老人が赤ん坊へと若返っていく奇想天外な物語の映像化が見事
映画は3時間近い長編だが、原作は文庫本で51ページの短編。以前取り上げた『グレート・ギャツビー』と同じフィツジェラルドの小説だ。『グレート・ギャツビー』の美しい作風と異なり、ブラックユーモアをちりばめた異色作である。
原作は南北戦争後のバルチモアが舞台。裕福なバトン夫妻に大柄な男児が生まれる。ところが、病院の新生児室にいたのは「まばらな髪はほとんど白髪で、顎からは長い白色の髭がのび」、しわがれ声でしゃべる70歳近い老人。赤ちゃんとして育て始めるが、一人にしておくと葉巻を吸う(笑)。ベンジャミンと名付けられた彼は時間を逆行して老人から赤ん坊へと若返っていく運命だった。18歳で名門エール大学に入学したものの、50歳に見えるため新入生と信じてもらえずに追い出される。結婚し息子をもうけ、父の事業を継いで大成功するが、年々若々しくなる彼と違い、妻は年相応に老けていく。孫が生まれた時、彼は10歳くらいの少年になっていた。
こんな奇想天外な物語をどのように実写化するのか。一歩間違えたら安っぽいキワモノになってしまいそう。でも、それは杞憂だった。筋書きを変更し、原作になかった女性が登場。運命の愛を描いた感動作が誕生した。アカデミー賞では作品賞・監督賞・主演男優賞・脚色賞など13部門にノミネート。美術賞・視覚効果賞・メイクアップ賞を受賞。
映画のベンジャミンは第一次世界大戦後のニューオーリンズで生まれ、裕福な親は老人の顔をした赤ん坊を高齢者施設の前に置き去りにする。施設の経営者に育てられた彼は入居者の孫の少女デイジーと出会う。惹かれあう二人は、実年齢と見た目の年齢が釣り合った時に結ばれ、娘も生まれる。それは束の間の幸せだった。いずれは幼子になる彼は彼女の元を去っていく。我儘に生きた原作のベンジャミンと違い、愛する人のために孤独な人生を選ぶのだ。ベンジャミンはブラッド・ピット、デイジーはケイト・ブランシェット。初々しい若者となり、中年の彼女の元をひっそりと訪れるブラピのはにかむような表情が切なすぎる。二人の愛の結末に涙、涙。