──ヒロシさんは先日、パリで行われたKENZOのランウェイショーの音楽を担当されましたね。どのような経緯で手がけることになったのですか?
藤原ヒロシ(以下F) NIGOからオファーがあったので、「いいよ」と答えました(笑)。僕が作っていたマッシュアップのシリーズをNIGOも知ってくれていて、最初はその中からいくつか選んでもらえればいい、というような感じの話だったと思います。それで、NIGOの好きな曲を聞いて、選んでもらったマッシュアップ楽曲をDJ MIX的に繋いで仕上げました。
──NIGOさんからは、KENZOのコレクションのテーマやイメージについて説明を受けたりしましたか?
F 一応、打ち合わせを一度やって、そのときにパリで発表するコレクションの内容を見せてもらいました。でも、そこまでショーのイメージを意識した音楽を求められたわけではなかったですね。今のファッションショーって、あまり音楽にドラマティックな効果を求めていないというか。たとえば、フィナーレの前に暗転して、照明がついた瞬間にハウスが流れる……みたいな演出は、もうほとんどないでしょ(笑)。だから、MIX自体はテンションをキープするような構成にしました。あと、そのマッシュアップを使った音楽はショー本番でしか流せないので、WEB配信用に別の音楽も制作しました。
──では、実際のショーで流れる音楽と、SNSなどで配信するための音楽、2パターンを作ったのですね。
F そうです。配信用の音楽についてもNIGOに「どんな感じがいい?」と聞いたら、「そっちはちょっとバラエティに富んだものがいい」と言われて。
──配信用は今回のために制作したオリジナル楽曲なんですね。
F はい。自宅のベッドルームで、寝転びながら作りました(笑)。NIGOが好きそうな感じっていうのは、昔よく一緒にDJをやっていたので、なんとなくわかっていたんです。いわゆるグラウンドビートからテンポを上げてハウスへと展開していくような構成で、3曲を繋ぐようにしました。
──ヒロシさんはこれまでも、ファッションショーの音楽を選曲含め数多く手がけてこられましたが、時代とともにショーで求められる音楽は変わってきましたか?
F 昔は、ショーの展開に合わせたドラマティックな音楽が求められていましたね。場合によっては、最後にウエディングが登場するようなショーもあったし(笑)。だから、デザイナーと密に話し合って、「このルックには明るい曲を」「この服の時はしっとりと」みたいなリクエストを受けたりもしました。
──そんなふうに、ルックごとのイメージの説明があったのですね。
F そうそう。ショー自体も、今より長かったと思う。1回のショーで30分くらいかけていたんじゃないかな。
──今は、大体15分前後のショーが多いですね。
F 今って、ほとんどのブランドはショーの音楽、特に配信用に使う音楽は著作権フリーのものだったりするんですかね?
──ショーの動画は、掲載する媒体側が音楽を付けることもありますし、そういうときはフリー素材を使うケースも多いですね
F 昔は、音楽での演出にもかなりこだわっていたし、デザイナー側の指示も細かかった気がします。
──ところで、ヒロシさんが初めてファッションショーの音楽を担当されたのは、いつだったのでしょう?
F 確か、タケオキクチの最初のショーだったと思います。80年代ですね。当時は、ショーで使う曲をオープンリールに録音して、それをリール・トゥ・リールで交互に流していたんですよ。レコードだと、針が飛んでしまうことがあったので。
──なるほど!
F まだCDもなかった時代ですしね。だから、ショー直前には徹夜でテープ編集をしていました。原曲では2分程度のフレーズを、フィナーレ用に6分くらいにループさせたりして。演出スタッフと一緒に栄養ドリンクを飲みながら、当日の朝まで作業していました。古き良き時代の思い出ですね(笑)。
文・鈴木哲也 編集・岩田桂視(GQ)
