任天堂ゲームの楽曲が聴き放題で楽しめる音楽配信アプリ「Nintendo Music」。Nintendo Switch Onlineの加入者は無料で利用でき、ユーザーが設定した時間、途切れることなく楽曲を再生する「ながさチェンジ」のような、ゲーム音楽ならではの機能も提供する。

 このアプリでは、音楽体験を快適なものにするためにさまざまな技術的工夫が凝らされている。Google Cloudが、2025年8月5日と6日に開催した年次イベント「Google Cloud Next Tokyo 25」では、このアプリを支えるバックエンド技術を詳しく解説するニンテンドーシステムズのセッションが催された。

 同セッションでは、ニンテンドーシステムズ 開発部の相馬啓佑氏が、新しい音楽体験のために工夫を凝らしたメディア配信の技術について、また開発部・チーフである灘友良太氏が、秒間3万リクエストにも耐えうるインフラ基盤について解説した。

「Nintendo Musicを支える技術」と題されたセッションをレポートする

“ゲーム音楽ならでは”の体験を届ける! Nintendo Music

 Nintendo Musicは、Nintendo Switch Onlineの加入者を対象とした、スマートフォン向けのゲーム音楽配信アプリ。2024年10月から、40以上の国と地域で提供されている。懐かしのファミコン(ファミリーコンピューター)から最新のNintendo Switchまで、幅広い任天堂ゲームの楽曲が順次展開されており、多様なテーマの公式プレイリストも用意されている。

 “ゲーム音楽ならではの体験”にもこだわっている。例えば、フィールドやバトルシーン、ステージクリアの瞬間など、再生中の楽曲に合わせたゲーム画面も表示され、かつての思い出と共に音楽を楽しめる。加えて、ゲームのBGMのように、途切れることなく曲をループできる「ながさチェンジ」機能も用意している。

Nintendo Music

 Nintendo Musicでは、スマートフォンアプリやコンテンツ制作などのフロンドエンド開発を任天堂が、バックエンドの開発をニンテンドーシステムズが担当している。今回は、バックエンドで“再生体験”を支えるメディア配信技術と、“探索体験”を支えるインフラ技術が解説された。

楽曲配信基盤、アプリ用のSDKも含めて独自開発

 まずは、メディア配信技術の解説からだ。この領域はニンテンドーシステムズのメディアチームが担当している。このチームのミッションは「ゲーム音楽らしく、快適な再生体験を提供すること」である。

 Nintendo Musicのメディア配信基盤は、「Media Pipeline」「Media Server」「Media SDK」という3つのコンポーネントで構成されている。

 「Media Pipeline」は、サーバー側で配信用のメディアファイル(音楽データ)を作成するコンポーネントだ。具体的には「Transcoding(トランスコーディング)」と「Packaging(パッケージング)」の2つの役割を担う。

 Transcoding処理では、高品質・大容量のオリジナル楽曲データを、音質を維持しつつファイルサイズを圧縮したAACファイルに変換する。このとき、ユーザーのネットワーク環境(回線速度)に応じて容量・音質を調整できるように、3つの品質(High/Medium/Low)のファイルを生成する。

 Packaging処理では、Transcodingで生成したファイルを、数秒ごとに切り分けた小さなセグメントファイル群に分割する。この際に、不正利用を防止するDRMで暗号化を施している。

 DRMや配信フォーマットは、スマートフォンのOSに合わせて最適化している。具体的には、Androidでは「Widevine」と「MPEG-DASH」を、iOSでは「FairPlay Streaming」と「HLS」を採用している。さらに、再生タイプの違い(ストリーミングとダウンロード)によって、暗号化の仕組みやセグメントファイルの大きさも変更して、ユーザーの快適な再生を担保している。

Media Pipeline

 これらの処理は、Google Cloudが提供するフルマネージドのデータ・バッチ処理基盤「Dataflow」を用いて独自構築している。「例えば『どうぶつの森シリーズ』は、時間帯や天候で楽曲が異なり、400曲以上、約10時間にもおよぶ。これらを3分ほどですべて処理できる仕組み」と相馬氏。内製化した理由は、ながさチェンジ機能や再生開始の高速化など、Nintendo Music独自の仕様に柔軟に対応するためだという。

Dataflowを用いてMedia Pipelineを独自構築

 2つ目のコンポーネント「Media Server」は、Media Pipelineで作成したメディアファイルを、アプリケーションに配信する。後述するAPIサーバーと同様に、サーバーレスのコンテナ実行環境「Cloud Run」で稼働しており、「Media Proxyサーバー」と「Licenseサーバー」で構成される。

 Media Proxyサーバーは、メディアファイルの公開可否などを確認して、メディアファイルの配信を制御する役割を担う。Licenseサーバーは、暗号化されたメディアファイルを復号するためのライセンスを、ユーザーの権限やセッションの有効性、デバイス情報などを検証した上で発行する。

Media Server

 3つ目のコンポーネントは、スマートフォンアプリに組み込まれる「Media SDK」だ。これは、Media Serverから配信されたメディアファイルとライセンスを用いて、楽曲を再生するコンポーネントである。Android用とiOS用のSDKを開発している。

 メディアチームがアプリケーション側のSDKまで開発する理由は、「メディア再生技術は専門性が高く、配信基盤(サーバー側)と密に連携しながら、最適化する必要がある」(相馬氏)ためだという。なお、開発言語や再生コンポーネントも、Androidでは「Kotin」と「media3」、iOSは「Swift」と「AVPlayer」という形で、各OSで最適なものを採用している。

Media SDK

Write A Comment

Pin