これまでの人生を振り返ったときに、“恩師”と呼べる存在に出会ったことがある人はどのくらいいるのだろう。恩師と呼べる存在がいない身としては、先生との思い出や感謝みたいな気持ちには共感できないというのが正直なところ。それでも『かくかくしかじか』を観てみようと思ったのは、ひとえに「大泉洋が出演しているから」だった。
本作は、漫画家・東村アキコの代表作であり自伝的作品を映画化したもの。自分は絵がうまいと本気でうぬぼれているぐうたら高校生・林明子(永野芽郁)が、竹刀片手に罵倒してくるスパルタ絵画教師・日高健三(大泉洋)との出会いから別れまでの9年間の絆を描いたストーリーである。
『海月姫』『東京タラレバ娘』などで知られる漫画家・東村アキコの『かくかくしかじか』が、永野芽郁主演、大泉洋共演で映画化されること…
監督を務めたのは、YOASOBIや藤井風などさまざまなアーティストのMVなども手掛ける関和亮。脚本は原作者である東村が担当。さらに東村は美術監修も担っており、「連載を休んでロケハンから撮影から全て参加」というのだから、本作に並々ならぬ思いがあることは想像に容易い。そして、そんな東村のリクエストキャスティングだったのが、恩師・日高先生役の大泉なのだ(※)。

大泉は演劇ユニット・TEAM NACSのメンバーの1人。コメディーからミステリーまで演じる役の幅は広く、ドラマや映画、舞台など活躍の場は多岐に渡る。2020年から3年連続で『紅白歌合戦』(NHK総合)の司会を務め、さらに2024年には歌手として自身の楽曲をまとめたベストアルバム『YO OIZUMI ALL TIME BEST』をリリースするなど、まさにオールラウンダーな人物だ。
もともと北海道を拠点に活動していた大泉だが、『救命病棟24時』第3シリーズ(2005年/フジテレビ系)への出演をきっかけに、東京での俳優業をスタート。その後『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(2006年/フジテレビ系)、『ハケンの品格』(2007年/日本テレビ系)など話題作に出演し、着実に俳優としてのキャリアを重ねていった。
これまで数々のエンターテインメント作品で日本中に笑いと感動を提供してきた俳優・大泉洋。現代劇から時代劇まで、そして、コメディ、ミ…
東直己のミステリー小説『ススキノ探偵』シリーズを映画化した『探偵はBARにいる』は大泉の代表作となっている。2011年に第1作が公開。2013年には第2作、2017年にも第3作と続いている。5月には、東京・銀座にある丸の内TOEIの閉館にあわせた特別興行「さよなら 丸の内TOEI」にて全3作が一挙上映され、舞台挨拶にも登場。今も根強い人気を誇っている。
同作は北海道・札幌の歓楽街ススキノを拠点とする探偵(大泉洋)と相棒兼運転手・高田(松田龍平)が、さまざまな事件を解決していくという探偵映画。毎作登場するヒロイン(1作目は小雪、2作目は尾野真千子、3作目は北川景子)からの依頼を解決するも、結局、結ばれないというお決まりのパターンなのだが、実は結構シリアスで暴力的な描写も多い。そんな物語において、大泉と松田のコメディ感ある掛け合いは、いい意味で気が抜ける。本人たちのイメージと役柄のマッチ具合が絶妙であることこそ、同シリーズが人気である理由の1つのように思う。