いま必要なのは、生身の人間と向き合い、人間の心に響くようなエピソードを「聞き出す力」。そして、常に想定外が起きる取材現場での「柔軟な対応力」を身につけることだ。
昨年秋に開催され好評を博した「日刊SPA!」編集部主催の1日集中ライター養成講座の第2回となる「インタビュー実践演習を通じて取材力を養う “聞き出す力”を身につけるライター養成講座」が1月16日(金)に株式会社扶桑社の会議室で開催された。
第1回講座のアーカイブ動画はこちら⇒「AI時代を生き抜く!「聞き出す力を身につける」ライター養成講座|取材&撮影スキルを現場で学ぶ【アーカイブ動画】」
講師は、第1回から引き続き、日刊SPA! でもヒット記事多数のノンフィクションライター・黒島暁生氏と、編集・取材歴約20年のベテラン編集者/ライター・藤井厚年氏(日刊SPA!編集部)。
本講座は、机上のテクニックだけではなく、プロの現場で通用する力を磨くことに重きを置いている。今回は取材対象者役にタレント・講師として活躍中のスマイリーキクチ氏を迎え、受講者たちが本番さながらにインタビューの実践演習を行った。ここからは、その一部を紹介していこう。
■講師プロフィール
黒島 暁生(ライター/『日刊SPA!』寄稿多数)
人物インタビューを得意とするノンフィクションライター。「タトゥーが入った女性」「高学歴×風俗嬢」など、“生き方”に迫る取材記事でヒット多数。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。
Xアカウント:https://x.com/kuroshimaaki
藤井 厚年(「日刊SPA!」編集部員/編集・ライター歴約20年)
数々のインタビュー取材・撮影を手がけ、ライター育成にも豊富な実績を持つ。本講座では進行と講師を担当。
Xアカウント:https://x.com/FujiiAtsutoshi
◆インタビューの“現場”とは何なのか?
イベントの序盤、まずは編集者の藤井氏より、あらためてメディアに掲載される記事について説明があった。
「自分の言いたいことを伝えるだけなら個人ブログやnoteでもじゅうぶん。そんななかで、Yahoo!ニュースなどに転載されたり、より多くの人の目に触れるメディアの記事であえて伝えようとするならば、自分の興味をベースにしながらも、掲載されるメディアのターゲット層の興味も意識して、メディアとしても“取り上げる意味がある”ようにしてあげましょう」(藤井氏)
続いて、現場におけるライターの立ち居振る舞いを確認していく。「取材の場所は普段どこを使っているのか?」という問いには、黒島氏がこう語る。
「実は、ここに来る直前まで日刊SPA!の仕事だったんですが、近くのデニーズでインタビューしていました。あまり静かな環境だと、周囲のお客さんに聞き耳を立てられてしまう。ファミレスのような適度にガヤガヤした場所のほうが話しやすいこともあるんです」(黒島氏)
藤井氏も、自身のスタイルを明かす。
「最近は喫茶店が多いですね。リラックスして話してもらうために、経費を出して美味しいデザートも頼みます(笑)。おじさんがパフェ食ってる姿に、なんとなく場が和むので。ただ、テーマによっては配慮が必要です。たとえば、元セクシー女優さんのインタビューなどでは、個室のカラオケBOXを使っていますね」(藤井氏)
■ゲストプロフィール
スマイリーキクチ(タレント/講師)
1972年東京都生まれ。1993年「ナイトシフト」を結成後、解散を経てピン芸人として活動。
テレビ番組「爆笑オンエアバトル」や「ボキャブラ天国」などで活躍。ニコニコしながら毒を吐いて笑いをとる、毒舌漫談のスタイルが特徴。
2000年代にはネット上で自身を“殺人犯”とする誤情報が拡散し、深刻な中傷被害に遭った経験から、現在は芸能活動と並行し誹謗中傷問題をテーマに全国で講演活動を行っている。
著書に、『突然、僕は殺人犯にされた 〜ネット中傷被害を受けた10年間』 (竹書房)などがある。
X:https://x.com/smiley_kikuchi
◆スマイリーキクチ氏への公開インタビューがスタート
そして、ゲストであるタレントのスマイリーキクチ氏が登場。
現代においてSNSやネット上の誹謗中傷は大きな社会問題として扱われるようになったが、スマイリーキクチ氏は今から25年以上前(1999年)、身に覚えのない殺人事件に関わっていたというデマが書き込まれ、長きにわたって仕事やプライベートが脅かされた経験がある。
参加者たちが実践演習に入る前、講師の黒島氏が実際の流れに沿って公開インタビューを行った。
「スマイリーさんは、もともとは体育の専門学校に進んだところから芸人として売れっ子になり、頂点を目指した時期もあったはずです。しかし、ああいう誹謗中傷があったことから現在の活動は講演が中心になっています。
自分が本来なりたい姿になれなかったとしても人生は続いていくわけですが、そのときに腐らなかったからこそ、今たくさんの講演依頼がきているのだと思います。最初はもちろん悩んだはずですが、どのようにしてプラスに転換していったのか教えてください」(黒島氏)
黒島氏は、取材先の警戒心を解くために、あえてICレコーダーなどで録音しないスタイル。スマイリーキクチ氏の言葉に相槌を打ちながらキーボードを叩いていった。

【今回のインタビューで黒島氏が執筆した記事はコチラ】⇒「一日1000件の殺害予告が…」スマホなき時代のデマ拡散。“殺人犯”にされたスマイリーキクチが今なお警鐘を鳴らし続けるワケ
◆実践演習で得られる“ 現場力”と“新たな気づき”
インタビュー実践演習の持ち時間はひとり約7分。編集部から与えられた事前情報などをもとに、それぞれが関心に応じたテーマを設定した。
「今回はあくまで実践演習なので、みなさんの聞きたいテーマで構いません。ただ、実際の仕事においては、編集部からは、その回答に至るまでの“具体的なエピソード”を聞いてほしいという要望は出るかもしれません。先ほどの黒島さんのインタビューでいえば、スマイリーさんのおばあちゃんの言葉。内容に深みが出て、タイトルや小見出しでも使いやすいので」(藤井氏)
スマイリーキクチ氏の著書を読み込み、現代ネット社会の難しさ、誹謗中傷を受け続けた当事者としての見解を問う声もあれば、当日(1月16日)がスマイリーキクチ氏の誕生日だったことにちなみ、“年齢”を起点に人生へと展開していく参加者も。
また、芸人としての原点や転機を尋ねる質問もあるなど、テーマは実に幅広い。まさに十人十色、多様な質問が投げかけられた。
いずれの質問に対しても、スマイリーキクチ氏はひとつひとつ丁寧に言葉を選びながら答えていく。これまであまり語られてこなかった情報が飛び出す場面も……。
参加者たちは、他のライターがどんな切り口で質問をするのか、“間”の取り方はどうなのか。見学中は、静かに耳を傾け、時には感嘆の表情でうなずくような姿が印象的だった。
「インタビューに正解はない」と講師たちは言う。
「最初から答えが決まっているインタビューはしないでほしい」とスマイリーキクチ氏は言う。
インタビューは、技術もあるが、人と人との対話であり、ただ質問を並べるだけではなく、相手の言葉の奥にある感情や背景をくみ取り、引き出していく力が求められる。つまり、それが“現場力”ではないだろうか。
◆初心者から経験者まで“リアル”が体感できる機会
インタビュー実践演習の後は、参加者たちと扶桑社の編集者たちの交流会が開かれた。
今回のライター養成講座は、SEOから今後はインタビューに挑戦してみたいライターなど、取材経験が浅い人向けの内容として告知していたが、蓋を開けてみれば、参加者はすでに現場で活動中のライターが半数近くだった。
ライターは、出版社や編集プロダクション勤務から独立した人をのぞけば、ほとんどの人がうまくいく方法を“自己流”で模索していくことになる。
「自分のやり方で大丈夫なのだろうか……」
未経験でもライターを名乗った時点で、その人は“プロ”ということになってしまうが、そこに明確な基準や資格があるわけではない。ゼロベースの状態から親切に教えてくれる編集者も少ない。
仕事をするようになれば、ライター同士のつながりで“インタビューのコツ”自体は他の人から聞くこともできるのだろうが、実際の現場は秘匿性が高いものなので、それをリアルで見せてもらうことは難しい。
だからこそ、プロの現場を模擬体験できる本講座は、初心者にとっても、すでに活動しているライターにとっても、自身の現在地を確認し、“次の一歩”を考えるための貴重な機会となったはずだ。
なお、実践演習に対するフィードバックも講師たちから個別に送られている。参加者たちが今後どんな記事を書いていくのか、楽しみにしたい。
第1回講座のアーカイブ動画はこちら⇒「AI時代を生き抜く!「聞き出す力を身につける」ライター養成講座|取材&撮影スキルを現場で学ぶ【アーカイブ動画】」
<文/日刊SPA! 編集部>
