Interview & Text:小松香里
Photo:大城為喜
Make-up:Yuko Nozaki
Hair:Yuta Kitamura
Stylist:Shohei Kashima
Stylist Assistant:Rei Ohtani
「女性をエンパワーメントする」というテーマでYouTubeが主宰するカンファレンス【YouTube Japan Women in Music with ちゃんみな supported by Billboard Japan】。最新回のゲストスピーカーとして登壇したのはラッパー/シンガーのちゃんみな。貴重な話を聞こうと集まった音楽業界で働く多くの人々を前に、プロデューサーを務めたガールズグループオーディション【No No Girls】のことや自らの音楽人生のこと、昨年経験した第一子出産のこと、今の社会と音楽業界のことなどさまざまなことを話し、いくつもの考えるきっかけを与え、喝采を浴びていた。
「美人」ではルッキズムに悩む人々を救い、「RED」では人種差別を受けた憎しみを愛に変えた。女性だけに限らず、時代の代弁者として支持されるちゃんみなに、トークセッション直後に話を聞いた。
新しいエネルギーが生まれてきている
――今、日本の音楽をどんな風に感じていますか?
ちゃんみな:私はさまざまな国の人々と楽曲を作ったことがありますが、日本人のクリエイターはとても独特だし繊細です。すごく職人気質なんですよね。結果、とてもユニークな音楽がたくさん生まれていると思います。
――【No No Girls】のプロデューサーからHANAのプロデューサーになったことで何かマインド面の変化はありましたか?
ちゃんみな:今は目の前のことに無我夢中で取り組むことに精一杯なので、変化があったかどうかはまだわからないですね。ただ、HANAのメンバーに対してより大事なことをちゃんと言うようになりました。プロとして必要な姿勢や意識について、オーディションの時よりは少し厳しく伝えています。
――プロになったことで一番変わらなきゃいけないと思っていることは何ですか?
ちゃんみな:人に対してちゃんと目を見て感謝を伝えることです。プロのアーティストとして、した方が良い苦労としなくて良い苦労があると思っています。しなくて良い苦労はできるだけさせたくないですが、した方が良い苦労はした方がいい。私はデビュー当初月給5万円くらいで、母にお金を借りたり、他からも借金をしたりして、自分の衣装やダンサーさんの衣装を購入していました。メイクも自分でしていたので、汗でどんどんメイクが落ちていくと自分で直していて。そういう経験をしたおかげでスタイリストさんやメイクさんに心から感謝するようになりました。
HANAには最初からスタイリストさんもメイクさんも付いていますが、その環境は当たり前ではありません。「周りの人全員が自分たちのために頑張ってくれているということをしっかり認識しましょう」という話をよくしています。人に感謝を伝えられるタイミングは限られているんですよね。自分に対して何かをしてくれた人だとしても、次いつ会えるかわからない人ばかりです。なので毎回ちゃんと目を見て「ありがとうございます」と感謝を伝える。そうすることで「『ありがとう』って伝えられなかった」という後悔を減らすこともできます。
――今はプロデューサー、アーティスト、母という3つの軸を中心に生活されていると思いますが、一年前と比べてどう生活スタイルは変わりましたか?
ちゃんみな:全然寝られていません(笑)。
――そうですよね…。スケジューリングをする際にどんなことを大事にしていますか?
ちゃんみな:その都度プライオリティは変わってきます。例えば、子どもの保育園のことでやらなきゃいけないことがある時期はそれを優先しますし、HANAのデビュー月はそれを優先しますし、自分のツアーが近づいてきたらそれを優先します。すべてのことのプライオリティが高いので困ってしまいますが、できるだけうまく時期をずらしたりして何とかやっています。私は長期的な目標やスケジュールを決めるタイプなので、HANAのみんなともこの先5年間のビジョンを共有していて、そこから逆算してスケジュールを決めています。その上で自分の活動スケジュールを組んだり、忙し過ぎて子どもと過ごす時間がないと思ったらまとめてお休みを入れたりしてバランスを取っています。
私は何か自分へのご褒美がないと頑張れないんですよね。そのご褒美をニンジンと呼んでいるんですけど(笑)、ニンジンがぶら下がってないと走れないんです。以前は趣味の旅行がニンジンになることが多くて「旅行中はできるだけ仕事の連絡をしないでほしい」とスタッフにお願いしていました。最近のニンジンはまとまった睡眠時間ですね。先日HANAのデビュー前イベントに帯同するために大阪に1泊2泊で行った時は久々にゆっくり寝られました。今年の年末には夫とふたりで旅行に行くことになっているので、そのニンジンを楽しみにしています。
――ライフスタイルの変化に伴って生まれてくる楽曲に何か変化はありましたか?
ちゃんみな:“Go back to basics”っていう感じなんです。出産後、自分の中で「ちゃんみなとは何か?」っていうことがはっきりしてきているのがすごく不思議で。昔は「妊娠出産すると生活が平坦になって、曲が書けなくなるんじゃないかな」って思っていました。でもそんなことは全くなくて視点がすごくクリアになって、自分が打ち出さなきゃいけないものや、社会に対して伝えなければいけないことが自分の中でどんどん浮き彫りになってきています。曲を作りたいというモードにもなっているので、焦らずアルバムに向かっていきたいと思っています。
それにHANAという、もうひとつのアウトプットもできたので、すごく楽しく音楽と向き合えています。今、思うと妊娠前は自分の人生に対して結構疲弊していたんですよね。「頑張っても報われないから、もういいや」っていう気持ちになってしまっていました。でも妊娠して出産すると「まだまだ頑張らないと」って思いましたし、【No No Girls】を通して自分のこれまでの軌跡とも向き合って報われた気持ちにもなって、新しいエネルギーが生まれてきていると感じています。
アーティストはとても大変な道
でも今は「同時に天国でもある」と思える
――2024年4月に開催された【AREA OF DIAMOND 2】の追加公演では、ピアノに向かうのが日課だった幼少期のちゃんみなさんを再現するような演出がありました。音楽に対してピュアで夢中だった頃の自分を取り戻すための、もがきみたいな意味もあったのでしょうか?
ちゃんみな:そうだと思います。あの演出は妊娠が発覚する前に作った演出だったので、音楽がただただ好きで、明確に「私はこれがやりたい」という気持ちを持っていた時期の自分に会いたいという気持ちの表れだったんでしょうね。でも出産を経てその時の自分に会えました。
――ご出産はとても良いタイミングだったんですね。ソロアーティストとしてのビジョンとHANAのプロデューサーとしてのビジョンは、はっきり分かれているのか密接に結びついているのか、どちらなのでしょうか?
ちゃんみな:いい質問ですね。どうなんだろう?その辺は自分ではまだはっきりと認識できてはいないんですよね。HANAとしてアウトプットするものと、ちゃんみなとしてアウトプットするものは明確に違うものではあるんですよね。だから無意識に切り替えているのかもしれません。
――今年放送された『クローズアップ現代』で「“美しい/美しくない”を他人が決める時代は終わった」とおっしゃっていました。どうしてそう思われたのでしょう?
ちゃんみな:今はさまざまな基準が溢れている時代ですし、移り変わりも早いので、決めたとしてもすぐにその基準が覆ってしまって追いつかないところがあります。先日HANAのみんなと焼肉を食べている時の会話で出てきたんですけど、骨格診断っていうのがあって、骨格のタイプによってドラマティックとかロマンティックとかクラシックとかいろいろな名前が付いているんですって。「そういう基準には捉われないように」っていう話をしました(笑)。誰が考え出しているのか知りませんが、本当に次々と新たな基準が出てきますよね。
――その通りだと思います。「美人」や「RED」をはじめ、社会を映し出すような楽曲を生むアーティストになったのは何の影響が大きかったと思いますか?
ちゃんみな:間違いなくG-DRAGONの影響です。今思うと、気が付いたら音楽と共に過ごすことが当たり前になって、漠然と「アーティストになる」と思っていた音楽好きの子どもだったのに、G-DRAGONと出会ったことで焦り始めたんですよね。「G-DRAGONがやっているから、私も作詞や作曲もしなきゃいけないし、振付も演出も自分で考えてセルフプロデュースもしなきゃいけない」って。デビューしてからもずっと焦っていて、「もしかしたらG-DRAGONに引っ張られた先は地獄だったのかもしれない」と思ったこともありました。アーティストはとても大変な道なので地獄があるのも事実ですが、出産と【No No Girls】を経た今では「同時に天国でもある」って思えるようになりました。そのタイミングでG-DRAGONがカムバックしてくれて、また彼の新しい音楽に触れることができて、純粋に「やっぱり私は彼に会いたかったんだ」って思いました。このタイミングで彼が戻ってきてくれたことも私にとってすごく大きいです。今年5月の来日公演に行く予定なので客席から「ありがとうございます!」って伝えようと思っています。
――今の生活において一番楽しみにしているこというと?
ちゃんみな:娘や夫と過ごす時間ですね。あと、ありがたいことにお仕事をたくさんいただけていることで生きている実感が湧きます。娘が少し笑ってくれるだけで報われた気持ちになりますね。
――ちゃんみなさんにとても似ているそうですね。
ちゃんみな:はい。笑うと私にそっくりなんです。でも夫にも似ているんですよね。これからどっちにより似ていくのかが楽しみです。
ちゃんみな
日本語、韓国語、英語を巧みに操るトリリンガルラッパー/シンガー。2017年メジャー・デビュー。2021年10月 3rdフルアルバム『ハレンチ』をリリースし、2022年9月に自身のルーツでもある韓国にて全編韓国語楽曲「Don’t go (feat. ASH ISLAND)」をリリース。2024年4月には史上最大キャパとなる、ぴあアリーナMMでの2DAYS公演を成功させた。6月には、ASH ISLANDとダブルネームにて「20」をリリース後、7月7日 ASH ISLANDと結婚・第一子妊娠を発表。8月には、初めてプロデューサーとして務めるガールズグループオーディションプロジェクト【No No Girls】のテーマソングでもある「NG」をリリース。YouTubeでの全映像の総再生回数は5億回を超え、ストリーミング・サービスやSNSでの強さを誇る。10代~20代を中心に圧倒的な支持を受ける、国内外問わず、今最も注目されているZ世代アーティスト。
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