アメリカでは多くの若者が一度はロックスターになることを夢見る。しかし、その夢が現実のステージに立つことなく、エアギターを披露する程度で終わる人も少なくない。振り返ってみれば、それで良かったと感じることもあるのだろう。ザ・ウィークエンドことエイベル・テスファイが主演・共同脚本を務める映画『Hurry Up Tomorrow(原題)』を見ると、世界的な音楽スーパースターとしての生活がいかに過酷かが伝わってくる。
ザ・ウィークエンド主演映画『Hurry Up Tomorrow』レビュー:自己陶酔が過ぎる感傷劇
『Hurry Up Tomorrow』では、スーパースターの華やかな表舞台とは裏腹に、孤独や苦悩が繰り返し描かれる。劇中、テスファイは幾度となく泣き、その姿は水分補給を心配してしまうほど。物語の後半には、テスファイがベッドに縛り付けられ、ジェナ・オルテガ演じる狂気じみたファンが彼の楽曲に合わせて踊りながら、歌詞の意味を解説する場面もある。口を塞がれたテスファイは、ただそれを見つめることしかできない。
監督はトレイ・エドワード・シュルツ(『WAVES/ウェイブス』『イット・カムズ・アット・ナイト』)。彼の得意とする不穏なムードは健在だが、今回はその演出がやや過剰に感じられる。オープニングクレジットだけでも30分近く続き、その前にはストロボ効果の警告や短編ミュージックビデオが挿入される。さらに、同名のアルバムのプロモーション映像まで加わり、映画としてのテンポが損なわれている。
物語はテスファイが元恋人(声の出演:ライリー・キーオ)との別れに苦しむ様子を中心に展開する。彼は復縁を望み、何度も彼女の留守電にメッセージを残すが、返事はない。そのストレスから声にも悪影響が出てしまい、医者からは「声を休めるべきだ」と忠告される。しかし、彼の友人兼マネージャーのリー(バリー・コーガン)は、その忠告を無視して薬を勧める。
もう一人の主要キャラクター、アニマ(ジェナ・オルテガ)は、物語の中盤で登場する。彼女は冬の荒涼とした風景の中で一軒家を燃やすシーンで現れ、その後ザ・ウィークエンドのコンサートに現れる。二人は夜の街で楽しい時間を過ごすが、次第にアニマの行動は不穏さを増していく。
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