7月期の夏ドラマが出そろった。記録的猛暑とは対照的にドラマ界は「冷夏」の印象だが、青春系、純愛系に夏らしい見応えを感じられるのはうれしいところ。「勝手にドラマ評」第63弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(主要枠のみ、シリーズものは除く)。
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◆「明日はもっと、いい日になる」(フジテレビ系、月曜9時)福原遥/林遣都
★★☆☆☆
警察から児童相談所に出向になったヒロインが、子どもたちのSOSに寄り添う。働きづめで子どもに当たるシングルマザー、遊びたくて育児放棄のヤンママ、子どもの発達に苦悩する母親など、母親の気付きと反省ばかりが美談として描かれ、父親の比重がさっぱり。「ママには笑っていてほしい」「子どもはお母さんが大好き」といった母親神話に基づくせりふが頻出するが、このせりふを「父親」に置き換えることの難しさを、令和の挑戦としてほしかった。「虐待通報189」「夫婦げんかという面前DV」など勉強になるトピックもあるが、夏の月9はもっと明るい恋ドラの方が似合う。
月10ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」(C)フジテレビ
◆「僕達はまだその星の校則を知らない」(フジテレビ系、月曜10時)磯村勇斗/堀田真由/稲垣吾郎
★★★☆☆
周囲になじめず「宇宙の一部になりたい」という感性を持つ弁護士が、スクールロイヤーとして生徒たちの青春と向き合いながら成長。宮沢賢治の「ほんとうのさいわい」を考え、頭の中のムムス(脚本家の造語)が治まるまで耳たぶスイッチ、という無垢(むく)な主人公はカンテレのお家芸でもあるけれど、好みは分かれそう。天体テーマの「宙わたる教室」、ディスカッションの革命だった「御上先生」の直後だけに、初回テーマが「制服の是非」という古典でちょっと残念。封印されていた天文部のドームが開き、主人公の心にも風穴が空く。この大望遠鏡が最後に何を見せてくれるのか期待。
◆「初恋DOGs」(TBS系、火曜10時)清原果耶/成田凌/ナ・イヌ
★★☆☆☆
TBSと韓国のスタジオドラゴンが共同制作。犬の散歩が縁で獣医師と女性弁護士が急接近→「その犬はうちの犬だ」と韓国から財閥2世登場→犬を返す返さないのバトル→ドッグカフェ店長も加わり恋の四角関係へ。見どころの本線がよく分からず、共感ポイントを見つけられなかった。スタジオドラゴンが作るものは何でも見る大ファンだが、コメディーを入り口にずっしりラブが展開していく“らしさ”に欠け、この枠との相性の悪さというか、共同制作の難しさを感じる。字幕が多いのも地味にストレス。ナ・イヌが日本語で演技しているスペシャル感と、ワンちゃんたちの名演技に救われる。
◆「ちはやふる-めぐり」(日本テレビ系、水曜10時)當真あみ/上白石萌音/齋藤潤
★★★★★
映画から10年後の世界を原作者がオリジナルストーリーで。古文の先生になり、競技かるた部顧問を務める上白石萌音が裏主人公で機能し、令和の新キャストの青春と、今も続く平成組の友情が生き生きと地続きに。「青春はぜいたく」と冷めた高校生活を送る主人公の変化を18歳當真あみがみずみずしく演じ、齋藤潤、山時聡真など極上のキャスティングに制作の志を感じる。週替わりでテーマとなる歌が誰かの事情、心情とリンクし、歌に導かれて成長していく青春コンテンツのまぶしさが隅々に。歌の意味を和のアニメで見せるひと手間も、札を読む上白石萌音の声も美しい。今期唯一、夏らしいキラキラした作品。
◆「最後の鑑定人」(フジテレビ系、水曜10時)藤木直人/白石麻衣/松雪泰子
★★★☆☆
元科捜研のエース、土門誠(藤木直人)が科学の力で難事件に挑む。無愛想な理系×強め女子というよくあるバディだが、文句多めの行動派に白石麻衣がはまり、ズレたバディの突破力がきちんとある。なんだかんだ土門をサポートする科警研のスゴ腕に松雪泰子。土門を「民間人」とディスる冷え冷えとしたキャラクターに笑わされ、こっちのサイエンスなバディも安定。登場人物を絞ったすっきりした相関図でキャラの魅力と動線が分かりやすく、「白骨遺体」「射撃」「火災」など各話の科学もカラフル。1話完結モノでは今期いちばん見やすい。白石麻衣の激マズなハーブ水もいい小道具。
◆「しあわせな結婚」(テレビ朝日系、木曜9時)阿部サダヲ/松たか子
★★★☆☆
結婚後、妻に殺人容疑の過去ありと知った人気弁護士の人生の選択。脚本大石静。幕開けから阿部サダヲ×松たか子の会話劇に笑いっぱなしだったが、15年前の事件が明らかになった1話のラストでサスペンス展開となり、テンポが落ちた感。正体不明な妻ネルラに松たか子の魔物感が合い、ネルラの家族もほどよく不気味だけれど、「夫婦愛とは」というテーマはまじめに考察するよりコメディーで見たかった。無味無臭すぎるタイトルは今期ワースト。大石先生の原案「ネルラという妻」の方がジャンルや視点の置きどころが分かりやすく、この名タイトルがなぜ不採用なのか、そっちの方がサスペンス。
◆「愛の、がっこう。」(フジテレビ系、木曜10時)木村文乃/ラウール
★★★★☆
親のいいなりに生きてきた教師と、漢字の読み書きが苦手なホストのラブストーリー。夜の愛憎劇かと思ったら、傷だらけの純愛テイスト。教師は文字を、ホストは恋愛を教える屋上の出会いがしみじみと良く、距離が縮まるほど、目をそらしてきた「人生の宿題」に直面していくひりひり感が丁寧。ドSホストの色気をナチュラルに放つラウール。幼少期のトラウマというガラスな一面に体温があり、こんなにうまかったのかと感銘を受ける。過去にストーカー行為で通報歴というヒロインの横顔がどう転がるか。毒親、粘着質な婚約者など、話の散らかし役が全方位で盤石。
◆「能面検事」(テレビ東京系、金曜9時)上川隆也/吉谷彩子
★★★☆☆
表情筋を1ミリも動かさないエース検察官の異色捜査。原作者中山七里氏も「映像化不可能」としていた主人公を上川隆也がまばたきひとつしない能面で立ち上げ、バディ役(吉谷彩子)との初対面シーンは、長い静止画みたいな顔面の絵ヂカラに噴いた。「これが私の流儀だ」。事件関係者の事情、組織のしがらみ、権力への忖度(そんたく)といったあらゆる壁を一切迂回(うかい)せず、マンガみたいな直進行軍で職務遂行。「無」の表情が人の感情を引き出し、暴いた真実が誰かを救い、組織のためにもなっているという妙味。能面の奥に怒りや優しさががっちり宿る、上川隆也の離れ業に尽きる。
◆「DOPE 麻薬取締部特捜課」(TBS系、金曜10時)髙橋海人/中村倫也
★★★☆☆
特殊能力が覚醒する新型ドラッグ「DOPE」による不審事件に、麻薬取締部特捜課の新人×教育係バディが挑む近未来SF。異能力捜査の「SPEC」のような何かを期待した人も多かったが、特捜課5人のスペック(目/耳/鼻/腕力/未来予知)がおまけ程度にとどまり、映像もどこかチープという悲報にネットが「ゴレンジャー」と沸く。舞台がどう見ても2025年現在で近未来感がなく、ストーリーの軸足はメンバーそれぞれの夫婦愛、家族愛といったホームドラマの方。そう割り切ると、異能力に苦しんだ父娘の起承転結がずっしりあった4話は染みた。
◆「19番目のカルテ」(TBS系、日曜9時)松本潤/小芝風花
★★★★☆
「問診」の力で病の正体に迫る総合診療医の活躍。ゴッドハンドとは無縁の地味な診察風景を患者さん側の道のりからうまく映像化していて、診断がつくまでのビフォーアフターに二重のドラマがある。1話は全身痛を「病は気から」扱いされてきた女性の人生、2話は「病は気から」で歩けなくなった17歳男子の人生。「聞かせてください」「話してください」という医者の言葉のパワーが丁寧。専門医の見落としを探る仕事ゆえ、院内のハレーションがきつい。一人ずつ理解者を増やしていく流れとはいえ、序盤の孤立はめいる。譲るところ、譲らないところの対人スキルはどんな職業にも効きそう。
◆「DOCTOR PRICE」(日本テレビ系、日曜10時半)
★★★☆☆
医師に特化した転職エージェントのダークな手腕。麻酔科医に空きが出にくい問題、定時に帰りやすい診療科など、業界トリビアに基づく戦略が豊富で、凡庸な60点医師、縫合もできないシングルマザーなどのワケあり人材を高値で病院に売りつけるウルトラCに興味がわく。起業の目的は父親の死にまつわる情報集めであり、クライアントもただの駒。弱みにつけ込んだりクビに仕向けたりという所業の末、結果的に誰も損をしていないという安心設計。岩田剛典が大胆不敵の新境地だけに、原作マンガと同じ髪形でわざわざ浮く必要はないのでは。発言をオブラートに包まない助手(蒔田彩珠)とのバディはいい感じ。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)