2025年8月2日

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鑑賞方法:VOD

原作は、やはり映画化された「ゴーストライター」など複数の邦訳がある英国人作家ロバート・ハリスが2016年に発表した小説「Conclave」。映画化作品が日本で2025年3月20日に公開され、約1カ月後に当時の教皇フランシスコが死去しコンクラーベが実施されたことで関心が高まり、2カ月を超えるロングランヒットにつながった。原作のほうは8月時点で未訳だが、翻訳出版業界は絶好のタイミングを逸したのでは(どこかの出版社が今頃大急ぎで準備しているかもしれないが)。

ローマ教皇選挙を舞台に、候補者となる有力な枢機卿たちに関する謎や不正をめぐり、選挙を執り仕切るローレンス枢機卿が“探偵役”として真相を探っていくミステリー。レイフ・ファインズをはじめとするキャストらの滋味豊かな演技、重苦しい緊迫感をあおる演出、映像の美しさに引き込まれる。たとえ予備知識がなくとも、ローレンス枢機卿の謎解きによって一人また一人と候補者が脱落していくさまはスリリングだし、思いがけない“アクション”シーンにも驚かされる。とはいえ、先々代のローマ教皇だったベネディクト16世と次の教皇になるホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(フランシスコ)の対話を描いた「2人のローマ教皇」や、カトリック教会のスキャンダルを米新聞紙ボストン・グローブの記者らが暴いた実話を映画化した「スポットライト 世紀のスクープ」を合わせて観ると、フィクションとはいえ本作が21世紀の教会の現実をかなり反映していることがよくわかるだろう。

宗教の話にとどまらない、現代の世界の問題に通じるテーマを扱っている点も、製作国の米英をはじめ各国でヒットした一因だろう。枢機卿らの論争では、多様性の尊重を進めるべきだとする革新派と、昨今の多様性は行き過ぎだとする保守派が衝突する。またローレンス枢機卿は、疑うことが大切であり、疑いなき確信は敵だと説く。原作者ロバート・ハリスの時代感覚を効果的に表現したピーター・ストローハンの脚本も、アカデミー賞脚色賞にふさわしい匠の技だ。

高森 郁哉

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