雨を見るたび、彼方(かなた)に目を凝らしたくなる。この地球を見渡す遥(はる)かな眼(まな)差(ざ)しを与えてくれるSF短編集。
どの作も余韻が深い。中でも表題作は、雨の凝結核である微粒子(細菌など微生物も核になり得るそう)への着眼から、地球の上空領域に展開する秘密を解き明かし、想像を超える。
変遷する時代と変わらない営みを異界の眼(め)から捉えた作品が特に好きだ。「車夫と三匹の妖(よう)狐(こ)」は関東大震災前夜の帝都が、「ゾンビはなぜ笑う」は現代のショッピングモールに設置されたピアノが舞台だ。異種の者と人間の、どうしようもない断層と寄り添いあう哀歓が滋味深い。
「南洋の河太郎」は第二次大戦前に開設されていたパラオ熱帯生物研究所に材を取る。赴任した海洋生物学者は幼い頃、河童に助けられた記憶があった。本土の河童・沖縄のキジムナー・そしてパラオの水辺に棲(す)む者。人間たちが勝手に引いた境界線の下に、異種たちの地球規模の水脈がある。帝国主義の圧力が迫る中、学者はパラオの青年とある決断を下す。SFの枠組みで戦時下の学者の矜(きょう)持(じ)を鮮やかに描いた。(光文社、2090円)