今回比較する「Fire HD 10」。上段は左が第5世代、右が第9世代。下段は左が第11世代(Plus)、右が第13世代

 Amazonの「Fire」と言えば、2012年にKindleストアが日本に上陸して以来、モデルチェンジを繰り返しながら現在まで続いている、同社のメディアタブレットだ。当時は「Kindle Fire」という名称だったのがその後「Fire」へと改められ、現在は8型モデルと10型モデルを中心に、およそ2年に1回のペースで新製品がリリースされている。

 このFire、コストパフォーマンスの高さがなによりの売りだが、その具体的な性能については、スペック表を見てもはっきり分からないのが難点だ。新モデルが登場しても、従来モデルからどの程度進化したか分からず、いざセールでお得な価格で販売されていても、買い替えるべきか判断できず困ることもしばしばだ。

 今回は、このFireの10型モデル「Fire HD 10」に絞り、初代にあたる2015年発売のモデルから、現行モデルの第13世代にいたるまで、節目となった4つのモデルについて、ベンチマークを始めとするパフォーマンスの違いを比較してみた。製品の買い替えにあたって参考になれば幸いだ。

まずは現行の第13世代を紹介

第13世代「Fire HD 10」。ホーム画面とおすすめ画面を左右スワイプで切り替える、Fireおなじみの画面。インカメラが長辺側にあるなど横向きを前提としたボディデザイン

 今回の比較にあたって基準となる現行モデルは、2023年に発売された「Fire HD 10 第13世代モデル」だ。解像度は1,920×1,200ドットと、10型クラスのタブレットとしては標準的。メモリは3GBで、ストレージ容量は32GB/64GBの2種類。さらに最大1TBまでのメモリカードをサポートしている。重量は439gと、10型クラスの中では比較的軽量で、本製品の売りになる部分だ。

イヤフォンジャックを搭載するのはFire HD 10歴代モデル共通。リアカメラは突起のある仕様に改められた

 実売価格は1万9,980円からとリーズナブルだが、指紋認証や顔認証といった生体認証に対応しないほか、USB Type-Cポートは急速充電に非対応であるなど、2023年に初登場した上位モデル「Fire Max 11」に比べると欠けている機能も多い。いまどきのタブレットに最低限必要なスペックを維持しつつ、価格の安さを優先したモデルという認識が正しい。OSは最新のFireOS 8に対応している。

アプリはAmazonアプリストアからダウンロードする。これは「ソーシャルネットワーク」のカテゴリだが、Google PlayストアやApp Storeでは「あって当たり前」のアプリがないせいで、アプリの顔ぶれは独自色が強い

 ちなみに従来モデルにない特徴として、背面カメラが突起のある仕様になっている。Fireの背面カメラは画素数こそ低いものの、ひっかかりのないフラットな設計が特徴だったが、これが覆された格好だ(前述のFire Max 11を除く)。これで画素数が向上していれば分かるのだが、1つ前の第11世代と同じ5MPで、少々首をひねる仕様だ。

 また本製品に限らずFireシリーズ共通の特徴だが、Google Playストアには対応しておらず、アプリについては独自のAmazonアプリストアからのみインストールできる。アプリのラインナップは決して多くないことに加えて、古いまま更新が行なわれていなかったり、インストールできても起動しないアプリも中には存在している。

 そのため、Kindleやプライムビデオなど、Amazonのコンテンツ専用で使うのであれば問題ないが、そのほか幅広い用途を考えているのであれば、一般的なAndroidタブレットとの比較においてはウィークポイントとなりうる。Fireを選ぶにあたり、前提として知っておきたいところだ。

古いモデルでも実用レベルで使える動画鑑賞

 最後に動画鑑賞についても比較してみたので違いをまとめておこう。

 Fireタブレットはいずれも著作権保護技術Widevine L1をサポートしており、動画配信サービスの再生も高画質で行なえる。今回はプライムビデオで検証したが、Fire HD 10としては初代にあたる第5世代であっても、いったん再生を始めてしまえば、ブロックノイズなど低スペック端末にありがちな症状も発生せず、いたって快適に再生できる。

10年前のモデルである第5世代でもプライムビデオは問題なく鑑賞できる

 また本体を横向きにすれば左右ステレオで再生できるので、音声についてもこのサイズのタブレットとしては一定の水準を保っている。第5世代から現行モデルの第13世代まで聴き比べてみたが、十分な品質で、8型モデルと比べても音の拡がりを感じる。いずれのモデルもイヤフォンジャックを搭載しているので、有線イヤフォンが使えることを、プラスに捉える人も多いのではないだろうか。

 こうしたことから、電子書籍やWebブラウジングで、パフォーマンス的な問題から引退を考えているモデルであっても、動画再生機へと転用させれば、延命させることは可能だ。用途があるうちは買い替えず、骨の髄までしゃぶり尽くしたいという人におすすめしたい。

 ただし唯一、第5世代についてはあまりおすすめしない。再生が始まってしまうと快適なのだが、動作が重すぎるせいで再生ボタンを押す画面にたどり着くだけで一苦労なほか、画面の解像度が歴代モデルの中で唯一低いこと、またNetflixはAmazonアプリストアに登録されているアプリが古すぎて、新しい「広告つきプラン」の再生に対応できないなど、問題が山積みだからだ。

NetflixはAmazonアプリストアに登録されているアプリが古すぎて、最近追加された「広告つきプラン」の再生に対応しない。ちなみにダウンロード視聴でもエラーが出る

話をややこしくする「Showモード」廃止問題

 以上をまとめると、第5世代は実用面で難があり、買い替えは急務。第9世代と第11世代は現行モデルと比べて挙動にそれほど差はないものの、最新のFireOS 8に対応しないこともあり、タイミングを見計らって新しいモデルに入れ替えていくのが無難、といった結論になる。どの用途であれ、結論はおおむね同じだ。

 ただし話をややこしくする問題が1つある。それはFireタブレットの売りだったAlexaの「Showモード」が、2024年11月の時点で最新のFireOS 8でのみ廃止され、利用できなくなったことだ。

 該当製品の画面上でのアナウンスはあったとはいえ、これまでセールスポイントだった機能を製品ページでの告知なくひっそり削除するのは個人的にはどうかと思うが、さらに話を複雑にしているのは、廃止されたのは現時点で最新のFireOS 8だけで、従来のFireOS 7に対応したモデルは、いまだにShowモードを利用できることだ。

ヘルプ&カスタマーサービスのページでは、Showモードについて「廃止」という文言はなく、利用可能な端末としてFireOS 8非対応の従来モデルを案内するに留まっている。機能廃止に直接言及しているのは、ユーザーからの質問に答えた同社デジタル&デバイスフォーラムくらいだ

 「従来のFireOS 7に対応したモデル」というのは、今回取り上げた機種では第9世代と第11世代が該当する(これ以外では第7世代もこれに当たる)。これらのモデルでは、約半年が経過した現在も、Showモードが依然利用できている。これに対して現行の第13世代モデルは、Showモードは機能自体が存在しないことになっている。

第9世代では本稿執筆時点(2025年5月)でいまなおShowモードが利用できる

Alexaの設定画面。Alexaを有効にしていると「Showモード」の項目が表示される

こちらは第13世代の同じ画面。Alexaを有効にしても「Showモード」は表示されない

 つまり第9世代と第11世代については、Showモードを使っている限りは買い替えるべきではないという、本稿で見てきたのとは真逆の結論になってしまう。

 Amazonスタッフによるユーザーフォーラムへの投稿によると「Showモードの廃止に伴いデバイスダッシュボードへのアクセスはAlexaアプリからのみ」可能になるとのことで、復活の目はなさそうだが、Fireタブレットの買い替えにあたってこうした点にまで気を配らなくてはいけないのは、ユーザーとしてもつらいところ。ともあれ、既存モデルを所有している人は、思わぬ落とし穴ということで気をつけるべきだろう。

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