
映画『教皇選挙』より。写真:Collection Christophel/アフロ
日本では3月から上映スタートした、アカデミー賞受賞作品である映画『教皇選挙』。いまだ公開中というタイミングで当時現職のフランシスコ教皇が逝去し、現実世界でも新教皇を選出する「コンクラーベ(教皇選挙)」が行われるとあって、世界中で注目度が急上昇。日本でも急遽上映館が増やされるなど、あまりにもタイムリーすぎて、「“持ってる”なあ」と思わされました。
そんな『教皇選挙』、一体どんな映画なのでしょう。アカデミー賞では美術賞や衣装賞など計8部門にノミネート(実際に受賞したのは脚色賞)。ミケランジェロのフレスコ画『最後の審判』が描かれたシスティーナ礼拝堂に真紅のカーペットが敷かれ、そこに真っ赤な法衣を纏った聖職者たちが集う圧巻のビジュアル。私は絶対に映画館で観ると決めていたので、コンクラーベが行われた5月7日の直前に、滑り込みで鑑賞してまいりました。
※この記事は映画のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
携帯の電波も届かないよう完全に礼拝堂を外部から遮断し、世界各地から集まった100名以上の枢機卿たちから、3分の2以上の票が集まるまで投票が続けられるーー。そんな独特なルールが日本語の「根比べ」とも一致するコンクラーベが、タイトル通り、この映画のテーマ。物語は、世界に14億人以上の信者を有するカトリック教会の最高指導者で、バチカン市国の元首でもあるローマ教皇が逝去し、レイフ・ファインズ演じるローレンス枢機卿が、新教皇を選ぶ教皇選挙を執り仕切ることになるところからスタートします。

映画『教皇選挙』より。写真:Photofest/アフロ
ローマ教皇の次に位の高い“枢機卿“になるくらいだから、基本的に登場人物はほぼ全員ご高齢のおじさま(というか、おじいちゃま?)。しかも舞台はシスティーナ礼拝堂と、枢機卿たちが宿泊する「聖マルタの家」のみ。……そう聞くと地味な作品と思うかもしれないけれど、ところがどっこい。これは最後までドキドキハラハラさせられる、男たちの仁義なき権力争いを描いた、密室ポリティカル・ミステリー劇なのであります。
中絶反対・男尊女卑思想の超保守派イタリア人・テデスコに、宗教やジェンダーのダイバーシティを掲げる急進リベラル派のアメリカ出身ベリーニ、一見無難そうでソフトな穏健保守派トランブレ、初のアフリカ系教皇を目指すアデイエミ、そして遅れてやって来た、教皇から密かに枢機卿に任命されたという、メキシコ出身のベニテス。そんな野心家揃いの枢機卿たちの間で板挟みになる、中間管理職のようなローレンス枢機卿。
それぞれの思惑が行き交い、策略が謀られ、票がひっくり返されていく。ブラックユーモアに満ちた歯切れのいい台詞の応酬に、全く中弛みすることなく、どんどん惹き込まれていきます。また冒頭で、ある候補者に関する重大な過失の密告がもたらされたことで、ローレンス枢機卿は疑心暗鬼に。一体誰が真実を語っているのか。このミステリー仕立ての脚本が実に巧妙で、最後まで誰が選ばれるのか予測不能です。
WACOCA: People, Life, Style.