全国各地で書店が姿を消していく中、個人店主が独自の視点で本を仕入れる「独立系書店」が本好きの支持を得ている。ネットで本が買える今の時代、書店が生き残るためには何が必要なのか。ノンフィクションライターの三宅玲子さんが取材した――。
「東京の本屋」の中に「鳥取の本屋」?
ここは本屋Title。JR荻窪駅北口から歩いて13分。青梅街道沿いに店を構える独立書店だ。この春、2階にあるギャラリーに立ち現れたのは、かつて「書店員の聖地」と呼ばれた、鳥取市の書店である。
<本屋的人間という言葉が好きだ。「いのち」を使い切る、その手立てとして「本」しか思いつかない人間のことだ。>
<「身の丈」は「狭い」ということだ。狭いから声が遠くまで届かなくていい。声が大きいと、届かなくていいところまで届いてしまう。>
白い壁には、定有堂書店の店主・奈良敏行さんの新著『本屋のパンセ 定有堂書店で考えたこと』(作品社)とミニコミ誌『音信不通』から抜粋した言葉が貼られていた。
本屋の中に本屋。入れ子みたいな展覧会だ。Title店主の辻山良雄さんが、13坪の本屋の2階に、敬愛する定有堂書店を蘇らせた。
遠く離れた2つの独立書店の共通点
定有堂書店はもうない。1980年に鳥取市の目抜通りに開業以来、43年にわたり鳥取の本読みたちの心を潤し、2023年春、惜しまれつつ閉じた。
参照記事:なぜアマゾンではダメなのか…駅前の名物書店「定有堂」の閉店に鳥取の本好きが悲鳴をあげている理由
私は、各地で根を下ろす独立書店に話を聞いて歩き、『本屋のない人生なんて』(光文社)にまとめたことがある。訪ねた12の書店はそれぞれに、その土地で、代わりのきかない、心を休める場所をひとびとに差し出していた。
営業形態や力点は、土地のひとたちの求めや書店主の好みを反映して異なっていたが、その中でも定有堂とTitleには共通するところが多かった。たとえば、路面店であること、人文書の選書が充実していること、雑誌を取り扱う総合書店であることなど。
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