NHK連続テレビドラマ小説『あんぱん』第9週の冒頭で、ついに柳井嵩(北村匠海)の伯父であり、父のような存在でもあった寛(竹野内豊)が急逝する。胸をおさえたり、往診で忙しくする姿が映し出されていたので覚悟はしていたものの、魅力的な人物が去ったことの喪失感は大きい。

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NHK連続テレビ小説『あんぱん』で竹野内豊演じる柳井寛が登場すると、セリフの一つ一つが心に響く「名言」として余韻を残し、その存在…

 主人公・朝田のぶ(今田美桜)の父・結太郎(加瀬亮)もすでにこの世を去っており、これで主要人物2人の父親がドラマから退場したことになる。出演期間は短かったものの、一つひとつのセリフが忘れがたく、その父親像が物語の礎になったことは確かだろう。

 ところで、演じた加瀬亮と竹野内豊は、意外にも朝ドラは初出演だった。この2人が父親というポジションで本作に起用された狙いについて考察してみた。

 竹野内豊と同じ年の筆者としては、やはり出会いは『ビーチボーイズ』(フジテレビ系)だ。トレンディドラマ全盛期のモデル出身俳優とあって、やや穿った見方をしていたことは否めない。あまりにもカッコよ過ぎて、「俳優としてはどうなのだろうか?」というような気持ちになったことは確かだ。次に竹野内の存在が大きくなったのは、『義母と娘のブルース』(TBS系)、そして『イチケイのカラス』(フジテレビ系)のあたりである。もちろん、その間にも多くのドラマに出演しているわけだが、40代になり、竹野内はセカンドブレイクしたように感じる。

 『イチケイのカラス』出演時のインタビューで、竹野内自身、「30代半ばで、はたから見たら仕事は順調なのに、自分の中では役者をやることにすごく悶々とした感覚があった」と語っているが、転機になったのは、NHKドラマ『帽子』(2008年)に出演している緒方拳さんの芝居だったという(※)。

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 緒形さんの芝居を見たときのことを「役者の魅力っていうのは、お芝居の経験とか知識とかテクニックとかそういうことじゃなく、その人がどう生きているかってことに尽きるんだと、痛感したんです」と振り返り、「役の中に、生き様というか、辿ってきた人生そのものが投影されていて、言葉では言い表せない魅力に溢れていた。緒形さんが素晴らしかっただけでなく、人間って素晴らしいと感じましたし、自分をこんな気持ちにさせてくれる役者というお仕事は、私が考えていたよりもずっと素晴らしい職業なのかもしれない……そう思えたんです」と明かす竹野内。

 また、役者という仕事の魅力についてもこう語っている。

「『日常を精一杯生きること』が、役者の一番の魅力になるのではないかということ。役の中に、自分の生き様をさらけ出せるかどうか」「役者の醍醐味というのは、そういうことなのかなとも感じますし、同じことをやっていても、自分が演じるベースとなるものには、自分が歩んできた人生が、きっと滲み出るものだと思うから。そこがおそらく役者の面白さ」

 50代になってから、より一層輝きを増したように見える竹野内だが、イケメンからイケオジになる間に、俳優として苦悩し、生き様をさらけ出してきたからこそ、今があるのだろう。

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 『あんぱん』の柳井寛を演じるにあたっては、『あんぱん おたのしみブック』(東京ニュース通信社)の中ではこうコメントを寄せた。

「寛さんは医師として多くの人の人生を看取ってきた。嵩に対しては、常に元気づけるようなことを言いながらも、人生の明るいだけじゃない側面もちゃんと分かってて、そういう死生観を持ってる方だと思うので、そこを踏まえた上で一言ひとことを大切に伝えたいです」

 モデルのやなせたかしに強い影響を与えた伯父役として、「人生とは何か」を伝えられる役者としてキャスティングされたのにも頷ける。

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