朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)が節目となる第50話を迎えた。この回は、嵩(北村匠海)が戦地へと送り出される御免与町でのパート、入隊した嵩の戦争パートと大きく2つに分かれている。
NHK連続テレビ小説『あんぱん』は第10週に入り、戦争がますます激しくなってきた。脚本を担当する中園ミホは、「私はやなせさんを描…
「ご武運をお祈りします。お国のために立派なご奉公を」とのぶ(今田美桜)や女中のしん(瞳水ひまり)らから口々に言われ、複雑な表情を浮かべる嵩。迎えた出征の日。商店街から激励を受ける嵩に、千代子(戸田菜穂)は寛(竹野内豊)の遺影を抱き、婦人会の民江(池津祥子)から促されるかたちで「お国のために、立派に……」と言葉をかけようとする。

そこに走り込んできたのは教職を抜け出してきたのぶ、そして御免与町にいるはずのない登美子(松嶋菜々子)だった。「死んだらダメよ!」「絶対に帰ってきなさい! 逃げ回ってもいいから。ひきょうだと思われてもいい! 何をしてもいいから! 生きて、生きて帰ってきなさい!」と涙ながらに声を張り上げる登美子。それにのぶも「嵩、必ずもんてき! お母さんのために、生きてもんてき! 死んだら承知せんき!」と続けた。
息子を立派に送り出すことが“母親らしい”務めだとされるこの時代に、登美子やのぶの行動は反戦主義者、非国民と呼ばれるものだった。第49話の座間(山寺宏一)を交えた銀座でのシーンで、嵩は「兵隊に向いてない」と頑なな登美子に、嵩は「ひと言くらい母親らしいこと言ってくれても」と母の言葉、存在自体を拒んでいた。それでも登美子は御免与町を訪れ、嵩の無事を祈る。

これまで登美子は、嵩を翻弄する“毒親”として視聴者からも忌み嫌われる存在であったが、ここに来て、時代に流されずに本心を伝える数少ない人として、現代に生きる我々にとっては真っ当な人間に見える。それが“母親らしい”、息子への愛情の示し方だと。当時、同調圧力の中で、人々の考え方が捻じ曲げられていっても、登美子だけは信念を曲げなかった。登美子に続くかたちで、のぶが嵩に言った「生きて帰ってきて」という思いは、夫である次郎(中島歩)に伝えられなかった言葉。涙を流し、嵩に微笑むのぶの表情から、シーンは暗転し、戦争パートへと突入していく。