テスラにとってピボットの成否以上に大きなリスクは、投資家が同社からスペースXに「乗り換える」展開だと考えています。
テスラの投資家の一定数(もしかしたら過半数)は、電気自動車市場のパイオニアとしてのテスラの支持者ではなく、マスク氏というカリスマの支持者なのです。
スペースXはマスク氏を支持し、応援するための新たな手段であって、しかもそれはテスラと違って先行き不透明な事業転換の過渡期にいる乗り物ではない。投資家の目に魅力的に映って当然でしょう。
ただし、スペースXは決して安全な投資先ではありません。ロケットを宇宙に打ち上げる事業はハイリスクでコストフル、人間が登場する場合は特に些細な失敗も許されません。
付け加えておけば、スペースXが買収したxAIも組織体制が非常に流動的で、共同創業者たちは全員が同社を去っています。AI関連のインフラ整備も、超大型宇宙船の打ち上げほどではないかもしれませんが、十分にコストフルでハイリスクです。
投資家は夢のあるストーリーを愛するもの。火星移住計画の実現を目指す地球屈指の宇宙開発企業が史上最大規模の株式公開に臨もうとしている。これ以上に壮大なストーリーはなかなか思いつきそうにありません。
いや、一つだけあります。それは……火星を目指す企業と地球最大規模の電気自動車メーカーが手を組むストーリー。実現性はともかくですが。
それでは米国編集部の記者たちからの報告です。
1Q決算説明会を「記者7人」で取材してみた
以下は米国編集部の記者たちの逐次報告です。決算説明会前のアナリスト予想を取材したナオミ・ブキャナン記者の論点提供から。
📝 ナオミ・ブキャナン記者:
ブルームバーグの集計によれば、決算発表前のウォール街のコンセンサス予想は、売上高222億7000万ドル、1株当たり利益0.34ドル。
ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)は「AI時代がこの先いつごろ到来するのか、強気派と弱気派がいままさに議論を戦わせている。そうした時代の転換点に際して、テスラも岐路に立っているとウォール街は見ている」と指摘。
モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)は、テスラの自動運転システム「フルセルフドライビング(FSD)」が累計走行距離100億マイルという「重要なマイルストーン」に近づいていると指摘。設備投資が倍増、フリーキャッシュフローがマイナスに転じるこの1年に具体的な進歩を示せるかどうかが勝負どころと指摘。
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)はダラスとヒューストンへのロボタクシーサービス提供範囲拡大を評価。市場規模1兆ドルを想定する自動運転分野での影響力拡大を見込み、投資判断を「買い」、目標株価は「460ドル」のまま維持。
ジェフリーズ(Jefferies)は目標株価を350ドルに引き上げたものの、事業展開の見通しと実行実績の間のギャップが広がっていることを指摘。ロボタクシー事業に関して説得力のある発表がない限り、スペースXとの合併のような措置が必要になると分析。
📝 サミュエル・オブライエン記者:
GLJリサーチ(GLJ Research)は弱気。テスラが今年の業績見通しについて、売上高、1株当たり利益ともに大幅な下方修正を発表すると予想。同社の予想する通年売上高はコンセンサス予想を3割下回る834億ドル。
テスラの電動中型セダン『モデル3(Model 3)』。IMAGO/Dean Pictures via Reuters Connect
📝 トム・カーター記者:
テスラは前四半期の決算発表時、2026年通年の設備投資を倍増の200億ドル以上と発表。一方、3月には巨大半導体工場「テラファブ(Terafab)」をスペースXと共同で建設する構想を明らかに。投資家は、このテラファブを除いた設備投資計画の詳細に注目している。
📝 ベン・シムカス記者:
マスク氏は決算説明会に際して、個人投資家から集まった質問の中で最も多かったものに答えるのが通例となっている。今回は「(開発中の人型ロボット)オプティマスの次世代バージョンはいつ発表されるのか」が最多。マスク氏は答えるだろうか。
📝 トム・カーター記者:
テスラは第1四半期(1〜3月)の新車販売台数を前年同期比6%増の35万8023台と発表。市場予測を大幅に下回った。投資家は新車種を発表する可能性に注目している。4月上旬のロイター報道によれば、同社は廉価版の小型モデル開発を進めている模様だ。
📝 スティーブン・ツイーディ記者:
テスラの第1四半期(1〜3月)決算内容が明らかに。売上高は前年同期比16%増の223億8700万ドル、市場予想を上回った。1株当たり利益も0.41ドルで市場予想を上回った。
📝 ベン・シムカス記者:
同僚のグレース・ケイ記者が昨年11月に「生産開始に向けた取り組みを加速している」と報じた、2シーターの新型『ロードスター』について、マスク氏は近々量産仕様モデルを発表する可能性を示唆。しかし、決算説明会資料には従来と同じ「設計開発段階」との記載があるので、期待は禁物では。
📝 ロイド・リー記者:
高度運転支援システム「フルセルフドライビング(監視あり)」のサブスクリプション契約数は前年同期比51%増の128万件に。
今年4月、テスラはオランダ当局から高度運転支援機能『フルセルフドライビング(FSD、監視あり)』の型式認証を受けた。REUTERS/Bart Biesemans
📝 スティーブン・ツイーディ記者:
マスク氏は主要市場における需要回復を強調。特に「アジア太平洋および南米市場で需要が伸び続けている」と。
📝 スティーブン・ツイーディ記者:
ロボタクシー専用車両『サイバーキャブ』は試験生産段階で、今年中に量産開始予定。電動トラック『セミ』も同じく年内量産開始。
📝 ベン・シムカス記者:
第1四半期の設備投資額は前年同期比67%増の25億ドルだった。
📝 ロイド・リー記者:
カリフォルニア州のフリーモント工場は生産終了を発表済みの『モデルS』『モデルX』のラインを置き換えて『オプティマス』を生産。第2四半期に稼働開始。出荷台数は公表せず。
📝 ロイド・リー記者:
現金・現金同等物および短期投資は447億ドル。前四半期から7億ドル積み増し。AI関連投資などに柔軟性を確保。インベスティング・ドットコム(Investing.com)は、営業キャッシュフローが前年同期比83%増の39億ドルと充実したことを「再び競争に向かうための強力な資金を得た」と評価。
📝 ベン・シムカス記者:
決算説明会で流された電動トラック『セミ』生産現場の映像は印象的。これまでネバダ州の生産工場には限られた記者しか入れなかった。天井に設置されたコンベアで空中を運ばれ、車体下部をボルトで固定するシーンを確認できた。
📝 ベン・シムカス記者:
第1四半期の生産台数が販売台数を5万台上回り、在庫は前年同期比23%増の27日分に。しかし、昨年平均70日分の在庫を抱えていた他社に比べれば相当に健全と説明した。
📝 ロイド・リー記者:
テスラは前四半期の決算発表会で、今年上半期中にロボタクシーを7都市に追加展開する計画を発表していたが、すでに発表済みのダラスとヒューストン以外の5都市については「準備を進めている」とだけ説明。計画を変更したのかもしれない。ダラスとヒューストンではセーフティーモニターの同乗しないロボタクシーも一部走行させている模様。
📝 ベン・シムカス記者:
マスク氏が登場。設備投資の大幅増を示唆し、それは「十分に正当化される」と強調。さらに、テスラにとってオプティマスが最も重要な製品だと述べ、今年下半期に生産開始することを明らかに。2027年には「大幅増」を想定していると発言。この段階で、時間外取引における株価上昇分は相殺された。
テスラが開発中の人型ロボット『オプティマス(Optimus)』。今年下半期の生産開始とマスク氏。Oriental Image via Reuters Connect
📝 ベン・シムカス記者:
近ごろのガソリン価格急騰はテスラの受注増に「ポジティブな影響をもたらしている」と、バイブハブ・タネジャ最高財務責任者(CFO)が説明。設備投資額は250億ドルを超える見通しとも説明。
📝 ベン・シムカス記者:
マスク氏が個人投資家の質問(先述)に回答。第3世代のオプティマスは設計完成まで一般公開しない方針を明らかに。他社がテスラの公開したデモ映像を公開して模倣するケースが相次いでいることへの対策だと。
📝 ロイド・リー記者:
ロボタクシーサービスの見通しについて、10州以上での展開を目指しているものの「年内はさほど大きな展開を想定していない」とマスク氏は抑制的。
📝 ベン・シムカス記者:
マスク氏の説明によれば、FSDは前世代のコンピューターシステム『HW3』を搭載した旧型車両では動作しないが、カメラを含めたハードウェアをアップグレードするためのマイクロファクトリーを主要都市に開設する計画を検討している。
📝 ロイド・リー記者:
欧州でのロボタクシーサービス導入は規制上の制約からまだ時間がかかる。監視ありFSDの提供許可ですら最近取得したばかり、とマスク氏。決算発表直後に株価は4%上昇したものの、アナリストとの質疑応答中は下落が続いた。
📝 ベン・シムカス記者:
マスク氏によれば、スペースXとテスラは半導体工場やソフトウェア、販売網を通じて提携関係を強化拡大しているものの、それが複雑な事態を招いている。利益相反を解消して両社の取締役会から承認を取りつける必要があるからだという。
📝 アリステア・バー記者:
マスク氏は、テスラがインテル(Intel)の次世代製造プロセス「14A」を前出のテラファブで採用することを明らかにした。同プロセス初の主要顧客企業に。インテルの勝利。
スティーブン・ツイーディ記者:
質疑応答が続くなか、株価はついに発表前を下回ってマイナス圏に。
📝 ロイド・リー記者:
巨大工場のテラファブは、半導体サプライヤーとの(調達規模による)交渉材料ではなく、十分量のチップを確保するための手段だとマスク氏。
📝 ベン・シムカス記者:
新型ロードスターはおそらく1カ月ほどで(量産仕様を)発表できるとマスク氏。「史上最もエキサイティングな発表」になると思うが、「運転席に座る人間に焦点を当てた唯一にして最後の製品になるだろう」とも。
📝 ロイド・リー記者:
テスラのロボタクシーは「最大限の安全性を追求するよう設計」されているため、車両や鉄道などに近づくと「過剰な警戒反応により立ち往生してしまう」ケースがあるとマスク氏。
📝 スティーブン・ツイーディ記者:
アナリストとの質疑応答が終了。時間外取引で株価は2%以上下落しました!
非常に長いテキストになりましたが、ビジネスインサイダーの最前線で取材する記者が同時に7人、決算説明会を取材するのは非常に稀(まれ)なケースですので、「もう飽き飽き」を承知の上でまとめてみました。たぶん、もうやりません!
変化のシグナル:S&P500企業の業績見通し上方修正
米金融大手JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)は過日、S&P500種株価指数の年末目標を「7600」に引き上げました。上のチャートは、その判断に際して同社が参考にしたデータです。
S&P500種構成銘柄の今年の業績予想をイラン戦争開戦前と年初来(つまり停戦合意が成立して一定の緊張緩和が確認された現在)で比較すると、上方修正が加速していることが分かります。
開戦前から上方修正に勢いを感じられた3つの分野、すなわちAI関連株、素材セクター、テクノロジーセクターは特に顕著な加速を示しています。
また、エネルギーセクターは開戦前にむしろ下方修正のトレンドが確認されていましたが、戦時下の原油価格急騰を追い風に、一転して上方修正幅でトップに躍り出ました。
業績予想の上方修正は、企業が利益成長の見通しを引き上げたことを意味し、それは株価上昇の原動力となります。だからこそJPモルガンも年末目標を引き上げたわけです。
注目すべき動き:「300%超」株価上昇のレンタカー大手
エイビス・バジェット・グループ(Avis Budget Group)の株価推移Joe Ciolli; Business Insider
ミーム株の世界に興味深い新規参入が。レンタカー大手のエイビス・バジェット・グループ(Avis Budget Group)です。
大規模なショートスクイーズ(空売り筋による損切りのための買い戻し)に巻き込まれ、同社の株価は急上昇中。
2021年1月にビデオゲーム小売りチェーンのゲームストップ(GameStop)株が急騰した史上空前のショートスクイーズになぞらえる声も出ています。
直近1カ月間の株価上昇率は314%。とりわけ4月20日、21日は2日間で45%という驚異的な上昇率を記録しました。ただし、22日にはたった1日で38%急落するという説明のつきにくい動きを見せています。
なお、新規参入と最初に説明しましたが、実はエイビスがミーム株としての振る舞いを見せたのは今回が初めてではありません。2021年秋から翌22年初夏にかけても同様にショートスクイーズに巻き込まれ、当時の上昇率も300%を超えました。
今回の踏み上げは、資産運用会社のSRSインベストメント・マネジメント(SRS Investment Management)およびペントウォーター・キャピタル・マネジメント(Pentwater Capital Management)がエイビス株を大量保有(両社合計で発行済み株式の70%強)している状況が、開示書類を通じて発覚したことでした。
浮動株が極限まで絞られる中で空売り残高が浮動株のほとんどを占める状況に陥り、(空売り投資家が借りた株式を返却するために買い戻す)ショートカバーのための株式が市場に存在しない状態となり、スクイーズの発生する条件が整ったのです。
英銀大手バークレイズ(Barklays)のアナリストは、急激に生じた需給のミスマッチの結果であり、株価の動きは業績や財務状況などのファンダメンタルズに基づかないテクニカルなものと分析しています。

WACOCA: People, Life, Style.