『ルパン三世』シリーズの劇場最新作『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』がいよいよ公開を迎えた。本作は『ルパン三世 ルパンVS複製人間』との接点を持つストーリーとして、ファンからも注目を集めている。
今回は小池健監督に、本作におけるキャラクターの距離感、アクションの設計、そして物語について、さまざまな質問をぶつけてきた。

“続編ありき”ではなかったルパンシリーズの展開

――今回は、ルパンシリーズの原点を思わせる物語になっています。この構想はどのようにして生まれたのでしょうか?

小池監督:
そうですね。そもそものきっかけは、最初に手がけた『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』のラストにあります。あの作品の最後でマモーが登場して、「ルパンVS複製人間」のようなイメージを匂わせる構成にしたんです。その段階で、後に何か続きがあるかもしれない、という含みは持たせていました。

とはいえ、当時はあくまで『次元大介の墓標』1本で完結するつもりでしたし、「これで終わり」と思っていた部分も正直ありました。今回のように、劇場版としてここまで展開できるとは、その時点では考えていなかったですね。

――当時は「作れたらいいな」くらいの感覚だった?

小池監督:
続けられたらもちろん嬉しいなという気持ちはありましたが、まずは1本、しっかり作ろうという意識で『次元大介の墓標』を制作していました。その作品がある程度お客さんに評価していただけたので、「じゃあ、次は五ェ門で」「その次は不二子で」と、段階的に進めていく流れができたんです。

そして「いよいよルパンをどう描くか」となったときに、これまで伏線的に出してきた“マモー”という黒幕にたどり着けるようなストーリーを考えましょう、という話になりました。その時点で、クリエイティブ・アドバイザーの石井(克人)さんが、場面ごとのアイディアを詰め込んだノートを持ってきてくださって。それを元にミーティングを重ねて、ストーリーを組み立てていきました。

――シリーズの原点を描くとなると、過去のルパン作品へのリスペクトも欠かせないと思います。一方で、自分の色を出すことも当然考えるはずです。そうしたバランスはどのように意識されたのでしょうか?

小池監督:
やっぱり極力、過去作のイメージを壊さないようにというのは最初から意識していました。これはシリーズ全体を通してそうですが、今回の完結編にあたる本作でも、過去作に過度な影響を与えないように注意しました。

もうすでに出来上がっているルパン像に対して、こちらから余計な情報を足すようなことはしたくない。むしろちょっとしたフックになるような、興味を引く補足線として機能すればいい、というくらいの感覚で制作していましたね。

――小池監督のルパンシリーズとしては本作が4作目になりますが、これまでの3作と比べて、どんな違いがありましたか?

小池監督:
これまでの作品は、いずれも「ルパン一味の誰か」vs「好敵手」という構図が基本だったんですね。でも今回は違って、物語の中にちりばめた伏線や細かな要素を少しずつ回収しながら、最終的な“黒幕”にたどり着くという構成になっています。

しかもその黒幕に対しては、ルパン自身が自らの意思で挑んでいく。もちろん誘われたという側面もあるけれど、それでも自分から向かっていく形になっている。そこが、これまでとは明らかに異なる構造であり、本作の特徴でもあると思っています。

――シリーズ開始から10年が経過しました。その間に技術面でも進化があったと思いますが、映像表現において新しいチャレンジはありましたか?

小池監督:
シーンの構成や背景演出において3D表現を導入するようになったのは、この10年間での変化だと思います。3Dというと浮いて見えがちだったり、違和感が出やすいのですが、今回はその違和感が出ないようなシチュエーションをしっかり組み立てることを意識しました。

何度もテストを重ねて、「これならいける」という判断ができたシーンもありましたし、クライマックスに向かうあたりはまさにその成果が表れていると思います。そういう意味では、技術的な進化がストーリーテリングの強化にもつながった、そんな印象を持っています。

コメディ色は控えめ、しかしウィットに富んだ軽妙さも忘れずに

――次に、キャラクターの描き方についてお伺いします。今回はルパン一味をどのようにキャラクターづけしようと考えたのでしょうか?

小池監督:
今回は「ルパン一味が出会って間もない頃」という関係性を壊さないように意識しました。つまり、まだお互いを完全に信用しきっていない、一定の距離感がある関係ですね。そのため、いわゆる“ファミリー的な馴れ合い”の描写は避けるようにしました。

たとえば序盤、セスナで島に乗り込むシーンでは軽快な音楽が流れているものの、あくまで「たまたま一緒にいる」という関係性は忘れていません。このように、行動を共にしていても、深い信頼関係が築かれていないことを感じられるよう演出しました。

――過去の『ルパン三世』シリーズでは、コミカルなシーンも多く描かれてきましたが、本作ではその要素が控えめです。それも「初期の関係性」を表現するためでしょうか?

小池監督:
そうですね。コメディ要素は確かに少なめですが、ウィットに富んだ軽妙さは意識して入れています。ただ、ベタなコメディを入れてしまうと、この世界観や緊張感を壊してしまうおそれもある。だからあえて控えめにしています。むしろその“控えめさ”が、ルパンらしさをより引き立てているのではないかと思っています。

――たとえば、ルパンのキャラクター性についてはいかがでしょう? 本作では弱々しい姿や、不安そうな表情がとても印象的でした。

小池監督:
ああ、そう見えましたか。確かに今回は、フィジカル的に追い込まれる状況を明確に描きたいと考えていました。必要な場面ではルパンらしい余裕も見せますが、肉体的に消耗し、精神的にもギリギリの状態をしっかり描くというのは、これまでの作品にはあまりなかった要素かもしれません。

そのため、表情や描写にもこれまでとは異なる“追い詰められたルパン”のバリエーションを加えています。物語の中でルパンたちはどんどん追い込まれていきますし、「ついにこれが最後なのか」と思わせるような空気を演出したいという思いもありました。心情とビジュアルの両面で新しい表情を引き出す、ある意味で挑戦的なルパン像になったと思います。

――作中におけるキャラクターの“成長”という点について、意識された部分はありますか?

小池監督:
「成長」は明確なテーマにはありませんでした。ただ、ひとつひとつのエピソードを丁寧に積み重ねていくことで、自然と絆が深まっていく。その過程を描くことは大事にしていました。
例えば「ここで一歩成長した」というような象徴的な場面は描いていませんが、各キャラクターが自分なりに壁を越えていく、その積み重ねが最終話につながっていく構成になっています。前日譚としての役割も担っているので、今後他の作品とつながっていく「ピース」になれば、という意図もありました。

――シリーズの原点という位置づけから考えると、「成長」よりも「どうスタートさせるか」が重要ということですね。

小池監督:
まさにその通りです。これは成長譚ではなく、スタートラインに立つまでの物語。どこから物語が始まっていったのか、その始まりの瞬間を描くのが今回のテーマでした。

――敵キャラクターも今回、かなり存在感がありますね。特にムオムは圧倒的な強さと不気味さが印象的でした。

小池監督:
ムオムは、絶対に勝てないと感じるような最強のラスボスとして描こうという気持ちで作ったキャラクターです。ただ、それだけだと本当に勝ち目がないキャラになってしまうので、彼には「島から出られない理由」など、制約となる設定を重ねて説得力を持たせました。

――もう一人、少女・サリファもかなり不気味な存在でした。どこか無垢な雰囲気すらあるような。

小池監督:
サリファはストーリーテラー的な役割ですね。ムオムが途中で言葉を発さなくなる設定にしたので、彼の通訳としての存在です。さらに、後の「複製人間」につながるように、クローンであることが徐々に明かされる仕掛けも持たせています。
明るくて無垢、でもムオムの命令に従って淡々と行動する、悪意のない純粋無垢な人物ですね。そういうギャップのあるキャラクターにすることで、面白みが生まれるんじゃないかと考えました。

――敵キャラクターはゲストキャストの方々が演じられていますが、演技について具体的なオーダーなどはあったのでしょうか?

小池監督:
片岡愛之助さんとは、録音ブースに音響監督の清水洋史さんと僕の3人で入り、「このキャラクターはどう演じるべきか?」というところから話し合いました。

ムオムは「マモーの血を受け継いでいる」という設定があるので、「マモーっぽい神秘的な雰囲気を踏襲するのか?」「格闘にも長けた武闘派キャラにするのか?」「知的な怖さを持たせるのか?」といった可能性をいくつか提示しました。
愛之助さんはそのすべてのパターンを実際に試してくださって、最初のシーンで一番しっくりきたものを選ぶという形になりました。

――サリファ役の森川葵さんについてはいかがでしたか?

小池監督:
森川さんは本番前日に一度リハーサルを行って、彼女にとって自然な演技の形や、どんなキャラクターを演じたいのかを探ってもらいました。

実際に本番のアフレコを聞いたとき、「これは子役の声優さんかな?」と思うほど自然な子供の声で驚きましたね。現場でも本当にナチュラルな雰囲気で声をあててくださって、無邪気さのなかにどこか冷たさを感じさせる、絶妙なバランスのキャラクターを作り上げてくれました。

「こんなルパンもあるんだ」と感じてもらえたら

――本作ではアクションやバトルシーンも多く描かれていますが、どのような方針で描かれたのでしょうか?

小池監督:
やはり「シリーズの集大成」という位置づけなので、ルパン一味それぞれの活躍をしっかり描きたいという気持ちがありました。

たとえば次元については、宿敵との早打ちシーンをじっくりと描くようにしました。音を一切排した静寂の中で、古典的なガンマン対決の雰囲気を意識しています。
五ェ門に関しては、滝の上での一騎打ちといった、現実感のある剣戟を取り入れました。実際にぶつかり合う、迫力のあるシーンを心がけています。

不二子はバトルというより、ビジュアル面での存在感を強調しました。たとえば、全裸で踊るような印象的なカットや、サリファと対峙する場面など、彼女ならではのシーンでしっかりと魅せています。それぞれがきっちり役割と見せ場を持つことで、作品としてのバランスが取れるよう意識しました。

――アクションの描き方として、長尺のバトルというより、一瞬一瞬を切り取っている印象を受けました。たとえば次元なら、一発の弾丸を撃つ瞬間など。演出面でこだわった部分はありますか?

小池監督:
次元だったら「撃つ一瞬」、五ェ門なら「抜刀して斬る一瞬」。そこはすごく大事だと考えていて、丁寧に描こうと意識しました。
後半になると、ゴミ人間が大量に登場して、ルパン一味が次々と立ち向かう展開になります。そこでは単調にならないよう、それぞれのキャラクターが得意とする技や動きを生かして描いています。

――制作上で特に苦労されたパートはどこですか?

小池監督:
正直、全部が大変でした(笑)。とくにゴミ人間のシーンではCGを多用しましたが、CGの配置や動き方はすべて手描きの指示が必要なんです。カメラワークや画面構成に合わせて、背景やエフェクトの動きを細かく調整する必要がありました。

霧の表現も一筋縄ではいきません。単に「霧が舞ってます」と指示してもダメで、カットごとに「霧の方向・スピード・密度」まで具体的に決める必要があります。そういった積み重ねが画面の完成度につながっていると思います。

――キャストに関してですが、栗田貫一さんをはじめとするいつものメンバーとは、何かやり取りはありましたか?

小池監督:
特別なお願いはほとんどなかったですね。「今回は雰囲気が違いますから」というような説明もなく、これまでのシリーズで積み上げてきたルパン一味の関係値を大切にしてもらえれば大丈夫というくらいの前置きに留めました。

私のアフレコ現場でのスタイルとしては、まず音響監督の清水さんと全体のトーンを共有したうえで、各キャストがアフレコに臨みます。新規シーンを録った段階で、「小池さん、どうですか?」と尋ねられたときに、ようやく細かい言い回しなどを調整するくらいですね。

――まさに“勝手知ったる”関係性の中で、スムーズに進んだというわけですね。

小池監督:
このシリーズも10年以上続いていますし、清水さんはルパンシリーズ全般を15年以上担当されてきた方です。私の作品に限らず、すべてを把握していらっしゃるので、今回の作品の雰囲気や立ち位置も完璧に理解されている。非常に心強い存在でした。

――本作の大きなトピックとして、B’zが主題歌を担当している点がありますよね。

小池監督:
かっこいいですよね。びっくりしましたよ、まさかB’zさんがやってくださるとは。

最初は劇場公開が決まって、プロデュースチームから「小池さんのルパン、B’zさんと相性が良さそうですよね」と提案があったんです。「もし本当に可能なら、それはとても嬉しいですけど……」と話していたら、本当にトントン拍子で話が進んでいって。

B’zさん自身も「ルパンは好きで興味があった」と言ってくださって、実現したんです。仕上がった主題歌は、本当にカッコよくて、とても気に入っています。

――いわゆる「小池ルパン」と呼ばれるハードボイルドな世界観について、ご自身としては「ハードボイルド」という言葉に対してどれほど意識されていますか?

小池監督:
正直に言えば、「ハードボイルドを目指そう」と意識して作っているわけではないんです。ただ、モンキー・パンチ先生の初期の漫画には、劇画調でハードボイルドな雰囲気がありつつ、アメコミ調の要素も混じっていたりするんですね。だから、あの原点の空気感には常にインスパイアされています。

また、自分が描きたい世界観をしっかり伝えるために、背景の描写を丁寧に作り込むようにしています。そうした要素がキャラクターと合わさることで、自然とハードボイルドっぽい空気を醸し出しているのかもしれませんね。

――今回の作品は『ルパンVS複製人間』にもつながる物語ということで、「金曜ロードショーでしか見たことがない」という層にも響くと思います。その方々には、どこに注目してほしいですか?

小池監督:
僕が好きなルパンの魅力——ストーリーも、世界観も、キャラクターたちも、全部詰め込みました。これまで『LUPIN THE IIIRD』シリーズを応援してくれた方には、より深く楽しんでほしいですし、初めて見る方には「こんなルパンもあるんだ」と感じてもらえたら嬉しいですね。
そして、この作品をきっかけに、他のルパン作品にも興味を持ってもらえたら最高です。ぜひ劇場で、ルパンの新たな一面を体験してください。

LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族

公開日 : 6月27日(金)より大ヒット上映中
配給 : TOHO NEXT

原作:モンキー・パンチ ©TMS

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