「茶は養生の仙薬なり」と、抹茶を日本に広めた鎌倉時代の僧侶・栄西は著書『喫茶養生記』で説いている。このように古くから健康に役立てられてきた抹茶が、日本人の現代病ともいえる花粉症の症状を和らげるためにも利用できるかもしれない──。そんな可能性を示す研究結果が、このほど発表された。

広島大学原爆放射線医科学研究所教授の神沼修らの研究グループが2026年3月に発表した研究結果によると、アレルギー性鼻炎を誘発させたマウスに抹茶を与えた結果、くしゃみの数が大幅に抑制されたのである。研究チームを率いた神沼は、アレルギー疾患のメカニズムの解明に取り組んでいる研究者だ。

他の研究者による先行研究では、スギ花粉症患者の鼻炎症状の緩和に緑茶が役立つことを、すでに複数の臨床試験が示している。このメカニズムの全容解明が進められてきたなかで神沼らが明らかにした抹茶成分の作用は、アレルギー疾患の内因である免疫システムではなく、アレルゲンへの反応として起きるくしゃみに光を当てた点が特徴だ。

「マウスのくしゃみ」がほぼ半減

神沼らが抹茶を研究素材に選んだ理由は、茶葉に含まれる成分を効率的に摂取できるからだ。というのも、一般家庭で飲む際に湯で抽出する緑茶よりも、茶葉の乾燥粉末を湯に混ぜて飲む抹茶のほうが、健康に役立つ成分を効率的に摂取できると神沼らは考えたのである。

抹茶の原料となる茶葉は「碾茶(てんちゃ)」と呼ばれ、その他の緑茶の茶葉に比べると栽培や加工に特別な手間をかける点が特徴だ。抹茶の茶葉は日光を遮って約2〜3週間かけて育てられており、栽培方法の違いから、うま味や甘味のもとになるテアニンが蓄積されやすい。一方で、渋味や苦味を左右するカテキン類は抑えられることが多いとされる。このため、その他の緑茶における先行研究と同様の結果が抹茶でも確認できるとは限らない。

そこで神沼らは、他の緑茶と同様に抹茶もアレルギー性鼻炎の症状の緩和に役立つかどうかを、マウスによる実験で調べることにした。具体的には、スギ花粉の代わりに、アレルギー誘発タンパク質(アレルゲン)に対して反応が現れるマウスを使い、アレルゲン溶液を点鼻することでアレルギー鼻炎を誘発させ、そのくしゃみの回数を計測する実験だ。つまり、スギ花粉によるアレルギー性鼻炎に似た症状が現れるモデルマウスで、抹茶の効果を検証したのである。

この実験では、まずアレルゲン溶液のみを点鼻する群、アレルゲン溶液を点鼻する30分前に抹茶を口から投与する群、そして生理食塩水のみを点鼻する群といった合計3群にマウスを分けた。さらに3群すべてのマウスに、アレルゲンへの反応が現れやすくなる操作を加えた2週間後に、アレルゲン溶液または生理食塩水の点鼻を開始する。この点鼻は1日1回の頻度で合計4回実施し、4回目の直後、5分にわたってマウスのくしゃみを数えた。

なお、抹茶投与群には、熱水1mlあたり25mgの濃度で入れた抹茶を、マウスの体重1kgあたり250mgの用量で各回ごとに与えている。これはヒトに換算すると、約10杯の抹茶に相当する量だ。また、抹茶投与の手順はアレルギー反応が現れやすくなる操作を加える段階から始めており、点鼻の段階に進むまでは1〜2日の間隔で週3回実施した。また抹茶の原料は、5月に京都府宇治市で収穫された標準的なグレードの茶葉だ。

こうした実験の結果、アレルゲン溶液のみを点鼻した群に比べ、抹茶投与群のくしゃみの回数は半分程度にまで減少した。つまり、抹茶を飲むことがアレルギー性鼻炎の症状緩和につながる可能性が示されたわけだ。

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4回目の点鼻直後のくしゃみの回数を群ごとに表したグラフ。PBSが生理食塩水を点鼻した対照群、OVAがアレルゲン溶液のみを点鼻した群、+Matchaがアレルゲン溶液を点鼻する30分前に抹茶を胃内投与した群。アレルゲン溶液のみを点鼻した群に比べ、抹茶投与群はくしゃみの回数が半分ほどに抑えられている

Illustration: HIROSHIMA UNIVERSITY

神沼らは、この実験に使ったマウスについて免疫反応や腸内細菌叢を詳しく調べ、抹茶によるくしゃみ抑制のメカニズム解明を試みた。すると、興味深いことがわかった。アレルゲン溶液のみを点鼻した群と、抹茶投与群の間に大きな差が見られなかったのだ。

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