白馬(CNN) 居酒屋「おひょっくり」の前には、午後5時から列ができ始める。あまりの人気に、席を確保しようと開店30分前から店外で待つ人が出るほどだ。

村の反対側にあるアプレ・バーではスキー客がビールやカクテルのグラスを傾け、大音量の音楽に合わせて踊る。スキーブーツをはいたまま、木の床で足をすべらせないように気をつけながら。

長野市郊外、日本アルプスの白馬バレーで、スキーシーズンによく見かける夜の街の光景だ。ここにある10カ所のスキー場は安定した積雪、高い山々と楽しい雰囲気で知られ、世界的なスキーの名所になっている。

だが地元住民は必ずしも外国人旅行者を歓迎しているわけでなく、酔って騒ぐ旅行者に苦情が寄せられてきた。

これを受けて、白馬村の丸山俊郎村長はこのほど、迷惑行為の増加を食い止めるための罰金を新設した。罰金は最大5万円で、今年7月から適用される。歩行中の飲酒、深夜の騒音や花火などの行為が警察の検挙対象となり得る。

このような行為を禁止する条例は10年前に制定されていたが、罰則規定がなく、ほとんど効果が上がらなかった。丸山氏によると、地元業者から違反者への罰則を求める声が出ていた。

ただし、罰金の必要性をだれもが認めているわけではない。白馬バレーで10軒のホテルと13軒の飲食店を運営し、貸別荘やアパートメントの管理も手がける不動産管理会社、白馬ホスピタリティグループ(HHG)のマーカス・バウダー最高経営責任者(CEO)は、CNNとのインタビューで問題が「誇張」されていると主張した。

「白馬には、冬の夜に少し騒がしくなり、パブやバーが並ぶ地区もある」と、バウダー氏は語る。だが「これは世界のどの観光地でも珍しくないこと。日本に特有、白馬特有の問題ではない」という。

白馬村のオーバーツーリズムをめぐる懸念についても同じだ。

同氏は「オーバーツーリズムからは程遠い」と主張した。「クリスマスと正月はとても混雑するが、1年の大半は観光客の姿もなく、誘致に努めているところだ。私たちからオーバーツーリズムの問題があるというメッセージを発信するとしたら、それは大きな間違いだと思う」

1998年長野オリンピックの競技会場となった八方尾根を歩いてみれば、双方が主張する正反対の懸念が理解しやすくなる。街にははっきりと欧米風の雰囲気が漂い、名高いパウダースノーが世界各地から旅行者を引きつけている。

一方で、ここは欧米からの顧客層に対応しながらも、日本らしい魅力の多くを維持してきた。

オーストラリアからスキー休暇で訪れていた農家の男性はCNNの取材に、「オーストラリア人が大勢いるので、日本にいることを時々忘れてしまう」と語った。男性によれば、この場所の魅力はナイトライフ。他のリゾートはもっと静かで、欧米化も進んでいないかもしれないが、「日が暮れた後はあまりやることがなかった」という。

白馬は欧米のスキーリゾートに比べると際立って閑静だ。スキー客からは、老朽化したリフトや計画性に欠けるコース構成のせいで人の流れが滞ることもあるという声がよく上がるものの、行列はめったになく、普段はコースを独り占めできる。

ただし、日本へのスキー旅行者が増えるにつれて、白馬も今後さらに混雑する一方だろう。

門戸を閉ざすのか

夕食の席を確保しようと、居酒屋「おひょっくり」の店外で待つ観光客/Sam Peters
夕食の席を確保しようと、居酒屋「おひょっくり」の店外で待つ観光客/Sam Peters

丸山氏がCNNに語ったところによると、オーバーツーリズムという言葉は説明が少し難しい。

人数だけの問題ではない。白馬には昨年、106万4000人のスキー客が訪れたが、ピークは1992年の278万5000人だった。同氏によれば、92年の客はほとんど全員が日本人だったという点が異なる。新たに訪れるようになった外国人が、物価を押し上げているという懸念もある。

白馬の民宿は大半が朝食と夕食を提供するが、夜は外食するという欧米方式が持ち込まれて飲食店の客が増え、価格が上がった。円安の影響で、外国人客には1杯1300円(8.25ドル)のラーメンが割安と感じられても、地元の人々にとっては高すぎると、丸山氏は指摘する。

冬の間、小さな街に多くの外国人旅行者が集中すると、スーパーマーケットやシャトルバスは混雑し、騒がしくなることが多い。東京で地下鉄車内を支配する静けさとは別世界だ。

夜になると熾烈(しれつ)さはピークに達する。大半の問題が集中する八方尾根エリアのナイトライフの中心地、エコーランドでは、地元の業者から酔って騒ぐ旅行者への苦情が寄せられてきた。

バウダー氏も問題が起こり得ることを認めたうえで、そもそも問題を防ぐ責任は業者側にあるとの考えを示した。

また一部の情報によると、白馬の地価はコロナ以降、130%も上昇した。

だがバウダー氏は、これがホテル経営者らの利益になっている面も大きいと指摘する。かれらの資産価値は1990年代以降、上昇していなかったからだ。長野が98年冬季オリンピックの開催地に選ばれた時は地元で建設ラッシュが起き、新幹線が開通して東京からの移動時間は約90分に短縮された。

白馬では11種目の競技が開催され、多くの宿泊施設が改装の費用をまかなうために借金を抱えた。92年のバブル崩壊で不動産価格が下落し、宿泊施設は投資を回収できない状況に陥った。

バウダー氏は詳細への言及を避けつつ、HHGが最近、日本人カップルから白馬の和田野区にある宿を2億5000万円で購入したことを明らかにした。コロナ前の時点の資産価値は4600万円に満たなかったという。

白馬村で高価な物件を買っているのは外国人だけではない。最近分譲されたホテルコンドミニアム「ラヴィーニュ」によると、日本人の購入が82%を占めたという。販売価格の最高は2億7000万円に上った。

難しい綱渡り

観光とのバランスを取ろうと苦心している日本の観光地は、白馬だけに限らない。

コロナ後の日本では、京都から北海道まで各地で絶えず、オーバーツーリズムから生じた問題が報じられてきた。最近では富士山麓(さんろく)の山梨県富士吉田市で、敬意に欠ける観光客に対する苦情を受け、桜まつりが中止された。

日本の人気ぶりはかつてないレベルに達している。政府の統計によると、昨年日本を訪れた外国人旅行者は4260万人。中国からの旅行者は台湾をめぐる外交問題で減少したものの、全体の26%を占めた。外国人の旅行消費額は9.5兆円に上り、日本の外貨獲得産業としては第2位に位置している。

政府は30年までに訪日外国人を6000万人に増やす目標を掲げている。

白馬村長の丸山氏も旅行客が地元の経済を支えていることに感謝する一方、増えすぎた旅行者による負の影響に悩む地区に対し、政府はほとんど手を差し伸べていないと指摘した。

丸山氏は最近、旅行者の増加で負担がかかっている道路の整備やバスの運行など、公共サービスの財源を補うために宿泊税の導入を決めた。

バウダー氏はこの導入に批判的な立場を示す。丸山氏自身が熱心に取り組んでいる夏の観光誘致を妨げ、旅行者を遠ざけてしまうとの理由からだ。スキーシーズンは例年、11月末に始まって5月初めには終わる。

これに対して丸山氏は、日本を訪れる旅行者が増えているのなら、分散を促すべきだと主張した。観光の専門家らも同様に、人気のある観光地への負担を軽減するため、国内のあまり知られていない地域に観光客を呼び込む必要があると強調している。

とはいえ、現時点で丸山氏ができることはあまりない。村にゲートがあるわけではないからと、同氏は言う。

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