気象庁が今年の夏の平均気温を「統計を開始した1898年以降の夏として1位の高温」と発表するなど、前例がないほどの酷暑に見舞われた2025年。今年に限らず高温傾向は続いており、夏の暑さが秋の紅葉へ与える影響も心配されるところだ。今回は一般財団法人日本気象協会「tenki.jp」で日々気象情報を発信している気象予報士の高森泰人さんに、現時点での見頃予想や、酷暑がもたらす紅葉の変化、未来の紅葉の予想像まで話を聞いた。

【画像】今年の紅葉、見ごろはいつ…?

一般財団法人日本気象協会の気象予報士・高森泰人さんにインタビュー

■記録的な酷暑の夏を経て、今年の紅葉はどうなる?

鮮やかな秋の紅葉、猛暑はどう影響するか気象予報士に聞く(写真はイメージ)

――はじめに、日本の紅葉の時期は年々どのように変化しているのか教えてください。

【高森さん】気象庁が毎年発表する気候変動のレポートの中に「日本におけるさくらの開花・かえでの紅(黄)葉日の変動」というコラムがあります。これを見ると、1953年以降、かえでの紅(黄)葉日は10年あたりで3日程度遅くなっています。

これは平均気温の変動と非常に相関が高くて、紅葉が遅れているのは、長期的な気温の上昇が影響していると考えていいのかなと思います。地球温暖化の影響で、紅葉するための木の中の反応が遅くなっているということですね。

自身の足でも紅葉スポットを巡って観察しているという

――紅葉と気温に関係があるんですね。紅葉のメカニズムは大まかにどのようなものなのでしょうか?

【高森さん】気温が下がって冬が近づいてくると、樹木は落葉の準備に入ります。具体的には、葉と枝の間の栄養供給を減らしていき、落葉する前に葉の栄養素を枝から取り込みます。そうなると、葉はそれまで盛んに生成していた葉緑体を作ることができなくなり、葉の緑の色素「クロロフィル」が分解され、黄色の色素「カロテノイド」が見えるようになったり、赤色の色素「アントシアニン」が新たに合成されたりするため、葉が色づいて見えるという仕組みです。これが紅葉から落葉にいたるまでのメカニズムとなります。

なお、日照が多く、適度な降水があると美しい紅葉になりやすいとされています。過去取材したところ、神奈川県自然環境保全センターによるとその理由は「葉の内部で光合成産物がより多く作られるから」だと聞いています。

――今年の夏は各地で40度を超えるなど記録的な暑さとなりましたが、こうした夏の猛烈な暑さは、秋の紅葉にどのような影響を与えるのでしょうか?

【高森さん】紅葉は秋の気温がカギになるのですが、それでも今年のように過度な暑さは美しさによくない影響が出ます。極端な暑さが紅葉にどう反映するかデータとしてはまだ研究が進んでいませんが、猛暑になると葉の中の水分が乾燥しやすくなって、葉がダメージを受けたり枯れたりしてしまいます。

夏の高温は葉にダメージを与えるおそれも

それと、猛暑になると太平洋の高気圧がずっと強い状態なので、局地的に強く降ることはあっても、全体的に雨が降りにくい。そうするといわゆる「葉焼け」みたいなことも起きて、鮮やかな紅葉を楽しむのがちょっと難しくなるところもあるんじゃないかと考えられます。

■今年の紅葉シーズンのはじまりはいつ頃?

――今年の紅葉シーズンは、全国的に平年と比べていつ頃から始まると予測されますか?やはり、紅葉時期は全体的に遅れる傾向になるのでしょうか。

【高森さん】2025年の紅葉は、北日本と東日本は平年並みか遅く、西日本はおおむね平年並みの見頃となる見込みです。今秋は、全国的に10月の気温は平年より高く推移する傾向で、その影響から例年の見頃が早い地域を中心に、見頃の時期が平年より遅くなる予想です。一方、11月は気温は徐々に平年並みへと落ち着くとみられ、東日本の平野部と西日本では、おおむね平年並みの見頃となるところが多くなりそうです。

日本気象協会による2025年の紅葉見頃予想(第1回、2025年9月18日発表)

――特に人気の観光地である京都の紅葉についてお伺いします。今年の京都の紅葉名所の見頃はいつ頃になりそうでしょうか?また、色づきへの影響はいかがでしょうか?

【高森さん】代表的な名所のひとつを挙げると、京都・嵐山では2025年の紅葉見頃は11月中旬ごろとなりそうです。北日本・東日本と比べて西日本は見頃の訪れが遅く、先ほどの通り11月の気温は少し落ち着く予想のため、平年並みの見頃時期を見込んでいます。

――全国の主要な紅葉の名所について、今年の見頃や色づきの傾向について、現時点で予測できることを教えてください。

昨年、神奈川県自然環境保全センター協力のもと、紅葉と夏の猛暑の関係についてまとめたのですが、紅葉の葉の色の彩度には個体差があり、あまり調査・研究が進んでいません。また、適度な暑さは色づきにいい影響を与えると言われていますが、適切な温度は何度か?といった具体的な条件は明確にはわかっていないのが実情です。

見頃時期については、夏が猛暑となった場合、最も影響するとされる秋の気温も高くなることが多いですし、今年の秋も高温傾向が見込まれていますので、先述の通り北日本と東日本は平年並みか遅く、紅葉時期が遅い西日本はおおむね平年並みになると考えられます。

鮮やかさについては、都市部に比べて山間部のほうが気温は低くなるため、猛暑による影響が大きく出るところは多くないと考えられるでしょう。反対に、都市部の紅葉スポットは猛暑の影響が出やすいと言えます。また、風の強い台風が日本に接近・上陸した際には、風で葉同士がこすり合わさったり、海沿いでは海水が吹きつけ塩害を引き起こすといったダメージが色づきのよさに影響を与える場合があります。今後の台風の動向にも注意が必要です。

■どう変わる?日本の紅葉の未来

――近年は年々暑さの記録が更新されていると思います。来年以降もさらに暑くなることがあると、紅葉時期もだんだん遅くなっていくのでしょうか?

【高森さん】ありえると思います。先ほど申し上げたように、気温上昇がこのままの形で、かえでの紅葉日が10年あたりで3日程度遅くなるペースがそのまま続いたとすれば、2100年には東京で12月22日が紅葉日になって、クリスマスにちょうど見頃に差し掛かるかどうか、という計算になります。「雪のクリスマス」じゃなくて「紅葉のクリスマス」、まさに全然違う季節感ですね。太平洋沿岸だと傾向は似てくるはずなので、東京だけでなく、大阪や西日本まで太平洋側の広い範囲では、そういう光景が起き得るのではないかと予想できます。

「100年後はクリスマスに紅葉している可能性もありますね」と高森さん

――見頃のズレだけでなく、将来的に紅葉が見られる場所が限定されていく可能性は?

【高森さん】植物も生物の営みの中で釣り合いをとっていくでしょうから一概には言えないのですが、今後気温が上昇すると、朝晩の寒暖差が小さくなる可能性があります。紅葉は寒暖差によりきれいになると言われているので、そうなると寒暖差がある程度維持される場所でないと美しい紅葉が見づらいということもあり得るかもしれません。

また、気象庁の生物季節観測の中でも、近年は紅葉から落葉までがあっという間というケースがあるんです。過去は1週間程度紅葉が見られていた場所が、2、3日で一気に葉が落ちて一瞬しか紅葉が見られないことは可能性としてあり得ます。

――気候変動に適応し、美しい紅葉を維持するために、どのような取り組みや対策が必要だと考えますか?

【高森さん】こういう高温の状態は、地球温暖化がすべてではありませんが、大きな原因のひとつではあるので、それをなるべく食い止めることが必要になると思います。特に、地球温暖化で影響が大きいのは極域や赤道じゃなく、日本も含まれる中緯度帯ですので、地球規模で地球温暖化を少しでも食い止めることが、今後必要になっていくのではないかと思います。

身近なエコアクション10選

tenki.jpでも環境の日に地球温暖化の現状と私たちにできるエコアクション10選」という記事を公開しまして、「できるだけ公共交通機関・自転車・徒歩で移動する」「シャワーや洗顔・手洗いをするときは水を出しっぱなしにしない」「宅配便を1度の配送で受け取る」といった行動を紹介しました。一人ひとりの効果は小さいですが、こうしたことを世界規模で心がけていけるといいですね。

■気象のプロに聞く!今年の紅葉を楽しむためのアドバイス

――美しい紅葉を楽しむために、どのような点に注目して情報収集をすればいいでしょうか?

【高森さん】事前に見頃を読み切るのはかなり難しいですね。手前味噌ですが、私どものtenki.jpでは毎年、紅葉情報を配信しています。tenki.jpやウォーカープラスさん、あるいは観光協会のSNSなど、定期的に最新情報をチェックして、ここぞというときに行くことかと思います。

tenki.jpでは日々の天気のほか、紅葉の見頃や気象情報の解説も掲載している ※画像は2024年度のもの

もうひとつは、紅葉がきれいになるためには日中と朝の寒暖差が条件ですので、朝の気温が低ければ低いほどいいわけです。だから天気予報の解説の中で「明日は冷え込みます」とか「朝晩の気温差が大きくなります」みたいな言葉が出てきたら、それから少し経ったあとに紅葉が始まったり見頃になったりするサインです。ぜひ、日々の天気予報も気にして見ていただいて、そうしたキーワードをチェックしていただければと思います。

「日々天気予報を見ていると、ちょっとしたニュアンスの変化に気づけるかもしれません」(高森さん)

――日々状況は変化していくので、いかにリアルタイムで情報を受け取れるかがポイントになるということですね。見極めるキーワードを挙げるならたとえば?

【高森さん】天気予報を解説する中では、同じような表現でも気温などに連動して言葉の使い分けをしているんです。たとえば「ひんやり」だと、紅葉的にはまだまだ寒さが足りない。「冷え込む」だと、紅葉が進むサインになりますね。どのメディアでもいいので、日々の天気予報を目にしておいたほうがいいと思います。

――最後に、紅葉を楽しむために高森さんからメッセージがあればお願いします。

【高森さん】見頃を予測するのは非常に難しいですし、機動力でバッと出かけるのもなかなか大変だと思います。ですから地元できれいなところを探すのもいいと思います。

最盛期には大堰川が朱色に染まる/小石川後楽園の紅葉

都内であれば、私が本当におすすめなのは、やっぱり神宮外苑のイチョウですよね。あとは小石川後楽園や北の丸公園に紅葉がきれいなエリアがあって、そこは私も毎年見に行ってます。

黄葉ではメタセコイアですね。紅葉の見頃を見逃したときでも、メタセイコアはけっこう長くきれいな状態が持ちます。新宿御苑のメタセコイア並木や、大田区の洗足池公園、さいたま市の別所沼公園などがおすすめですね。

ウォーカープラスでは紅葉特集を掲載中!ぜひインタビューを参考にしつつ、最新情報をチェックして出かける参考にしてみて。

※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

Write A Comment