■ 美術館で“食べる”という体験

陶磁器の美術館、その展示空間の延長線上で料理を味わう——。器を“観るもの”から“使うもの”へと引き寄せるこの試みは、これまで以上にコンセプトを体現していた。実際に美術館の中で食事をするという体験は、どこか非日常でありながら、器と料理の関係性をこれ以上なく直感的に伝えてくる。

登場したのは、佐賀・有田で活動する髙岡盛志郎氏と、東京・赤坂『NIRVANA New York』の引地翔悟氏。ローカルと都市、異なるフィールドで研鑽を積んできた二人が、佐賀という土地で交差する。だがこのイベントは単なるコラボレーションではない。料理、器、そして土地。それぞれが独立するのではなく重なり合い、“体験”として立ち上がる場だ。コースは「香り」と「記憶」を軸に構成され、幼少期から現在へと時間を辿るように展開していく。皿が進むごとに、風景が移ろうような感覚がある。

■ 現在地と羅針盤──料理人の分岐点

「僕の現在地」は、焼きナスにスパイスを重ねた一皿。都市で磨いた技術と、佐賀の野菜が持つ輪郭の強さが交差する。「佐賀の野菜って、ちゃんと苦いんですよね」という言葉の通り、えぐみや個性は削ぎ落とされず、そのまま皿に現れる。整えすぎないことこそが、いまの彼の立ち位置を示している。

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