今、アメリカでは子ども向けの本が次々と禁書となっている。NY在住のライターの堂本かおるさんによると「黒人史をテーマにした本が禁書にされた後、すぐにLGBTQにまで波及した」という――。(第3回)
※本稿は、堂本かおる『絵本戦争 禁書されるアメリカの未来』(太田出版)の一部を再編集したものです。
禁書運動は、黒人史から「LGBTQ」へと波及
批判的人種理論へのアンチとして保守派が始めた黒人史をテーマとする書籍の禁書運動は、すぐさまLGBTQにまで対象が広がっていった。
LGBTQとは、レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシュアル(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)、クエスチョニング(Questioning)またはクィア(Queer)の頭文字をとった言葉で、その他さまざまな性的マイノリティを含む総称として使われている。性的マイノリティには他にもアセクシュアル(Asexual)、ノンバイナリー(Non-binary)、パンセクシュアル(Pansexual)などさまざまあり、LGBTQ+、LGBTQA+などと表されることもある。なお、本書では性的マイノリティ全般を指してLGBTQと表記することとする。
アメリカにおけるLGBTQに対する不寛容の理由は、おもにキリスト教に基づく。米国は人口の7割がキリスト教徒であり、非常にキリスト教色の強い国だ。キリスト教には多くの教派があるが、米国における最大多数派はプロテスタントの福音派、次いでカトリックだ(※1)。
※1 https://www.pewresearch.org/religious-landscape-study/database/(2024年12月20日最終閲覧)
LGBTQや同性婚を受け入れないキリスト教徒
福音派は聖書の教えを重視する。そして旧約聖書の「神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。男と女に創造された」(創世記 1:27)という記述から、性別は男女のふたつのみであること、また男女のペアによる生殖を非常に尊ぶ。そのため、LGBTQを受け入れない信者は多い。
福音派は信者の多さから教会には絶大な力があり、政治にも深く関与する。こうした宗教右派は中絶や同性婚への強い反対を示し、それらを政治的に制限しようとする。
また、カトリックもLGBTQへの忌避は強い。たとえば、ニューヨーク市では毎年6月に世界最大規模のLGBTQイベントであるプライド・パレードが行われる。パレードでは、700以上ものLGBTQのグループが思い思いのカラフルな衣装でマンハッタンをマーチし、その観衆は200万人を超える。一方でニューヨークはカトリック教徒の多い都市でもある。
毎年3月に、同じくマンハッタンでアイルランド系住民がカトリックの聖人を祝う、聖パトリック・デイのパレードが行われるが、2015年までLGBTQグループの行進は許されていなかった。さらにニューヨーク市内でもっとも共和党支持者の多い地区スタテン島で開催される聖パトリック・デイ・パレードにLGBTQグループの参加が認められたのは、2024年だった。