ベッセント米財務長官は9日午前、ウォール街の数十年にわたる成長に言及した上で、「今度はメインストリートの番だ」と宣言した。そして、米株式相場が約16年ぶりの大幅値上がりを記録したのは同日午後だった。

  トランプ大統領による9日未明の関税措置発動をベッセント氏は全面的に擁護。それから数時間後に大統領は、資産家でヘッジファンド運用者のビル・アックマン氏がX(旧ツイッター)への投稿で訴えた案を一転して受け入れた。それは、米国が「経済的な核の冬を自ら招く」リスクを冒すのではなく、関税を90日間停止するという内容だった。

  アックマン氏の案はここ数日、ウォール街の影響力低下の象徴と受け止められていた。世界の金融市場や一般市民に多大な災難をもたらすと懸念される措置を見直すよう、トランプ氏に懇願する声が同案を含め金融業界から多数寄せられていたが、いずれも効果がなかったためだ。

Pershing Square Capital Management LP Chief Executive Officer Bill Ackman Interview

ビル・アックマン氏

Photographer: Jeenah Moon/Bloomberg

  大統領の方針転換についてアックマン氏はXに「@realDonaldTrumpによって見事に実行された。教科書通りのディール(取引)の極意」だと投稿した。

  ウォール街の首脳らは歯がゆさに耐えた1週間を経て、再び勝利し政治的な影響力を取り戻した。

  JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は9日午前にテレビ出演し、リセッション(景気後退)の可能性を警告。資産家のケン・グリフィン氏とスタン・ドラッケンミラー氏も強い言葉で警鐘を鳴らした。ダイモン氏のテレビ出演の様子は大統領も視聴していた。

  トランプ氏の方針転換で業界のムードは一気に好転した。ただ、それが続くことを信じる者はほとんどおらず、実際、10日には米株相場は再び急落した。

  疑念は尽きない。多くの業界幹部は従業員らに、トランプ氏は単にタイムアウトを宣言しただけであり、気まぐれなことで有名な大統領がまたいつでも方針変更する可能性があると忠告した。実際、トランプ政権は中国からの輸入品に対する関税率を計145%に引き上げた。

  数カ月前の段階では、ウォール街はトランプ氏勝利に熱狂し、規制緩和やディールの活性化、減税継続など業界の要望やニーズに応える政権を想像していた。

President Trump Speaks At The White House Digital Assets Summit

ラトニック商務長官(左)とベッセント財務長官(3月7日)

Photographer: Chris Kleponis/CNP/Bloomberg

  確かにトランプ氏は混乱を招く可能性もあるが、政権1期目のような株式市場のパフォーマンスに対する同氏のこだわりを頼りにできると業界首脳らは考えた。

  また、財務長官には元ヘッジファンド運用者で投資のベテランのベッセント氏、商務長官には投資銀行キャンターフィッツジェラルドを長年率いたラトニック氏が就任したことも安心材料となった。

  しかし、トランプ氏が関税に固執するにつれ、そうした期待は消え去った。

  トランプ氏が「解放の日」と呼んだ2日の関税発表からほどなくして、ラトニック氏と会談したウォール街首脳らは憤りを禁じ得なかった。新たな関税措置に関する見識を首脳らが求めたのに対し、自分のやっていることを大統領は理解していると、ラトニック氏が請け合ったと関係者は語っている。

  一方、金融業界に一段と協力的と見られていたベッセント氏は、通商政策の策定では脇役と見なされていた。関税発表後の質問に対し同氏は「私は交渉には参加していない」と答えていた。

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  トランプ氏にアプローチする最善の方法として金融業界が学んだことの一つは、仲介者に頼るのではなく、同氏が視聴するプラットフォーム、つまりテレビとソーシャルメディアを利用することだ。

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ダイモン氏(2月13日)

Photographer: Al Drago/Bloomberg

  市場を落ち着かせるためテレビに出るよう数日にわたり要請されていたJPモルガンのダイモンCEOは、9日午前になってFOXビジネスの番組に出演。ダイモン氏は、市場が神経質になるのは当然で関税は借り手を苦しめ、リセッション(景気後退)を「起こり得る結果」にすると語った。

  トランプ氏は当初、ダイモン氏の発言をSNSで一蹴したが、上乗せ関税を一時停止した後、銀行界の重鎮であるダイモン氏を金融の天才と称賛。ダイモン氏が不公正な貿易関係への対処の必要性を認めたことに言及した。

  関税一時停止の発表から数分後、ベッセント氏はレビット大統領報道官と共に今回の措置について記者団からの質問に答え、「今日まで待つという決断は大統領が下したものだ。過去にも言ったように、トランプ大統領ほど交渉力を作り出す人はいない」と述べた。

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  今回、トランプ氏に慎重なアプローチを求めたのはアックマン氏とダイモン氏だけではない。それでもウォール街の業界幹部らは、大統領の翻意に両氏が貢献したと内々で評価している。

原題:Dimon on Fox and Ackman on X Tee Up Reprieve for Wall Street (2)(抜粋)

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