
『ナタ転生』©︎Light Chaser Animation Studios
コロナ禍はもちろん中国においても映画業界に大きな打撃となり、映画業界は不況に陥り、未だ抜け出せてはいない。しかしそんな中でもアニメはいくつかヒット作を生み出した。2021年2月に公開された『ナタ転生』(原題:『新神榜 哪吒重生』)は、劉慈欣作の小説『三体』から端を発した初のSFブームの渦中にあった中国で、サイバーパンクをテーマにした意欲作である。2030年代の上海を模した近未来都市で、ナタの生まれ変わりである青年が宿敵とバイクで戦う物語、全編の90%にわたるカットすべてに特殊エフェクトを掛けた本作は鮮烈な印象を残した。
メガホンをとった趙霽は、全国に先駆け中国伝媒大学に設立されたアニメーションとデジタルアート学院を2005年に卒業した若手で、まさに政策の恩恵を受けた第一世代である。彼は2019年に公開されたワーナーブラザーズとの初の共同制作3Dアニメ『白蛇:縁起』(2019年)でもメガホンを握っている。『白蛇』はプロジェクト開始から上映まで3年掛かり、予算や人員不足に悩まされたが製作費8000万元で興行収入4.69億元と健闘、日本でも公開され、2021年には監督を変えて続編(『白蛇2:青蛇劫起』)も公開された。
この趙霽を擁する追光動画は今もっとも注目を集める制作スタジオの一つだろう。上記2作だけではなく、2023年に制作した『長安三萬里〜思い出の李白〜』(原題:『长安三万里』)は168分と中国史上最長のアニメ映画にも関わらず18.24億元の大ヒットとなった。李白を中心とした唐代の詩人の群像劇という今までアニメで描かれることのなかった題材で、豪放磊落でスケールが大きく、どこまでも広がる李白の詩の境地をアニメーションで表現し、まさに中国アニメの新たな可能性を感じさせる作品である。
この2023年には、『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』の田監督による8年ぶりの待望の新作『深海之馭海人』もある。再婚した父親の家庭に馴染めずにいた少女が、旅先の船で母親の声が聞こえて海に飛び込むと、そこには不思議なレストランがあり……という、アクションシーン満載の『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』とはガラッと作風を変えた、童話のようなストーリーと万華鏡のような美しい映像で、興行収入9億元と商業的にも成功した。

『雄獅少年/ライオン少年』©BEIJING SPLENDID CULTURE & ENTERTAINMENT CO.,LTD ©TIGER PICTURE ENTERTAINMENT LTD. All rights reserved.
日本でも知名度の高い『雄獅少年/ライオン少年』(原題:『雄獅少年』/2021年)にも触れておかなければならない。孫海鵬監督は田監督と同じ1970年代生まれ、大学で美術を学び、新卒でアニメ制作会社に就職している。初のオリジナル作品は肉まんと寿司が戦うというブルース・リー『ドラゴン怒りの鉄拳』のパロディ。この『雄獅少年』は貧しい少年が獅子舞を通して仲間を得て、成長していくストーリーだが、どことなくチャウ・シンチーの映画を彷彿とさせる。実写のようなリアルさを追求した3Dで、地方色の濃い作品となっている。
中国の伝統芸能である獅子舞の演武に挑む少年たちの熱いバトルと成長を描く、孫海鵬監督による中国のCGアニメーション映画『雄獅少年/…
世界のアニメ史を塗りかえた『ナタ:魔童の大暴れ』

『ナタ 魔童の大暴れ』プロデュース&製作:可可豆動画 彩条屋影業
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』以降、中国映画界には劇場版アニメが定着し、欠かせない存在となった。特に1月や2月、つまり春節の時期にいわゆる「お正月映画」として必ずアニメが公開されるようになったが、2019年に50億を超えた『魔童降世』ほどのメガヒットはなく、映画不況を打開するほどの作品が出ることはないだろうと思われていた。しかしその続編である『ナタ:魔童の大暴れ』が初週で31.31億元、4月1日時点で150億元、動員数3.16億人という世界のアニメ史を塗りかえるとてつもない大ヒットとなった。
そもそも中国アニメ最大のヒットとなった『魔童降世』の続編という期待の高まる作品であったが、まず中央電視台が大きく宣伝したことは外せない。『魔童の大暴れ』がヒットしているのを見て大々的にPRを始め、普段アニメを観ない層や、親子連れが映画館へ足を運ぶようになった。
ナタが過酷な運命を切り開き、人間的にも成長していく物語だが、中心にあるのは伝統的な親子関係である。少年の成長に親は付き添い、時に自らを犠牲にする。子は成長し自立するが、親には絶対に逆らわず、許可なしに家を出ることもない。春節に何よりも家族団欒を重んじる中国で、家族で安心して観れるストーリーと、春節にふさわしい、3DCGで描くとにかくド派手でスケールの大きなアクション。一度観たくらいでは何が起こっているのか観きれないほどさまざまな要素がこれでもかと詰め込まれ、テーマパークのアトラクションのように何度も観にいくリピーターが続出し、コロナ以降、閉塞感が続く中国で、「国産アニメがついにこのレベルまで来た」というカタルシスさえ感じられる作品となった。
『魔童の大暴れ』以降、映画館はまたひと足が途絶えたと言われている。しかしここまでのヒットが出た以上、中国アニメにはより多くの人材が集まるだろう。今まで以上に多くのジャンル、多くのテーマでバラエティ溢れる作品を作れる環境になることを期待したい。
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