「The Tabelog Award 2026」授賞式。壇上は「GOLD」受賞店のシェフたち
レストラン検索、予約サービス「食べログ」を運営する株式会社カカクコム主催のレストランアワード「The Tabelog Award 2026」が今年も1月に発表された。2026年は第10回目のメモリアルイヤーだという。今回、初めて参加してみたところ、その華やかさに驚いた。イベントとしての規模や豪華な演出、そして何より印象に残ったのは、トップシェフたちの晴れやかかつ高揚した表情だった。
記者発表の一コマ。食べログ20周年CMキャラクターの小芝風花氏と食文化に造詣の深い片岡愛之助氏
「食べログ」が拓いた、食批評の大衆化
友人たちと会食の約束をすると、予約を担当した幹事・取りまとめ役からメールやLINEで店の情報が送られてくる。貼り付けられたURLを開くと、「食べログ」の店舗情報ページが開かれる。店名に住所、電話番号に加え、最寄り駅からのアクセスなどが示され、地図情報はGoogle mapにリンクするから便利。もはやレストランを利用する人にとってのインフラとさえいえるだろう。
「食べログ」がサービスを開始したのは2005年。インターネットの普及を受け、1990年代には「ぐるなび」などいくつかのレストラン情報サイトが登場しているが、「食べログ」は、レストラン側の情報を編集・発信するのではなく、実際にレストランを訪れた人が感想・評価を書き込むレビューサイトという点において画期的だった。SNS以前の時代に、評論家や料理記者の領域だった食の批評が、大衆化する大きなきっかけになったといえるだろう。当初は、「素人が書く匿名記事など信ぴょう性に欠ける」と疑問視する向きも多かったが、次第にその評価はレストラン側も無視ができない影響力を持つにいたる。
記者発表にて。データを公表し、解説をする株式会社カカクコムの上級執行役員 食べログ カンパニー長、鴻池 拓氏
個人的な話になり恐縮だが、2000年代の後半は、筆者がフリーランスで食のライターとしてのキャリアをスタートした時期にあたる。雑誌メディアもまだ盛況で、年間200軒前後の飲食店を取材し記事を執筆していた。それにも関わらず、例えば大学時代の友人らと食事に行こうとなり、何軒か話題の店を提案すると最終的に「ここがいい。だって食べログの点数高いし」と言われ、もやっとした気持ちを抱いたことがある。名物料理は何か、ワインは充実しているか、長居しても大丈夫な雰囲気かどうか、などより具体的なことを自分に尋ねてくれたならば答えることができるのに、結局ジャッジの基準は食べログでの評価・点数だったからだ。「そんなに頼りにしているならば最初から食べログを見て自分たちで選びなさいよ」と、心の中で毒づくことしばしばであった。が、同時にその頃には、店リストを送る際に、食べログのリンクを貼るのが当たり前になっていた。筆者自身も冒頭に記した状況にいつの間にかすっかり慣らされていたというわけだ。
「食べログ」レビュワーのフォロー機能(マイレビュワー登録)やレビュワーランキングの発表は、レビューの質を高め、レビュワーという一食べ手を著名人にする結果をもたらした。この後にSNSに引き継がれる、フォロワー・インフルエンサー関係の萌芽である。レビューを検索すると古くから雑誌等のメディアで活躍する批評家たちの名前も見つけることができる。「誰でも投稿できる」の“誰でも”には、もちろんプロも含まれているからだ。「食べ手」などという言葉が出来たのも、この時期ではないだろうか。「お客(さん)」「ゲスト」から「食べ手」への変化には、「料理を軸としたサービスを享受する人」から「それらを評価する人」への意味合いの変化が見て取れる。
“嫌われ者”が、“ステイタス”に成長するまで。
前置きが長くなったが、「The Tabelog Award」の話をしよう。レビュー機能により、バブル経済期以降の一億総グルメ批評家時代に拍車をかけた「食べログ」が、2016年に発表したのが「食べログ JAPAN RESTAURANT AWARD」だ。それまでも年間の人気レストランランキングを「ベストレストラン」として発表していたが、そのコンセプトを見直し、単なる集計結果の公表から、多くのユーザーに支持された飲食店を表彰し発信する形に発展させた。「The Tabelog Award」の前身である。
レストランに加え、ラーメンやスイーツなど部門別のアワードも並行して開催し、ユーザー支持の集計をもとにした「TOP50」を選出。飲食店やユーザーから一定の注目は集めたものの、今ほどのニュース性はなかった。2017年、コンセプトと構造を磨き上げ、名称を現在の「The Tabelog Award」に刷新。「おいしいを、讃えよう。」というキャッチコピーのもと、現在に続くアワードの思想を明確に打ち出した。
「Gold」受賞で登壇した白金高輪『島津』島津千周氏。女将として店に立つ妻や取引先鮮魚への感謝を述べた
初めて「The Tabelog Award」の存在を知ったときの印象は、正直なところ「アワード? あの食べログが??」というものだった。当時、集客に大きく関わる「点数」に関して、採点方法の公平性が飲食店の間でたびたび話題になっていたり、ユーザーのネガティブなレビューが飲食店オーナー側の怒りを買ったりする事例があったからだ。なかには「食べログへのレビュー投稿お断り」を掲げる店があったほどである。今、振り返ればそれほど影響力があったということなのだが、ともあれ、その「食べログ」が主催するアワードを、「料理人たちは、果たしてありがたがっているのだろうか」、というのがその頃の偽らざる思いであった。
ところが、年々その思いを改めざるを得なくなる。授賞式の様子をSNSでアップする料理人のポストを目にする機会は年を追うごとに増え続けた。同時に、食事に出かけた先々で、レストランのエントランス付近に「The Tabelog Award」の盾やトロフィーが置かれているのを見かける機会も増えた。多くの店で、「ミシュランガイド」や「アジアのベストレストラン50」のそれらと並べて飾られるようになる。
