こうした空気のズレを少しでも和らげるために、応援上映の場づくりに工夫を凝らす作品も増えてきた。そのひとつが、上映前にマナーを共有する動画の存在である。

【FILM RED】声が出せる応援上映4つの約束 by バルトロメオ

 応援上映の先駆けとして知られる『KING OF PRISM』シリーズでは、「4つの約束」と題したマナー動画を導入し、観客のテンションを高めながらも鑑賞空間の方向性を丁寧に“整える”工夫がなされていた。近年でも『ONE PIECE FILM RED』や『「ツキウタ。」劇場版 RABBITS KINGDOM THE MOVIE』、『劇場版すとぷり はじまりの物語〜Strawberry School Festival!!!〜』など、応援上映作品では同様の取り組みが相次いでおり、その重要性は広く認識されつつある。

『キンプリ』は日本の映画界に広がる“応援上映”の先駆者的存在? 観客を巻き込むための様々な工夫

『KING OF PRISM』シリーズの最新作である『KING OF PRISM-Shiny Seven Stars-』が3月2…

 どこで声を出していいのか、何がNGなのか。そうした情報をマナー動画であらかじめ伝えることで、初めて参加する観客も安心してその場に加わることができる。動画に合わせて声を出すことで場の空気があたたまり、上映前から自然と一体感が生まれるのも大きな魅力だ。

 ただし、こうした取り組みがなされている作品はまだ一部に限られており、すべての応援上映で「祭り」と「鑑賞」のバランスがうまく取れているとは限らないのが現状である。

 応援上映における理想的な空間とは、作品へのリスペクトと観客同士の一体感が共存することだ。声援や拍手、リアクションといった“祭り”の盛り上がりが、作品の世界観や演出と調和してこそ、応援上映ならではの高揚感が生まれる。だがその一方で、過剰な叫び声や私語が作品の鑑賞体験を妨げてしまえば、それはもはや「応援」とは言いがたい。観客一人ひとりが“観る”という基本の姿勢を忘れずに楽しむことで、場の熱量もまた、健全に保たれていくはずだ。

 そして冒頭でも触れた通り、今後のトピックスとして注目されるのが、まもなく公開を迎える『隻眼の残像』だ。応援上映の実施情報はまだ発表されていないが、近年の『名探偵コナン』シリーズでは、発声可能な応援上映に加え、自動制御ペンライトによる演出を取り入れた特別バージョンの上映も行われており、“応援上映の先駆け”的な存在となっている。おそらく今回も応援上映が行われると予想されるなかで、そのあり方を通じて、応援上映の“今”が垣間見えるかもしれない。

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