楽譜(フルスコア)」の劇中で演奏するなどして活躍する。川越さんは「オーケストラみたいにいろんな音色が全身で奏でられるパイプオルガンは、弾く人の気持ちが表れていて心に染みる。人の気持ちに寄り添える音」。昨年9月、高橋さんに「被災者に聴かせてあげたい」と直談判し、手探りで動き出した。
七尾市や穴水町にある仮設住宅の団地5カ所で、地元の福祉団体と協力して高齢者と交流する傍ら、チラシ配り。当日はマイクロバス3台を手配し、くつろぎ処の利用者ら能登からの観客を迎えた。運営は親戚や友人らが総出で携わった。
高橋さんの声かけで、バイオリニスト宮川正雪さん、金沢市出身のソプラノ歌手木村綾子さんも出演。宮川さんは、がれきから救出された輪島塗のバイオリンを携えた。3人でクラシックを中心に12曲を披露し、涙ぐむ観客もいた。
能登町から訪れた新出広さん(66)は地震後、寒い中での避難所生活や車中泊を経験したといい「今日は温かい気持ちになれた」と喜んだ。
高橋さんは、昨年の能登豪雨で友人の知人の孫が亡くなった。「言葉にならなかった。残された私たちが、亡くなった人の分までしっかり生きようと思いながら弾いた」と話した。体調不良で、会場に行けなかった川越さんは、残念がりつつも「実現できたのは奇跡。皆さんがひとときだけでも『あぁ楽しかった』と思って無事帰ってきてくれれば、それで十分」と話した。
