2026年、日本のフレグランス市場に新たな動きが広がっている。フランス発のオーガニック原料メーカー「TERRA PROVENCE(テラ・プロヴァンス)」が、ネオネクリエーションとの独占契約により、日本・中国・韓国・台湾での本格展開を開始した。

 TERRA PROVENCEは創業者ハンス=ウルリッヒ・ヴェンツラーの掲げた「自然との共生」という理念のもと、世界各地の生産者と信頼関係を築きながら原料調達を行ってきた。現在はヴィクトワール・エラン氏が経営を担い、その思想を受け継ぎつつ、分析・抽出技術や品質管理体制の強化を進めている。

 原料の選定から抽出、保管に至るまで一貫した管理を行い、天然由来でありながら安定した品質を実現している点が特長だ。こうした取り組みによって生み出される天然香料は、雑味が少なく、透明感と奥行きをあわせ持つ香りとして調香師から評価を得ており、日本市場における新たな価値創出につながる存在として期待が高まっている。

世界各地から原料を調達、

自然志向のものづくりを推進

 TERRA PROVENCEの歩みは、1970年代後半、創業者ハンス=ウルリッヒ・ヴェンツラーがフランス南東部・バロニ地方へ移住したことに始まる。ラベンダーの産地として知られるこの地で、同氏は現地の生産者と生活をともにしながら、芳香・薬用植物の採取や蒸留技術を学び、関係を築いていった。1989年に「Wentzler」として事業化した後は、モロッコやポルトガル、トルコ、スリランカなどへ活動の幅を広げ、各地の生産者と深い信頼関係を築いていく。

 同氏は、いわゆる「ババ・クール(ヒッピー的思想)」に通じる価値観を持ち、自然との共生や平和を重んじてきた人物だ。未来の世代へ豊かな地球環境を引き継ぐために何ができるのかを問い続け、その中でオーガニックという選択は必然だった。

 そうした考えのもと、2011年に「TERRA PROVENCE」を設立。「大地」を意味するTerraの名が示す通り、自然と真摯に向き合う原料づくりを掲げている。全製品でオーガニック認証に対応可能な体制を整え、「100%ピュア&ナチュラル」という厳格な品質基準を設け、世界各国の高品質志向の顧客から高い信頼を得てきた。

 また、生産者の有機認証取得費用を自ら負担するなど、サプライチェーン全体を支える姿勢も同社の特徴といえる。

 現在は、農業工学と薬用植物に知見を持つヴィクトワール・エラン氏が経営を担う。南フランス・セート出身のヴィクトワール氏は、医師の父とアロマセラピストの母のもとで育ち、幼少期から植物に親しんできた。国際農業開発エンジニア養成校ISTOMに入学後は、コスタリカ、ラオス、ブルキナファソなどでインターンシップを経験し、農業工学の知識と薬用植物への情熱を融合させた活動を続けた。

 エンジニア資格取得後は、フランス・グラース近郊ヴァロリスにあるファインフレグランスおよびアロマセラピー専門企業Albert Vieilleにて、責任ある原料調達と農業開発に従事した。その後、エルサルバドルおよびエクアドルでのサプライチェーン監査、さらにニューカレドニア・マレ島に移住し、再植林を目的としたサンダルウッドの苗圃開発に尽力した。苗圃は歴史あるマレ島のサンダルウッド蒸留協同組合CUADAに属し、蒸留工程の最適化や設備改良にも携わっている。

 フランス南東部に戻った後も、Albert  Vieille社で4年間勤務し、フランス南東部およびセビリアにて有機栽培とナチュラルケア原料の開発を推進した。バラ、アイリス、ローマンカモミール、メリッサ、タイム類、アンジェリカなど多様な植物の栽培開発にも取り組んだ。同時に、生産者支援の一環として移動式蒸留装置を共同開発し、蒸留技術や精油分析ラボでの品質評価にも関与した。

 2019年1月、引退を控えたヴェンツラー氏の後継者として、TERRA PROVENCEに入社。最初の18カ月間はヴェンツラー氏と共同経営を行い、その後、2020年9月より単独で経営を引き継いでいる。

 ヴィクトワール氏は、生産者との密接な関係や監査経験、精油への深い知識を兼ね備え、創業者の理念を受け継ぎながら、分析・研究開発体制の強化や設備投資を通じて品質管理の精度向上に取り組んでいる。近年は、オーガニック・ハイドロソル専用の無菌ろ過(0.2μ)装置を備えたクリーンルームを新設するなど、最新設備への投資も進めている。

 さらに同社では、品質保証と生産者支援の両立を掲げ、国内外の生産者と直接的なパートナーシップを築きながら、持続可能で追跡可能な体制づくりを進めている。 

 世界各地から集めた原料をすべて分析し、その詳細なデータを蓄積している点も同社の大きな強みだ。植物は天候や土壌の違いによって成分が微妙に変化するが、同社では過去の膨大なデータと照らし合わせながら品質を見極めている。こうした取り組みにより、自然由来でありながらも安定した品質を維持する体制を整えてきた。

精緻な管理のもと香りを構築、

奥行きと透明感のある仕上がりへ

 TERRA PROVENCEでは、各地で収穫される植物を天然香料として活用している。  その一例が、同社の主力原料の一つであり、クライアントからも高い評価を得ているオーガニック・ネロリ・ハイドロゾルだ。

 これは、ビターオレンジの花を水蒸気蒸留して抽出され、年に一度のみ生産される。精油1㎏を得るために約1000㎏もの花が必要で、春の天候にも大きく左右されるため、収穫量は安定しにくい。こうして得られるネロリは、甘くフローラルな香りとやわらかな温もりをあわせ持ち、心を穏やかに整える。

 また、トルコでは4月末からダマスクローズの収穫が始まる。満開のバラが広がる中、摘み取りは香りが最も豊かな午前中に行われ、収穫後は速やかに蒸留へと移される。新鮮な花から得られるローズハイドロゾルも年に一度のみの生産で、精油1㎏の抽出には少なくとも3000㎏もの花を要する。その希少性から、ローズ精油は世界でも高価な精油の一つとして知られる。フレッシュで華やかなその香りは、リラックス効果をもたらすとともに、化粧品分野でも広く活用されている。

 さらに同社は、原料生産の背景にある労働環境にも配慮している。摘み取り作業に従事する親たちが安心して働けるよう、子どもたちを受け入れる遊び場を設けた現地の協会を支援している。

 このほかにも、季節ごとにさまざまな植物を収穫し、バリエーション豊かな天然香料を展開している。

 同社の製品は多岐にわたる。主力の「エッセンシャルオイル(精油)」は、プロヴァンス地方で栽培されたラベンダーやローズマリーなどの植物を水蒸気蒸留によって抽出したもので、植物本来の香りと成分を凝縮している。アロマセラピーや香水、医薬品原料まで幅広く活用される。

 「アブソリュート」は、ローズやジャスミン、オレンジブロッサムといった繊細な花から溶剤抽出で得られる高濃度の香料で、深みのある豊かな香りが特徴だ。高級香水や化粧品に用いられる調合香料の素材となる。

 「プラントウォーター」は蒸留の際に得られる副産物で微量の精油成分を含み、マイルドな香りが特徴だ。ラベンダー、ローズ、ネロリなどが人気で、化粧水やルームスプレー、アロマセラピーに利用される。肌への刺激が少ないため、敏感肌の人にも適している。TERRA PROVENCEのプラントウォーターは、芳香成分を豊富に含んでいる点も特長の一つだ。

 「植物油」は、アーモンドオイルやオリーブオイル、ホホバオイルなど、植物種子や果実から圧搾されるキャリアオイルだ。ビタミンや必須脂肪酸を豊富に含み、肌の保湿や栄養補給、バリア機能のサポートに優れているのが特長だ。

 「天然抽出物」は、ハーブや植物から特定の有効成分を抽出したもので、スキンケア製品や機能性化粧品の原料として幅広く用いられている。抗酸化作用や抗炎症作用、保湿作用など、植物由来の多様な生理活性を活かした製品開発をサポートする。

 また、同社は「エッセンシャルオイル」を幅広く展開しており、ネオネクリエーションコネクションと連携して複数のオーガニックオイルを組み合わせてナチュラルフレグランスを作ることが可能だ。複数のオーガニックオイルを組み合わせることで奥行きのある香りを構築できるほか、エッセンシャルオイルから単離した分子を用いて特定の香りを強化することで、より理想的な香りに仕上げることもできる。

 なぜTERRA PROVENCEの原料は調香師たちから支持を集めているのか。その理由は、原料そのものの質の高さにある。同社は、原料の選定から分析、抽出、保管に至るまで一貫して緻密な品質設計を行っており、その積み重ねが香りの仕上がりに直結している。

 まず特徴的なのが、香りの深みだ。精油やアブソリュートは、主成分だけでなく微量成分や残香成分のバランスによって印象が大きく左右される。同社では産地や部位、収穫時期を細かく管理しており、例えばベルガモットはイタリア産で1~2月収穫、ローマンカモミールはフランスやハンガリー産で7~8月収穫といったように、植物ごとの最適条件を的確に見極めている。こうした条件管理が、香りの奥行きや陰影、残香の厚みにつながっている。

 また、同社の香りは透明感の高さでも評価されている。社内ラボでは、GC-FID、GC-MS、HPLCなどを用いた厳格な原料管理を行い、不純物の混入や偶発的な交差汚染を防いでいる。さらに、保管時にはアルゴンや窒素による不活性ガス保護を行い、酸化を抑える工夫を施している。ここでいう「香りの透明感」とは、香りの軽さを指すものではない。濁りや酸化臭、埃っぽさ、脂っぽさが少ない状態を指す。酸化管理が行き届いた原料では、トップノートは澄み、ミドルノートははっきりと輪郭が立ち、ラストノートまでクリアで汚れのない香りを維持する。

 上質感の理由は、抽出工程にもある。抽出や濃縮の過程で熱や酸素、長時間によるダメージが大きいと、天然原料はくすみやすくなる。しかし同社では、真空機器を使った抽出法を採用することで、これらのダメージを最小限に抑え、植物本来の香りを保っている。そのため香りが壊れず、調香の際には素材の輪郭が際立ち、他の原料とも自然に溶け合うことで、仕上がりに高級感をもたらしている。

 このように、同社の原料が香りを上質に仕上げる理由は、「①産地・部位・収穫時期を精緻に管理することで、香りの情報量そのものを高めている」「②厳格な分析体制により、不純物や混入リスクを徹底的に排除している」「③酸化の進行を抑制する管理によって、香りの濁りや劣化を防いでいる」「④抽出・保管プロセスを最適化し、天然香気が持つ繊細なニュアンスを損なわないよう設計している」の4点に集約される。

 良い天然香料は単独でも美しい香りを放つが、他の素材と組み合わせることで、トップは明るく、ミドルは柔らかく、ベースは余韻深く広がる。TERRA PROVENCEの原料は、単に強い香りではなく、組み合わせることで香り全体の印象を高め、立体的で豊かな“香りの風景”をつくり出すことができる。

独占契約により供給体制を本格化、

天然香料で新たな価値を創出

 ネオネクリエーションは、TERRA PROVENCEと独占契約を結び、2026年から日本・中国・韓国・台湾市場に向けて同社の原料を提供している。代表取締役社長の竹内昭夫氏は、現代における「香りのあり方」を問い直し、植物の生命力に根ざした、より自然に調和する香りの価値を提案している。

 成分の安全性や環境配慮への関心が高まる中、オーガニックコスメやクリーンビューティーは主流の選択肢となりつつある。一方で、従来の合成香料は、コストや効率を優先するあまり、天然由来が持つ複雑で繊細な香りのバランスが軽視され、人や空間との調和を欠いた香りが広がることもあった。

 植物由来のナチュラル・オーガニックな香りは、その点で本質的に異なる。植物が育つ過程で水とともに蓄えた芳香成分は、穏やかに立ち上がり、過度な主張をせずに空間や人に自然に溶け込む。竹内氏はその特性を「自然が水に託して運んできた香り」と表現し、その価値を強調する。

 もともと日本には、四季折々の微細な香りを感じ取る文化があった。しかし都市化の進展や生活環境の変化により、そうした感性は徐々に希薄化している。一般的な合成香料は、香りの強さや持続を優先して設計されることが多く、天然由来の微細なニュアンスとは異なる印象を与えることもある。こうした環境の中で、TERRA PROVENCEの精油やプラントウォーターは、自然の香りと向き合う機会を取り戻す存在として位置づけられる。

 「香水は通常、25種類から60種類もの原料を組み合わせて作られるが、その中で香りに深みや広がり、豊かさを与える役割を果たすのが天然香料だ。合成香料は均一で扱いやすい反面、香りが単調になりやすい。これに対し、雑味の少ない天然香料を組み合わせることで、香りに立体感を加えることができる。TERRA PROVENCEの香料は、非常に洗練された品質が特長で、一般的にトイレタリーやハウスホールド向けに使われる香料とは異なり、ファインフレグランス向けの精油やアブソリュートが揃っている。明るさから深みまで幅広く表現でき、香りの設計の幅を広げ、細かいニュアンスまで自由に表現することが可能だ。日本は豊かな自然に恵まれた国であり、オーガニックを訴求したフレグランスへの需要は今後さらに高まっていくと考えられる」(竹内氏)

 また竹内氏は、インバウンドの増加という市場環境にも注目している。「日本で感じた自然の香りを、フレグランスを通して再び楽しんでほしい」とし、日本市場におけるオーガニックフレグランスの価値向上に期待を示した。

 香りは、過度に主張するものから、生活や空間に自然と寄り添うものへと変わりつつある。この変化は一過性のトレンドではなく、安全性や環境配慮が前提となった現代において、香りの「質」そのものを重視する考え方として定着しつつある。

 こうした潮流の中で、TERRA PROVENCEとネオネクリエーションが提供する高品質な天然香料は、香りの可能性を広げるとともに、人と自然のつながりを見直す存在として今後の展開が期待される。

WACOCA: People, Life, Style.