映画『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』は、第2次世界大戦における様々な戦禍をカメラに収めた、『VOGUE』のモデル出身の写真家リー・ミラーのバイオピック(伝記映画)だ。
リーの姿は、浴室で撮られた裸体のセルフ・ポートレイトで知られるが、その浴室は、ミュンヘンにあったアドルフ・ヒトラーの家のものだった。偶然にも、この写真が撮影された日の夜、ヒトラーは、前日に正式に妻となったエヴァ・ブラウンとともにベルリンの総督地下壕で自殺した。この歴史的事実から、リー・ミラーの姿は、ヨーロッパ戦線のクライマックスとなったヒトラーの自殺とともに記憶されることになった。
……と、もっともらしく紹介してみたが、実は、リー・ミラーの名を初めて知ったのは映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を観た時だった。『シビル・ウォー』の主人公の報道写真家リー・スミスのモデルがリー・ミラーだったのだ。そこからリー・ミラーについて興味が湧いたことが、本作を観たきっかけだった。
だから、『リー・ミラー』を観た後、映画では描かれなかったモデルやミューズ時代のリー・ミラーについて調べてみたところ、本当にパブロ・ピカソやココ・シャネル、ジャン・コクトーといった1920年代から1930年代にかけての著名なアーティストたちと親交があったことに驚いた。ニューヨークのファッション界だけでなく、ダダやシュルレアリスムで湧いていたパリの最先端のアート界のインサイダーのひとりだったのだ。まさか、有名なマン・レイの、空中に「唇」が浮かんだ絵──タイトルは《天文台の時刻に―恋人たち》──の、その唇のモデルがリー・ミラーだったとは。それほど逸話が多ければ、『シビル・ウォー』を監督したアレックス・ガーランドがなにかと気に掛けてきたのも納得できる。
『シビル・ウォー』の冒頭で主人公のリー・スミスは、マンハッタ
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