お米、トマト、モモ、地鶏、ヒラメなどに代表される福島県産の人気食材。福島県外にも、福島食材をふんだんに使った料理をメニューに取り入れているレストランがある。オーナーシェフら料理人は、福島の食のブランド化に一役買っている。後編では、東京都内で福島食材の美味しさを消費者に届ける料理人の奮闘に迫る。
「福島の新鮮な素材の持ち味をフランス料理と日本料理の技法で引き出す」ル・ジャポンのオーナーシェフの中田耕一郎さん
和食のように味がじんわりとしみ込むフレンチ
東京・目黒区の閑静な住宅街の一角。フランス料理と和食の融合をコンセプトに掲げるレストラン「ル・ジャポン」がある。オーナーシェフの中田耕一郎さんはフレンチレストランで修行した後、和食を学び、「和食のように毎日食べることができる」フランス料理を生み出した。
春先のおすすめは、福島県のいわき市産のアンコウと野菜を煮込んだブイヤベース。「アンコウを丸ごと一匹、骨以外全部使い、白ワインなどで煮ます」と中田さん。
フランス料理ではブイヤベースは、生クリームをふんだんに使った濃厚な味付けとなるが、中田さんは和食のように、口に含むと、じんわりと美味しさがしみ込むように仕上げている。
アンコウの味を引き立てる野菜には、いわき市産の大根や白菜、トマトを使っている。
いわき市で生まれ育った中田さんは、「野菜も魚も美味しい食材がいつもすぐ近くにあった。野菜をつくっている生産者の方々の顔を見て生きてきたので強い思い入れがある」と福島の食材と自身の関わりを語る。
中田さんが年間を通じて使っているのが、福島県白河市農産物ブランドに認定されている「白河高原清流豚」だ。豚の脂身がくどくなくお客様にも好評という。桃に生ハムを合わせて前菜にするなど、福島産のフルーツもさまざまな場面で登場する。
ワインに合う彩り鮮やかな一品
福島の生産者の生き様を、料理として届ける責任
中田さんがル・ジャポンを開業したのは、2011年9月。東日本大震災の発生から半年後で、当時は顧客から福島産の食材の使用の有無についての問い合わせもあったという。中田さんは「現在は『福島の美味しものを食べたい』と来店されるお客様も多い。福島産の食材について風評被害の影響は当店では感じない」と話す。
中田さんは「東日本大震災後に立ち直ってきた農家、漁師の方々は意欲が違う。いつも美味しい食材を我々に届けてくれる」と生産者に信頼を寄せている。仕入れる野菜や肉、魚については、必ず現地を訪ねて生産者と話す機会を設けている。ル・ジャポンの来店客には、料理に使っている食材について、生産者がどんな意図で作っているかなど現地で聞いた生産者の言葉を直接、伝えている。料理と一緒に生産者の食材への思い、生き様を届けたいという考えからだ。
「福島には本当に美味しいものがある。美味しい食材をつくりだす土地の魅力がある」と中田さん。さらに「我々には、食材を料理して美味しさをお客様に届ける責任がある。さらに技術をみがいてもっと美味しく食べられるようにしたい」と語る。
素材の味を意識 「常磐ものの白身魚は格別」
「全国的にみても福島にはよい食材がある。東京からも近く、積極的に福島の食材を使っていきたい」。こう話すのは、東京・新宿区の和食レストラン「曙橋かず」のオーナーシェフの松尾和也さんだ。
「福島を訪ねて、現地の生産者の方々の食材に対するこだわりを知った」と曙橋かずオーナーシェフの松尾和也さん
来店客の紹介で2年ほど前に福島県内の生産者を訪ねるツアーに参加したことをきっかけに、福島食材の美味しさを知ったという。松尾さんは、「福島の生産者の方々は丁寧にこだわりを持って作っている。現地でお会いして話を聞き、福島の食材を使ってみようという気持ちになった」と当時を振り返る。
松尾さんの料理は、素材の味を引き出すシンプルな味付けが基本だ。日本の「だし文化」を大切にして、出汁と食材の良さを引き出すことを常に意識しているという。コース料理はその日に仕入れた食材によってメニューを組み立てている。「ヒラメやカレイなど常磐ものの白身魚は、全国的にも美味しさは格別」と話す。白身魚をはじめ福島産の食材がコースの主役になることもある。
福島の酒に驚きの声…埋もれた味は各地に
2025年11月から2026年1月にかけて福島県内や東京都内などの飲食店で開催された「FUKUSHIMA SAKE SEVENフェア」にも参加した。福島のお酒と食の魅力を伝えるプロジェクト「テロワージュふくしま」の活動の一環で、フェアに参加している店舗が福島のお酒と料理のペアリングを来店客に独自に提案する試みだ。
フェア期間中、松尾さんはコース料理と日本酒、クラフトジン、ワインのマリアージュを楽しんでもらえるようにした。
食前酒のようなイメージで提供したのは、福島県川内村の「naturadist ill 川内村蒸溜所」のクラフトジンを使ったジンソーダ。さわやかな香りが漂いすっきりとした飲み口だ。コースのメイン料理の一つ、赤身で脂身がない牛肉には、オレンジワインを合わせた。
オレンジワインは、地域の耕作放棄地を再生して誕生した福島県川内村の「かわうちワイナリー」が醸造。北海道余市町のぶどうを使っている。来店客からは「これまで福島のお酒を味わう機会はなかったが、こんなに美味しいとは思わなかった」という言葉をかけられたという。
フェアでは、牛肉とオレンジワイン「リベル オランジェ ピノグリ 2023」のマリアージュを提案
曙橋かずは、2026年3月で開業から7年を迎えた。松尾さんは福島で出会った生産者の声が今も印象に残っている。「市場に出回ってない魚には、知られていないために価値がついていないが、美味しい魚がたくさんある。こうした魚も、もっと積極的に使って価値を上げていってほしい」。こうした言葉の背景には、料理人が地域の素晴らしい食材を使い切れていないという実情があるという。
松尾さんは「日本はすごく食材が美味しい国。まだ日本全国で訪ねていない箇所がたくさんある。いろいろな地域の食材を巡り、その良さを引き出していきたい」と食材への思いと今後の抱負を語る。