妻として、母として、ひとりの女性として社会生活を営み、穏やかに微笑んでいる彼女たちの本当の苛立ち、あふれんばかりの悩みとは? 専門家の解説を元に、リアルな事象に切り込んでいく。それが『女たちの事件簿』

「ねえ、なんで弟と同い年なの?」

坪田苺海さん(仮名・20歳)は、幼いときからこの言葉に苦しめられてきたと話すひとりだ。きょうだいは6人。その長女として生を受けた。

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危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、「大家族という選択は、多子社会への貢献として称賛される一方で、家庭内に生じる歪みに目が向けられることは少ない」と指摘する。

「令和6年の出生数は68万6,173人――。過去最低を更新し、合計特殊出生率は1.151にまで低下しました。今後、急激に増えることは想像しにくい状況です。子どもが増えることは国としてはいいことです。しかし大家族に生まれた子ども自身は、何を血の通った言葉として感じているのでしょうか?」

苺海さん(仮名・20歳)は、父母を含めると8人。まさに大家族だ。父親は会社を経営しており、衣食住に困ることなく育った。傍目から見れば「恵まれた裕福な家庭」そのものだ。

ところが――。苺海さんが小学校に入学した頃から、ある違和感がつきまとうようになった。きっかけは、友達からの無邪気な問いかけだった。

ーねえ、なんで弟と同い年なの?

クラスメイトに聞かれるたび、胃がきゅっと締まるような感覚に陥ったと話す。

​「私は4月生まれ、弟は翌年の3月生まれ。同じ学年に本当の弟がいるんです。親からは本当の姉弟だと聞かされていましたが、周りを見渡してもそんな家は他にない。いても『年子(学年が一つ違い)』です。だから私は、どちらかが『もらい子』なのではないかとずっと疑って育ちました」

さらに、珍しい名前も彼女の重荷となっていた。 「初見では、なんて読むのか絶対にわからない。いわゆる『キラキラネーム』です。一度も間違われずに読まれたことはありませんでした」 きょうだい全員が、一瞥しただけでは読めない名前をつけられているのだという。

「きょうだいが多いこと、弟と同級生であること、そしてこの名前。親のエゴのせいで、私は物心ついた時から『変な家の子』と敬遠される対象でした。家は貧困ではない。だからこそ、ヤングケアラーとして下の子たちの面倒をどれだけ見ても、誰も助けてはくれませんでした」

辛さを吐露しても、「家にお金があるんだから贅沢だ」と一蹴されたこともある。 この状況について、平塚氏はこう分析する。

「裕福な大家族においては、経済的な余裕が『家庭内に問題がない』という錯覚を生みやすい。しかし、長子、特に長女に家事や育児の負担が集中するケースは少なくなく、本人が声を上げにくい構造が生まれます。これは経済的困窮とは別の形の、見えにくいヤングケアラー問題といえます」

苺海さんは、今でも親の考えを理解することができないという。 「私が18歳の時に、さらに決定的な出来事がありました。それを機に親とは縁を切りたいと考え、家を出ました。今は必死に自立して暮らしています。名前についても、近いうちに改名を考えています」

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※本記事で使用している写真はイメージです。

【取材協力】危機管理コンサルタント|平塚俊樹氏 【聞き手・文・編集】悠木律 PHOTO:Getty Images 【出典】厚生労働省|令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況

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