2025/08/06 18:00

陰陽座

25年、つまりは四半世紀という歳月を、“妖怪ヘヴィメタル”という唯一無二の旗を掲げながら駆け抜けてきた陰陽座。メタル冬の時代に船出し、時代に流されることなく“自分たちの音楽”を貫いてきたバンドは、どのようにこの道を歩み続けてきたのか。そして、最新作『吟澪御前』に込められた思いとはいったいどういうものなのか。陰陽座の音楽的核を担う瞬火に、その軌跡と現在地、そして未来について話を訊いた。

陰陽座、厳然たる覚悟のもとに放つ入魂の最新アルバム

INTERVIEW : 陰陽座

鋭利なギターリフ、和の情緒、そして物語性豊かな詞世界。陰陽座の最新アルバム『吟澪御前』は、まさに「陰陽座そのもの」を体現した一枚だ。「吟澪に死す」「鈴鹿御前 –鬼式/神式」「紫苑忍法帖」「三千世界の鴉を殺し」……緻密な構想と豊かな物語が通底する楽曲たちは、25年を重ねたバンドの確かな歩みと創造力の証である。地に足をつけて、ただ前を向く。その言葉の重みを、今こそ感じてほしい。

インタビュー・文:ニシダケン
写真 : 野波 浩(STUDIO No・ah)

僕たちは「上」ではなく「前」を向いて進むバンド

──陰陽座は結成から25年以上、つまりは四半世紀を超えて活動されているわけですけれども、この25年という歩みについては、どのように感じていらっしゃいますか?

瞬火:ただただ感謝しかないですね。そもそもヘヴィメタル・バンドを結成して、2001年にメジャーデビューしたときには、ここまで末長く仕事としてやっていくなんてことは、想像もしていなかったです。今は日本にもヘヴィメタルのシーンというものがありますが、陰陽座を結成した1999年頃は、もちろん現役で活動していた先達のバンドはいましたけど、シーン全体としては停滞していた印象がありました。世界的にも「時代遅れ」だと言われていましたし。

──そんな時代の中で、ここまで続けてこられたんですね。

瞬火:ただ自分たちが好きな音楽をやりたくて結成して、そして運良くメジャーデビューさせていただいたんです。本来であれば、こんな特異なバンドが25年も続くなんて、本人はもちろん、ファンの皆さんも、きっと思っていなかったと思います。

──しかもその中で、ポリシーや信念を曲げることなく活動をされてきたこともすごいなと感じています。

瞬火:そうなんです。生き延びるためになにかを変えるわけではなく。自分たちが作りたい曲を作って、やりたいライブをやって、それで25年。こんなにありがたいことはありません。

──この25年のなかで、浮き沈みのようなものはあったんですか?

瞬火:いや、多分、浮いてないから沈んでもない(笑)。それが陰陽座の25年の秘訣かもしれません。

──なるほど!

瞬火:「上を目指す」というバンドも多いですし、それが当然だと思いますが、僕たちは「上」ではなく「前」を向いて進むバンドであると、ずっと言ってきました。上を目指すと上がった分、落ちることもある。でも前に向かって地に足をつけて進む分には、後ろを向かなければ常に進み続けられる。僕たちはずっとそうやってきました。

──その「前」には、いったいなにがあるんでしょう?

瞬火:なにかがあるとするなら、ただ次の一歩があるだけですね。目の前にある制作やライブを大事にしているので、先の大きな目標というより、一歩一歩を大切にしています。

──それが25年という時間に繋がったわけですね。

瞬火:そうですね。地味な話ですけど、愚直に一歩ずつ積み重ねてきた結果だと思います。

──「前を向く」というスタイルはいつ頃から決まっていたんですか?

瞬火:結成当時から意識としてはありましたが、言葉として口にしたのはメジャーデビュー直後ですね。インディーズの頃は自由でしたが、メジャーになるとやはり「上を目指さなきゃいけない」という見えないプレッシャーも感じました。でも上ばかり見ていると足元が不安定になる気がして。例えば山に登るときのように、ゆっくり歩いて登れば、同じ頂にも着ける。無理せずに進む。それが僕たちのやり方です。

──逆に25年続ける中で変わったことはありますか?

瞬火:人間的に少し慎重になったり丁寧になったりということはありますけど、根本的な考えや意識は全く変わっていないです。

──ということは、「変わっていない」というのが答えになるわけですね。

瞬火:そう思います。バンドを始めた時に0歳だったとしても、25歳。年齢なりの変化はあるかもしれないけど、変わってしまったという実感はないですね。

瞬火

──“妖怪ヘヴィメタル”というバンド自体のコンセプトや、楽曲のテイストもずっと変わっていないですよね。

瞬火:そこも全くブレていないです。やりたいことをやっているだけですから。

──それを25年間受け止めてくれたファンの存在がやはり大きいんでしょうか?

瞬火:本当にそうです。僕たちは何も変わっていない。変わらずにいて、今も需要があるというのは、ファンの方のおかげです。バンドがすごいんじゃなくて、ファンがすごい。それは間違いないです。

──現在のヘヴィメタルのシーンについては、どのように感じていらっしゃいますか?

瞬火:ヘヴィメタルというジャンルは、ロックの中でも亜流かもしれませんが、世界的にもブームになった時代がありました。ただ90年代から2000年代にかけては「時代遅れ」とされていて。でも僕たちは流行には関係なく、自分たちがやりたいことをやっていた。気づいたら、新しいバンドが誕生したりして、シーンが自然に形成されていたという感じです。ただ、今のシーンの中に自分たちがいるかどうかは、わからないですね。

──時代の狭間にいたからこそ、今の立ち位置があるんですね。

瞬火:そう思います。隙間を縫って、生き抜いてきただけなので。

──最近は海外でも“ジャパニーズ・メタル”の盛り上がりをすごく感じていまして。海外のファンの方からの反響についてはいかがでしょうか?

瞬火:そうですね。過去には海外でライブをやらせていただいたこともありますけど、「見たい」って思ってくれる方が、わざわざ日本の公演に来てくださることもあります。ヨーロッパ、南米、アジア……本当にいろんな国からライブに来ていただいて、びっくりします。日本観光のついでだとしても、すごく嬉しいことですね。もちろん国内から来てくれた方たちの存在もまったく同等に嬉しいですけれど、それでも「ドイツから見に来ました」なんて言われたら、「そのためだけにわざわざ来てくれたとしら、えらいことだぞ」って思いますね(笑)。だからこそ、むしろ観光のついでであってほしいなと思うんです。その方がこちらとしても心苦しさが少ないですからね。

──でも、その距離を越えてくるってすごいことだと思います。陰陽座は、日本全国を回るようなライブもされてきたと思いますが、そのあたりの思いはどうでしょう?

瞬火:そうですね。もちろん興行として成立させるには首都圏や大都市を回るのが基本になるのは仕方ないんですが、地方の街も同じように大切に思っています。これまで、何とか機会を作って全都道府県を何周か回らせていただきましたが、、本当に喜んでいただけたと思っています。僕の出身は愛媛県の片隅で、特にヘヴィメタルバンドがツアーで来るなんて土地ではなかったので、観に行くとなると、大阪くらいまで出なきゃいけない。だから、自分の街に好きなバンドが来るっていうのは、僕自身は体験したことがないんですよ。でも、実際に「自分の街に来てくれてありがとう」って言ってもらえることが多くて、それは本当に、そう思ってもらえることが嬉しいですし、こちらこそありがとうと言いたいですね。

黒猫

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