鈴木泰広(すずきやすひろ) 毎日新聞(まいにちしんぶん) 学芸部長(がくげいぶちょう)

 みなさんはテレビが好(す)きですか? 1月(がつ)以降(いこう)、フジテレビ系列(けいれつ)の放送局(ほうそうきょく)の番組(ばんぐみ)を見(み)ていて、なぜ同(おな)じCMが何度(なんど)も流(なが)れるんだろうと不思議(ふしぎ)に思(おも)った人(ひと)もいるのではないでしょうか。お笑(わら)い芸人(げいにん)のなかやまきんに君(くん)が脈拍(みゃくはく)を測(はか)りながら「検(けん)脈(みゃく)んです!」と言(い)うCMを覚(おぼ)えている人(ひと)もいると思(おも)います。

 急(きゅう)に同(おな)じCMばかりになったのは、フジテレビにお金(かね)を払(はら)ってCMを流(なが)してもらっていた300社(しゃ)以上(いじょう)のスポンサーが、自分(じぶん)の会社(かいしゃ)のCMを流(なが)すのを一斉(いっせい)にやめたからです。人気(にんき)タレントだった中居正広(なかいまさひろ)さんが女性(じょせい)を傷(きず)つけるという問題(もんだい)を起(お)こしたのに、フジテレビの社長(しゃちょう)たちがその後(ご)1年(ねん)半(はん)も中居(なかい)さんを番組(ばんぐみ)に出(だ)し続(つづ)け、記者会見(きしゃかいけん)でも多(おお)くの人(ひと)が納得(なっとく)できるような説明(せつめい)をしなかったことがきっかけでした。




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 この問題(もんだい)について弁護士(べんごし)たちで作(つく)る第三者委員会(だいさんしゃいいんかい)が調査(ちょうさ)し、3月(がつ)31日(にち)に約(やく)390ページの報告書(ほうこくしょ)を公表(こうひょう)しました。報告書(ほうこくしょ)によると、女性(じょせい)は当時(とうじ)入社(にゅうしゃ)して数(すう)年(ねん)目(め)のアナウンサーで、中居(なかい)さんと共演(きょうえん)したことがありました。中居(なかい)さんは他(ほか)の人(ひと)にも声(こえ)をかけたなどとウソをつきながら、自分(じぶん)のマンションで2人(ふたり)で食事(しょくじ)をしようとメールで誘(さそ)いました。女性(じょせい)は断(ことわ)ると仕事(しごと)に影響(えいきょう)が出(で)ると思(おも)って嫌(いや)とは言(い)えず、マンションに行(い)って被害(ひがい)にあいました。

 被害(ひがい)の報告(ほうこく)を受(う)けた社長(しゃちょう)たちは、仕事(しごと)の延長線(えんちょうせん)上(じょう)で起(お)きたのに「個人(こじん)的(てき)な男女(だんじょ)のトラブルだ」と判断(はんだん)し、こうした問題(もんだい)に対応(たいおう)する専門部(せんもんぶ)署(しょ)にも伝(つた)えませんでした。ショックで体調(たいちょう)を崩(くず)した女性(じょせい)を番組(ばんぐみ)の担当(たんとう)から外(はず)した一方(いっぽう)で、中居(なかい)さんからきちんと話(はなし)を聞(き)かず、そのまま出演(しゅつえん)させ続(つづ)けました。







 女性(じょせい)に寄(よ)り添(そ)い、助(たす)け、仕事(しごと)に復帰(ふっき)できるようにすることよりも、中居(なかい)さんとの関係(かんけい)を優先(ゆうせん)したのです。女性(じょせい)は「会社(かいしゃ)は大物(おおもの)タレントを守(まも)り、社員(しゃいん)は切(き)り捨(す)てるんだ」と絶望(ぜつぼう)的(てき)な気持(きも)ちになったそうです。

 この問題(もんだい)は、つらい思(おも)いをした人(ひと)の立場(たちば)になって考(かんが)え、行動(こうどう)することの大切(たいせつ)さを改(あらた)めて教(おし)えてくれました。フジテレビは新(あたら)しい社長(しゃちょう)の下(もと)で生(う)まれ変(か)わり、信頼(しんらい)を取(と)り戻(もど)すことができるでしょうか。







 小学生(しょうがくせい)のころは図工(ずこう)とサッカーが好(す)きでした。記者(きしゃ)になってからは自分(じぶん)が書(か)いた記事(きじ)とイラストが一緒(いっしょ)に新聞(しんぶん)に載(の)ったことも。1974年(ねん)、愛知県(あいちけん)生(う)まれ。広島(ひろしま)や新潟(にいがた)、大阪(おおさか)に住(す)んだこともあります。


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