
Netflixシリーズ『恋するムービー』独占配信中
チェ・ウシクはなんだか不思議な俳優です。クールな殺人マシーンを演じたかと思うと鬱屈した半地下生活を送るフツーの浪人生に扮したり、過去の恋愛が忘れられない、実は孤独なイラストレーターもやれば、偶然が偶然を呼んでバンバン殺人を繰り返すダークヒーローになったりと、演じる役柄は結構幅広くてどれもまったく異なるキャラクターなのだけど、なぜかどの役も作家が当て書きした?と思うほどウシクそのものに感じてしまうというか。だからなのか、この役はウシクにしかできなかったね〜などと思ってしまうわけなのです、毎回。その役柄に憑依するカメレオン型の演技派は結構いるけれど、ウシクの場合、そのキャラクターがウシクに憑依するというか、寄り添って一体化するというか、それが可能な唯一無二の演じ手なのではと思う次第なのです、私的に。だから、気になってならない。で、そんなウシクの待ってましたの新作メロ(恋愛)ドラマがこの作品。
ウシクが演じるのは「世界中のすべての映画を観ることが夢」という映画オタクの青年コ・ギョム。幼い頃に両親を亡くし、11歳離れた兄コ・ジュン(キム・ジェウク)と暮らしているのですが、明るくひょうひょうとしていて誰の懐にもスッと入れてしまう人たらしなのですね。なのに、それだけじゃない的いたいけな雰囲気を持っているのが、まあ、ウシクと重なるところなのでありますが。成人した彼は、これだけ映画が好きなのだから、映画の中の人になるしかないと俳優を目指すことになるのですが、演技はできないわ、主役より悪目立ちしてしまうわと素質ゼロ。使いものにならないはずなのだけど、なぜか周囲からは可愛がられ、エキストラとしてちゃっかり撮影に参加するようになるのです。でもって、そこで、出会ったのが、今回のメロ(恋愛)のお相手、映画(=ムービー)と同じ響きの名を持つ助監督のキム・ムビ(パク・ボヨン)。
その名に一目惚れしたかのようにムビに惹かれていくギョムに、最初は煙たがっていたムビなのだけど、いつしか惹かれるようになり……という矢先、ギョムが突然、姿を決してしまうのです。そして、5年後、映画監督になったムビの前にギョムが映画評論家として現れて……。と、こう書くとありがちなロマコメみたいに感じられるのですが、深度と方向性が違うというか。ポイントはギョムが突然去った理由にあるのですが、そこには兄ジュンとの切ない繋がりがあり……。一方、ムビには映画をこよなく愛した亡き父に自分が愛されなかったという思いをずっと抱えて生きているという。単なる男女の関係に留まらず、人が人を、そしてメロを求めてやまない切実な心を優しい視点で映し出しているのがこのドラマ。だから、細胞のひとつひとつに染みてきて、涙が止まらなくなるというか。ギョムもムビも兄ジュンも、登場人物すべてが愛おしく、作曲家を目指すシジュン(イ・ジュニョン)と脚本家になったジュア(チョン・ソニ)のサブカップルにも泣かされます。