──そして、同時リリースとなったAzumiさんの最新ソロ作『STILL HERE』は、wyolicaの再結成がメインとなっていたこの数年を経て、また新たな方向性を示した5曲入りEPです。

Azumi:はい。wyolicaの再結成以降、ちょっと息切れをしてしまうぐらい、ほんとに頑張ったと自分では思っていて、「ここでちょっと休憩しようかな。でも音楽は止めたくないな」と思っていたときに、ソロのお話が再燃したんです。

──プロデュ―サーに福富幸宏さんとPort of Notesなどで活躍するギタリストの小島大介さんを迎えていますが、その人選について聞かせてください。

Azumi:福富さんにはwyolicaでも1~2曲プロデュースしていただいたり、福富さんがプロデュースする楽曲のフィーチャリングで何曲かご一緒したりして、5年や10年単位で会っていました。小島さんはもちろんPort of Notesを存じ上げていましたし、私の声とギターの相性がいいという理由もあってご一緒しました。

──なるほど。どの曲もおふたりらしい深みのあるプロダクションが印象的です。

Azumi:ふたりの音楽性や癖など、聴いているだけじゃ知り得なかったことを知ることができました。小島さんは特に「あ、こんなメロディーを書くんだ」とか、コードワークやギターの演奏に独特の音楽性をお持ちの方なんだと知ることができました。私が今まで歌ったことのないようなメロディーが出てきて、挑戦するのがおもしろかったですね。自分のボーカルスタイルをこれからどうやっていこうかと考えるキッカケにもなりました。また日々成長できる機会をいただいた気がします。

──1曲目の「HERE feat. タブゾンビ(SOIL&“PIMP”SESSIONS)」は、福富さんらしいハウスを根底に感じさせる心地よい音作りにタブゾンビさんのトランペットが加わり、以前とはまた違ったジャジーさを感じさせる仕上がりですね。

Azumi:そうですね。ソロとして作った最初の2枚のアルバム(『ぴあのとあずみ』『New Standard』)ではかなりジャズに向いていたので、10年ぶりにソロをやるならそっちの匂いが欲しいと思ったんですけど、“どジャズ” ではないなと思っていて。私はDJもやっているので、4つ打ちが欲しいなと思いつつ、4つ打ちでもキラキラしたものじゃなくて、ディープハウスにジャズ寄りのテイストが入ったような、温度があまり上がらないハウスが欲しいと思い、今回のようになりました。トラックを聴いていたら、トランペットが聴こえてしまったので、タブさんに「今、新曲を作ってるんだけど、トランペットの音が聴こえてきちゃったんだよね~」と電話したら「やりましょう!」となって、その日に録音しに来てくれました。SOILのメンバーって私の全部のソロアルバムに参加してくださっていて、本当にかけがえのない音楽仲間だと思っています。

──今のAzumiさんの求めるサウンドが凝縮された感じですね。

Azumi:この曲をどんな曲と繋げられるかなと楽しんで今DJをやっています。福富さんに私用のDJエディットも作ってもらったんです。「もうちょっと、イントロアウトロを長くしてくれませんか?」とか言って、超贅沢(笑)。

──ご自身が作詞した3曲目「Everlasting Love」と4曲目「cheat day」もとりわけ印象深かったです。特に、小島さん作曲の「cheat day」はタイトル通りに気だるいタッチで日常を描いたような歌詞ですが、〈フェイクばかりが飛び交う街〉のようなリアルな言葉がフッと耳に飛び込んでくるようなところがあって。

Azumi:あ、それは「HERE」にも入っていますね(歌詞は福富と共作)。昔からなんですけど、wyolicaでも例えば「シェルター」とか「red song」とか、私の強い怒りが歌詞に込められている曲はあって、怒りを込めすぎてボツになった曲もあります(笑)。今回も日々「それってどうなの?」と思っているワードを歌詞の中に散りばめています。

──wyolicaのライブの締めの定番曲「さあいこう」などもそうですけど、Azumiさんならではの強い言葉が不意に耳に刺さってくるような持ち味がよく出ていると思いました。

Azumi:うれしい! それはよかったです。

──ご自身では、歌の表現の部分で意識したことや、新たな試みなどはありましたか?

Azumi:ボーカルスタイルが新鮮でしたね。初めてご一緒する方とのメロディーを歌ったので緊張したし、私はどう取り組んでいこうかと考えました。wyolicaでもそうなんですけど、私は「自分の歌を聞いて!」というよりは、「このメロディーを活かすにはどういう歌い方がいいだろうか?」とか、いいアンサンブルにするにはどういう声を使えばいいかを考える傾向がとても強いので、今回も全曲すごく悩みました。歌のテンションにしても、声にしても、温度感にしても。全体的に歌い上げないほうがいいと思ったので、今回は“強い歌”を封じました。やっぱり歌って、メロディーと一緒になったときに最高なものじゃないと意味をなさないので。歌詞もそう。そこは私が一番大事にしているところだと思いますね。

──そういう意味では、今回のボーカルスタイルにおいて理想的なモデルにしたシンガーはいたんですか?

Azumi:私がずっとこうなりたいと思っているのは、シャーデーです。シャーデーは永遠の憧れですね。あと、私はローリン・ヒルとかエリカ・バドゥの世代なので、そのあたりも憧れです。ソウルやブラック・ミュージックにのめり込んでいった時期に、最初はチャカ・カーンやアレサ・フランクリンみたいな歌い上げるシンガーになりたいと思っていたんですけど、途中で好きな歌と自分に合う曲は違うと気づき始めて。高校生くらいの時だったんですけど(笑)。歌い上げないシンガーを探して、シャーデーに出会ったんですよね。ほかにも当時はタック&パティとかカサンドラ・ウィルソンとか。全然ジャンルが違いますが、ビョークも私の永遠のアイドルですね。

──なるほど。90年代に様々な音楽に触れるようになっていた世代としては、とても納得の並びです。

Azumi:でも、一番となるとエラ・フィッツジェラルドかな。今回の参考にしたという部分ではシャーデーですけど、エラが一番好きですね。もちろんガチガチのジャズやファンクやフュージョンも大好きですけど、歌に関しては根底にあるのは今挙げたような人達です。

──『STILL HERE』では、そうした根底にあった歌い手としての姿勢や、クールになりすぎず、熱くなりすぎずといった温度感などが、改めてよく出たと言えるかもしれませんね。

Azumi:歌に関しては“静かに熱い”というのが私のテーマで、それはwyolicaで「シェルター」を作ったときもそうでしたね。

──「シェルター」は大阪公演の録音がライブ盤にも収録されていて、ステージ中盤の大きな聞かせどころにもなっていました。そういう意味では、この数年はwyolica再結成で活動を続けてきて、改めてソロに戻ったときにAzumiさんならではの個性がより強く出てきたところもあったのかなと。

Azumi:そうですね。ソロのほうが歌詞はより自由度が高くて、私ってこういうふうにも書けるんだと気づかされた楽曲たちになりました。wyolicaでは、イメージから離れないように書いていたので、ソロはより自由度が増すし、ソロの曲の歌詞を書くのもすごく好きです。なので、私自身の個性はより強く出ていると思います。12月27日には、渋谷のJZ Bratにてリリースライブがあるので、ぜひ遊びに来てください。

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