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生成AIにはない価値が眠っている都市
──杉山さんは今年からTOKYO CREATIVE SALON(以下、TCS)の統括ディレクターを務められていますが、これまでTCSの活動をどのようにご覧になっていましたか?
杉山央(以下、杉山) ぼく自身、昨年は赤坂エリアでの会場演出を担当したのですが、東京の主要エリアを横断しながらひとつのイベントをつくっていくTCSは類例のない取り組みだと感じていました。
企業やエリアの垣根を超えて東京の未来を考えられる基盤そのものが、非常に貴重なものなんですよね。TCSの内部では毎週各エリアの担当者とミーティングを行なっていて、そこでは三菱地所や三井不動産、東急不動産など各地域で活動するデベロッパーや企業の方々が、お互いの企画を共有しながら議論しています。
普通ならデベロッパーは自分たちが管理するエリアを中心に考えて働くわけですが、TCSではみんなが“仲間”になって東京をより魅力的な都市にするためのイベントをつくろうとしている。前職で長年街づくりに携わっていた立場から見ても、希望に溢れた場だと感じます。

杉山 央|OU SUGIYAMA
新領域株式会社 CEO / Art+Tech Producer 2025年大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちのあかし」計画統括ディレクター、2026年「東京クリエイティブサロン」統括ディレクター、2027年「GREEN×EXPO 2027」テーマ館 展示ディレクター等を務め、アートとテクノロジーを横断しながら新たな体験と空間の創造に取り組んでいる。
──今年のコンセプトである「FUTURE VINTAGE」はどのように考えられたものなんでしょうか。
杉山 このコンセプトには、2つの問題提起が込められています。ひとつは、生成AI時代における価値の問題です。いまは生成AIのようなテクノロジーによっていくらでも新しいものをつくれるようになっていますが、他方で歴史のあるものや思いの詰まったもの、時間が閉じ込められたものはAIで生み出せない。AIに置き換えられない価値が、古いもの(VINTAGE)には眠っているのではないかと思っています。
もうひとつは、現代の街づくりの問題です。多くの街に新たな施設が生まれて利便性も高まっている一方で、都市全体が均質化していると言われます。街の個性を表現したり、わざわざその街に行く目的をつくったりすることが重要だと言われるなかで、東京の各エリアが長い時間をかけて紡いできた記憶に目を向けるべきだと考えました。
過去の記憶を生かしながら、将来ヴィンテージになるような新しいものを生み出すこと──この行為を「FUTURE VINTAGE」と名づけたわけです。

スクラップ&ビルドを繰り返す東京の「編集力」
──FUTURE VINTAGEというテーマについて考えるうえで、杉山さんは東京という都市がどんな特性をもった場だと考えられていたのでしょうか。
杉山 東京のおもしろさは「編集力」にあると思っています。欧州の都市が古いものをそのまま残すことでアイデンティティを保っているのに対し、東京は江戸時代から続く古い街並みの隣に超高層ビルが建ち、裏路地に入れば新しい店が生まれる。古いものをスクラップ&ビルドしながら、異なる要素を混ぜ合わせていく。この編集力こそが東京の個性であり、新しいものを生み出すエネルギーの源泉です。
古いものを残すだけではなく、引き継ぎながら新たなアイデアやテクノロジーと掛け合わせる。一見断絶しているように見えても、その行為自体は連続し、「秩序のある混沌」がつながっている。それが東京のおもしろさだと思っています。日本橋のように手仕事の職人が残り伝統的な町のなかに新たなカルチャーが生まれる場所もあれば、渋谷や原宿のようにストリートカルチャーを中心として若者のファッションと街がつながっている場所もある。各エリアの特性を生かしながら、東京全体の魅力を高めていけたらと思っています。

──そうした東京の魅力を表現していくうえでもクリエイティブの力が必要だ、と。
杉山 わざわざ訪れたくなるような街はマーケティングや経済合理性のなかからつくられるものではなく、アートの力が必要なのだと考えています。ぼく自身も街全体をアーティストの表現の場に変えていきたいという思いから街づくりに携わってきましたし、アーティストとともに街を考えることが新しい体験や価値をつくるヒントになるんじゃないでしょうか。
特にTCSはさまざまなエリアに拡がるものですから、ひとつの施設やエリアに閉じず、東京全体をアーティストに解放することで新しいものが生まれるステージをつくっていきたいんです。

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二重構造のイベントから生まれる拡がり
──今回のTCSでは「Tokyo Trace」「Tokyo Vintage Fashion Week」「City Wide Program」がメインコンテンツとして位置づけられているそうですね。
杉山 ファッション統括ディレクターの松井智則さんとクリエイティブディレクターの物延信さんとぼく、3人のディレクターで話し合うなかで、TCSの認知をさらに拡げていくために象徴となるイベントが必要だと思い至ったんです。
例えばミラノデザインウィークのように都市に根づいた大規模なクリエイティブイベントを考えてみても、家具の見本市であるミラノサローネが中心にあり、フォーリサローネと総称されるイベントが市内各所で開催されています。取り組みとしての拡がりをつくるにはそんな二重構造が必要だと考え、これらのイベントを企画しました。
──それぞれ何が行なわれるのでしょうか。
杉山 まずTokyo Traceは、都市の記憶を可視化する展覧会です。デザイナーデュオのNOMARHYTHM TEXTILEにフォーカスし、東京出身のデザイナーが東京という街をどう見てきたか、そのデザインのスケッチや発想の源となったものを並べながら展覧会形式で見せていくことで、東京という街に残った痕跡を再評価していきます。
Tokyo Vintage Fashion Weekは、100を超えるヴィンテージショップに参加いただき、新宿にある住友ビルの三角広場で3日間にわたりファッションショーやマーケットを展開します。世界的なヴィンテージ市場においても東京の注目度が高まっているなかで、単なるサステナビリティではなく、古いものを再解釈し組み合わせることでアーカイブをクリエイティブでハックするような試みに挑戦できたらと思っています。過去を起点にしながら未来を描くアクションですね。過去の再評価はもちろんのこと、いまの世代から次の世代へバトンを渡す意味でも、こうしたイベントが重要だと思っています。
──こうしたイベントを中心に、各エリアでさまざまな取り組みが実施されるわけですね。
杉山 「Citywide Program」として、銀座なら「ラグジュアリーと記憶の重層」、日本橋なら「工芸と素材の未来資産」、六本木なら「アートとファッションの記憶」といったように、各エリアでFUTURE VINTAGEを軸にした独自のテーマが展開される予定です。春に開催されるため桜をモチーフにした企画を各所で行なうなど、回遊して楽しめるような施策も計画しています。

積み重なっていく都市への愛着
──長期的に見て、TCSをどのような存在にしていきたいと思われますか?
杉山 今回設定した「Tokyo Trace」「Tokyo Vintage Fashion Week」のようなコアコンテンツは、来年以降もかたちを変えながら継続させていきたいと思っています。プログラムは変化するかもしれないけれど、取り組み自体は続けていく。その求心力が高まれば高まるほど、TCSらしさが醸成されて、各エリアで同時開催されるイベントとも相乗効果が生まれると思っています。TCSとしてはこのイベントだけで何かを劇的に変えようとするものではなく、さまざまなエリアの方々を巻き込めるようなプラットフォームへと成長させていけたらと思います。
──こうしたイベントが根づいていくと、東京という街の見え方も変わっていくかもしれません。
杉山 東京への愛着が高まったり、モノの見え方が少しでも変わったりしたらいいなと思うんです。古い建物や昔から残っているものを不便や古臭いという言葉で片付けるのではなくて、みんなで活用しながら楽しい街づくりにつなげていきたいですよね。
もちろん海外への発信も重要です。ミラノサローネによってミラノがデザインの街だと捉えられ、パリがファッションウィークによってファッションの街だと思われているように、桜が咲く季節になったら東京がクリエイティブの舞台になっていくようなイメージをつくっていきたいですし、海外の方にも東京の魅力が伝わりやすくなるのではないかと考えています。
──アーティストやデザイナーが一方的に表現を発信する場ではなく、立場を超えて多様な人々が交流できる場になっていきそうですね。
杉山 そもそも東京はクリエイターだけではなくて、一般の方々のクリエイティビティが非常に高い街だと思うんです。先ほど申し上げたような東京の編集力は、幅広い人々によって支えられているものでもある。世界的に見ても、東京は新しいものや流行を受け入れる感度の高い人々が集まっていますから。ファッションにおいても、裏原やゴスロリ、ガングロなど企業やブランドではなく東京で暮らす人々から立ち上がったムーブメントがたくさんある。
東京には新しいものを受け入れて楽しむ力があるからこそ、改めて過去へと目を向けながら、どんどん変化が生まれていけばいいな、と。それらが積み重なることで、東京がより愛着をもてる街になっていくと嬉しいですね。

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