場所は共同の手洗い場のベンチ。目の前にあるのは便所という、一見するとロマンチックなムードの欠片もないところで、のぶ（今田美桜）と嵩（北村匠海）はキスをした。
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NHK連続テレビ小説『あんぱん』の主題歌を務めるRADWIMPSに、「トレモロ」という楽曲がある。先日開催された『FUJI ROCK FESTIVAL ’25』でも披露している、バンドの人気曲の一つだ。第90話を観ながら、筆者の脳内には自然と「トレモロ」の歌い出しが流れてきた。
〈満天の空に君の声が響いてもいいような綺麗な夜／悲しみが悲しみで終わらぬよう／せめて地球は周ってみせた〉
〈本当に伝えたい想いだけはうまく伝わらないようにできてた／そのもどかしさに抱かれぬよう／せめて僕は笑ってみせた〉
手洗いの天井に空いた穴。雨の日には傘を差さないとずぶ濡れになってしまう、登美子（松嶋菜々子）や千代子（戸田菜穂）が気が気でなくなってしまう欠陥だが、それでものぶは幸せだと笑顔で話す。晴れの日には、天井に空いた穴の向こうに満天の星空が広がる。そんなささやかな幸せが、のぶは嵩と一緒にいるだけで倍にも感じられる。幸せとは誰かにしてもらうものではなく、2人でなるもの。「でも、今が一番幸せやったら嫌やな」と見据えるのは嵩との未来だ。
千尋（中沢元紀）や次郎（中島歩）たちの悲しみの先に、のぶと嵩は生きている。結婚を祝福してくれる大勢の家族や八木（妻夫木聡）のような人生の恩人の後押しのおかげで、のぶと嵩は互いに本心を伝えられるようになった。「嵩と会えてほんまによかった」という言葉に、嵩はのぶを抱き寄せ、見つめ合い、やがて唇が触れ合う。そっと離れて、こっ恥ずかしそうにぎこちなく前を見る2人が微笑ましい。天井から射す星明かりが、2人の未来を照らしているようだ。
突然のくら（浅田美代子）の“ナレ死”には少々戸惑ってしまったが、朝日に照らされた浅田美代子の笑顔が印象的だった。第19週「勇気の花」からは、新キャストを迎え、嵩が漫画家へと歩みを進めていく。第90話で際立っているのは、メイコ（原菜乃華）の存在。酒癖の悪い下戸ということもそうだが、彼女の中には東京への憧れ、「素人のど自慢大会」への出場の夢が根強くあるようだ。
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予告ではカフェで働くメイド姿のメイコ、さらにいせたくや（大森元貴）の伴奏で歌うメイコの姿も確認できる。いせたくやは、嵩が作詞を担当した「手のひらを太陽に」の作曲を手がけることになる人物。そして、言わずと知れた天才漫画家・手嶌治虫（眞栄田郷敦）もついに登場する。『あんぱん』も最終回まであと2カ月。のぶが走り抜けるラストスパートに、さらなる盛り上がりを加えるキャストが並走するイメージだ。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送／毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜10:15～11:30再放送
出演：今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽：井筒昭雄
主題歌：RADWIMPS「賜物」
語り：林田理沙アナウンサー
制作統括：倉崎憲
プロデューサー：中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出：柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供＝NHK
