キボリノコンノ/著
2025/08/14 11:00
本物に紛れた木彫り作品を見つける絵本『どっち?』(講談社)を2024年11月29日、当コーナーで取り上げた。フランスパンやコーヒーなど、本当に木でできているのか思わず疑ってしまうぐらいの”本物感”に驚きを隠せなかった。同時に「作り手は一体どんな人生を歩んできたんだろう」と気になった。
木彫りアーティストのキボリノコンノさんによる、自身初のエッセーだ。家具デザイナーを経て公務員になった著者。しかし、異動先の部署が合わず、コロナ禍のストレスもあって精神的に参ってしまう。そんなとき、転機が訪れる。友人から「木を使って何か作ってみたら?」と言われたのだ。SNSに作品を投稿したところ、たくさんの反応が届いた。それをきっかけに、自粛生活で失われていた他者とのコミュニケーションに熱中していったそうだ。木彫りアーティスト・キボリノコンノが誕生した瞬間である。
仕事や生き方に対する価値観など、赤裸々につづられている。特に印象的だったのが、一貫してポジティブ思考であること。転職経験やアーティスト一本に絞っての活動、どれもが大きな選択だ。これらの壁に直面し、悩んでから行動に起こすまでの時間の短さに驚いた。この「悩むより動く」スタンスは、著者の才能の一つとも言えるのではないだろうか。
未来はどうなるか分からない。今までそれが怖いことだと思っていた。しかし、著者のように「だからこそ楽しい」という考え方もあることを知った。同じ状況でも、見方一つで変わるのかもしれない。(実務教育出版/1540円)
(コンテンツ部・池田知恵)