大学入試で英語外部試験の利用が広がる中、TOEIC L&R(TOEIC Listening & Reading Test)の試験で組織的な不正受験が行われていたことが発覚しました。不正行為によって試験スコアを取り消された対象者は800人を超え、対象者が在籍していることが判明した大学院側が入学を取り消すなどの混乱が生じています。今後の英語外部試験への影響はあるのでしょうか。(写真=ピクスタ)
外部検定試験の利用が広がる
旺文社教育情報センターによると、英検(実用英語技能検定)をはじめとする英語外部試験を利用して受験できる大学は、2025年度入試で478大学にのぼりました。外部試験活用の動きは10年ほど前から広がり始め、増加の一途をたどっています。一定レベルの外部試験スコアの保有者は、英語の個別試験を免除されたり、共通テストや個別試験の得点に換算されたりと、さまざまな優遇制度が設けられています。
全国の外部試験利用大学数の推移(参考=旺文社教育情報センター)
大学入試に利用されている英語外部試験で現在、最も多いのは英検ですが、TOEIC L&Rを利用する受験生も一定数います。特に大学院入試では、留学生を中心にTOEIC L&Rが広く利用されています。
例えば、立命館大学経済学部国際専攻(総合型選抜)では、英検2級以上、TOEIC L&Rテスト550点以上など、いずれかの外部試験のスコア要件を満たす必要があります。工学院大学では、外部試験で指定したスコアを保持していれば、英語の試験が免除になる「英語外部試験利用日程」があり、TOEIC L&Rテストなら400点のスコアが必要です。芝浦工業大学は、英語の独自試験を廃止し、英検などの外部試験のスコアを換算して使用しています。
TOEIC L&Rで不正受験が発覚
ところが、2025年5月、TOEIC L&Rの試験会場で、他人になりすまして試験を受けようとした中国籍の京都大学大学院生が現行犯逮捕され、その後、組織的な不正行為が行われていたことが発覚しました。試験会場には同じ住所で申し込んだ中国籍の多数の男女がおり、この大学院生が眼鏡型の電子端末(スマートグラス)や小型マイクを使って答えを教えていたと見られています。
TOEIC L&Rを主催する一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が調査した結果、この大学院生と同一または酷似した住所で受験を申し込んだ者が、23年5月~25年6月の試験で803人にのぼることがわかりました。同協会は7月、803人のこれまでの受験スコアを無効にすることを発表しました。
TOEIC L&Rの不正受験者がこの2年間に大量にいたことがわかったことから、大学入試や大学院入試でTOEIC L&Rを利用している大学は、大きな衝撃を受けました。不正受験者が在籍している可能性があったからです。大学側は同協会に問い合わせ、学内に該当者がいないか調査して、対応を検討しました。
まず筑波大学が25年12月3日、同年4月に入学した大学院生1人のTOEIC L&Rスコアが無効になったとして、入学許可を取り消したことを発表しました。次いで東京理科大学が25年12月17日、同様の理由で大学院入試合格者1人の合格を取り消したことを発表しました。さらに26年1月9日には、早稲田大学が大学院生5人の入学を取り消し、大学院入試に合格し入学しなかった3人の合格を取り消すことを発表しました。また学部・大学院を受験して合格しなかった44人(学部3人、大学院41人)の不正行為を認定し、このうち学部に在籍していた1人については無期停学処分にしました。
ある大学の入試担当者は、「不正がわかった者は、氷山の一角ではないでしょうか。大学としては、スコアを信頼するしかない。TOEIC L&R側には、社会的信用を失わないように、不正が起きない環境をしっかりと作ってほしい」と訴えます。
この大学では事件を受けて、今年からスコアが偽造されたものでないかどうか、一人ひとりの点数の確認を始めています。TOEIC L&Rのスコアは、提出された資料に掲載されているQRコードで確認すると、点数が表示される仕組みになっています。作業が増えて大変ですが、スコアを認定するためには手間がかかってもやらざるを得ないということです。不正は受験の時に起きたことですが、大学側としてできることを検討した結果、「スコア確認」という作業を始めました。
「大学入試は多様化を極めており、英語力を保証してくれる外部試験を利用する大学が増えるのは、当然の動きです。高校生も英検やTOEIC L&Rのスコアをいつまでにどこまで上げるかを勉強のモチベーションにしています。外部試験を利用する流れは止まらないと思います」
デジタル受験票も導入予定
TOEIC L&Rを主催するIIBCの広報責任者・松田隆さんは、「まず、多くの方々に不安を感じさせてしまっていることをお詫びしたい」と話します。
「TOEIC L&Rが信頼されているからこそ、多くの入試にも利用してもらっていると感じています。その根幹を揺るがす今回の不正は、私たちとしても極めて遺憾です。これまでも不正行為は見つけ次第、厳正に対処してきましたが、逮捕者が出たのは初めてのことで、大学を含め、各方面から多くの問い合わせが寄せられました」
今回の事件以降、不正防止のための新たな対策が追加されました。
試験会場では、試験官による注意喚起のアナウンスを強化し、受験者がすべての電子機器の電源をオフにしたかどうかを試験官が目視でチェックします。受験者の眼鏡がスマートグラスでないかどうかの確認も含まれます。26年1月には、受験対象者を見直し、「日本国籍を有する」または「日本国内に居住実態がある」ことが、日本国内でTOEIC L&Rを受験するためのルールになりました。
「26年4月からは本人確認書類の規定を変更し、日本国籍以外の方はパスポートや学生証はNGとします。また、デジタル受験票の導入を予定しています。本人確認書類のICチップに登録された情報と申し込み時に登録した情報を照合することで、他人のなりすましをより厳しく防止することになります」
不正を防止するため、受験票発行や試験監督の負担は増えることになります。実際に、最近TOEIC L&Rを受けた受験者からは「眼鏡をかけている人は皆、試験監督に外すよう求められて細かくチェックされていた。確認することが多い印象を受けた」という声も聞かれました。しかしIIBC側は、適正な運用のためにはこれも必要なことだと捉えています。
「当日の確認事項などは増えていますが、現場でもその必要性が理解されているので、しっかり対応していただいています。確かに、不正対策を強化するほど、ご不便をおかけすることもあると思います。でも最も重要なのは、試験が適切に実施され、真剣に受験している受験者の努力がきちんと報われることです」

大学側はどこまで責任を負うべきなのか
TOEIC L&Rの不正受験者が学部・大学院入試を受験した大学は他にもあると思われ、事件の余波は広がる可能性もあります。また、TOEIC L&Rに限らず、今後さらに利用が増えていくと予想される外部試験で不正があった場合、大学側がどこまで責任を負うべきかという本質的な課題もあります。
IIBCの松田さんは、次のように話します。
「TOEIC L&Rは合格・不合格があるものではなく、自らの現在の英語力をスコアで可視化し、次の目標設定に生かすことができるテストです。しっかり勉強して受験する人ほど、自分がどれだけ生きた英語を使える力がついたか、その測定の効果を実感してもらえるはずです。本来の意義を理解し、一生懸命に取り組む受験者に今後も活用してもらえるよう、信頼回復と維持に努めてまいります」
(文=Thinkキャンパス編集部)
