
本が売れず、町の本屋がつぶれてきたのは、人々が本を読まなくなったからだ、ネットやスマホの台頭のせいだと言われているが、それだけでは説明がつかない。町の本屋はどのように成り立ち、変わり、競争に敗れ消えていったのか。『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか 知られざる戦後書店抗争史』を上梓した飯田一史氏に聞いた。(聞き手:飯島渉琉)
──新しい映像メディアの登場や、人々が本を読まなくなったことが、町の本屋がつぶれている原因だと思われがちですが、必ずしもそれだけで説明できるものではない、と書かれています。
飯田一史氏(以下、飯田):まず、雑誌と書籍は分けて考える必要があります。
毎日新聞社「読書世論調査」によると、書籍を読む人は16歳以上になるとおおよそ2人に1人で、その割合は1950年代後半から2019年の調査終了までほぼずっと4割から6割で推移しています。書籍を読む人は昔からほとんど変わっていないんです。
「昔は電車内でみんな本を読んでいた」としばしば言われますが、実際に読まれていたのはたいてい新聞や週刊誌、マンガ雑誌でした。雑誌の読書傾向には劇的な変化があって、昔は9割の人が読んでいましたが、今は6割、7割の人が読んでいません。
したがって、書籍に関してはいわゆる「読書離れ」はそもそも起こっていません。スマホや映像メディアのせいで書籍を読まなくなったわけでもない。スマホや映像メディアが置き換えたのは雑誌の需要です。
スマホの台頭、あるいはYouTubeやTikTokなどの映像メディアと書籍は対立で捉えるべきものではありません。世界最大の出版社であるペンギン・ランダムハウスは、年間100万ドル以上をTikTokのプロモーション費にかけています。動画は本を売るためのプロモーション上、重要なツールだと捉えられています。
問題は「本を読む=本を買う」ではないことです。「町の本屋がつぶれている」のは、書籍の読書量は変わっていないのに、雑誌の読書量や購買量の減少によって書店への来店回数が激減したことで、書籍まで買う量が減っているというビジネス上の問題です。それと読書をどう推進するかは別の話です。
──改めてなぜ「本屋が儲からない」のか教えてください。
飯田:本が低価格・低マージンだということが、書店業がしんどい理由の一丁目一番地です。