続けてEYSC パートナーの森内祐輔より、保険業界における不正リスク管理をさらに高度化するためのAI活用の最前線として、次の参考事例が紹介されました。

事例1:募集人不正検知事例

生命保険会社において、募集人の属性情報・行動履歴・契約動向など多様なデータを統合し、不正発生の可能性を予測するモデルを構築した。実証実験の結果、従来の担当者の経験や勘に依存する方法と比較して、検知効率は170倍に向上し、モニタリングの精度と効率が大幅に改善された。この取り組みは、保険募集管理態勢の高度化に直接寄与した実践的な成功事例と言える。
事例2:会計業務を監査対象とした異常検知事例

大手製造会社では、財務データを対象に、単純な前月比・前年比では把握しづらい“構造的な異常”を検出するため、勘定科目間の連関関係をモデル化したAIを導入した。これにより、単一科目の変動だけでは見逃されていた異常を特定することに成功し、監査対象の選定が効率化されただけでなく、監査の品質向上にもつながった事例となった。
事例3:高度なAI活用事例

AIが出力するもっともらしい誤答、いわゆるハルシネーションを抑制するため、「高度なAI」を活用した先進的なアプローチが導入された。この手法は財務分析の精度向上に寄与しただけでなく、出資先や海外子会社に関する経営リスク分析、リスクに応じた追加検証など、幅広い監査領域へ応用可能であり、内部監査におけるAI活用のさらなる可能性を示す事例である。

 
各社ディスカッション
ディスカッションの主な論点「不正リスク管理をテーマとした監査」の実施事例・課題従業員・代理店の不正への対応(現状の統制・モニタリング・教育・懲戒の有効性)第二線機能の弱さによる第三線の負荷集中報酬制度など構造的な不正誘因

 

不正リスクをテーマにしたディスカッションでは、実務の最前線で生じている保険業界特有の課題から構造的な論点まで、幅広い議題について活発な意見交換が行われました。参加者からは「専属募集人の不正は完全には防ぎ切れない」「代理店の行動をAIで分析し、リスク兆候を検知している」といった現場の取り組みや工夫が紹介される一方で、実務の難しさも率直に共有されました。

また、第二線の管理機能が十分に果たされていないことで第三線への負荷が過度に集中してしまうという組織構造上の問題や、募集人報酬制度が不正の誘因となり得る点など、制度設計そのものがリスク要因となり得ることも議論されました。

こうした意見交換を通じ、内部通報制度の強化や教育・懲罰の見直し、フォレンジックや異常検知の活用といった既存施策に加え、予防的統制を再設計することが不可欠であるとの認識が共有されました。最終的には、「不正はゼロにできない」という前提に立ちながら、早期検知と継続的モニタリングを強化し、組織として対応力を高めていく姿勢が重要であることが確認されました。

 

4.閉会あいさつ

EY Japan 金融事業統括 パートナー山野 浩より、本ラウンドテーブルで得られた知見が各社の内部監査高度化につながることへの期待とともに、今後も業界全体のガバナンス向上に向けた対話の場を継続して提供していく方針が示されました。

 

5.今回の開催を振り返って

今回のラウンドテーブルでは、金融庁による段階別評価の再定義が契機となり、各社で第三線を統括するエグゼクティブが多数参加されたこともあり、議論はオペレーションレベルにとどまらず、より経営視点を踏まえた深い内容へと広がりました。特に、組織文化の醸成・再構築、海外拠点における統制とガバナンス、役職員の行動規範や倫理意識の浸透といった、現場の改善だけでは対応が難しい“構造的テーマ”に関しても多くの意見交換が行われました。これらは、グループ経営や企業文化といった広い視座からアプローチする必要がある領域であり、参加者の間でも課題感が共有されました。

企業価値向上に寄与する内部監査を実現するためには、グループ全体を俯瞰(ふかん)した統一的かつ一貫性のあるグローバル監査態勢の構築が一層重要であり、また、近年事案が相次いでいる不正リスクへの対応に関しては、不正を“完全に防止する”ことは現実的に困難で、 “不正は一定の確率で発生する”ことを前提とした“対応策”が必要であるとEYは考えています。

次回以降の開催に向けては、AI活用(特に内部監査プロセスへの組み込み)、カルチャー監査(組織文化の可視化と評価)、グループガバナンス(海外拠点を含むリスク・統制態勢の整備)といったテーマへの期待が多く寄せられました。

 

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