読了時間:約 3分19秒

2026年02月25日 AM09:10

幸福感と死亡率の関連について、先行研究では一貫した結果は得られていなかった

青森県立保健大学は1月29日、日本の成人を対象にした前向きコホート研究において、ウェルビーイングの一側面である幸福感が高いことは全死因死亡率の低下と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大健康科学部の安永明智教授と早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Health Psychology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

幸福感はウェルビーイングの代表的な側面であり、健康の良し悪しを規定する重要な要因としてポジティブ心理学の研究領域では認識されており、公衆衛生上の主要な介入目標でもある。先行研究では、幸福感を含むポジティブな心理的健康は、健康長寿と関連があることが指摘されてきた。例えば、一般の人々を対象とした縦断研究のメタアナリシスでは、高い幸福感と死亡率の低下が関連することが報告されている。また、幸福感を含むポジティブな心理的健康が、健康な人々と病気を持つ人々の両方において死亡率の低下をもたらすことが、システマティックレビューにより示されている。しかし、幸福感が健康長寿の直接的な保護因子になりうるかについては慎重な意見もある。健康状態の悪化が幸福感の低下につながるという逆因果関係や、低い幸福感が喫煙や過度の飲酒、運動不足といった不健康な生活習慣につながり、それが死亡率に影響を与える可能性も指摘されている。

そのため、先行研究を概観していくと幸福感と死亡率の関連についての研究結果は一貫していない。例えば、英国の女性を対象とした前向きコホート研究では、自己評価による健康状態や疾患、社会人口統計学的要因、ライフスタイル要因を調整した後では、幸福感と死亡率に有意な関連は認められなかった。一方、シンガポールで実施された縦断研究では、同様の調整を行った後でも、幸福感と死亡率に有意な関連があることが報告されている。これらの相反する結果は、文化的背景や環境の差異を考慮したさらなる研究の必要性を示唆している。

日本の成人の幸福感と全死因死亡率の関連、健康状態や社会人口統計学的要因考慮で評価

今回の研究は、日本の成人における幸福感と全死因死亡率の関連を、健康状態や社会人口統計学的要因の影響を考慮した上で明らかにすることを目的とした。これまで幸福感と死亡率の関連については、欧米諸国で実施された研究からの知見が中心であったが、今回の研究はアジア、特に欧米諸国とは文化や環境が大きく異なる日本から貴重なデータを提供し、この領域の研究ギャップを埋めるものである。

「不幸である」と報告した参加者、全死因死亡リスクが約2.7倍高

2016年10月~2023年10月の追跡期間中、3,187人の研究参加者のうち277人が死亡した。年齢と性別で調整した分析(モデル1)では、ベースライン時に「不幸である」と報告した参加者は、「幸福である」と報告した参加者に比べて、全死因死亡のリスクが約2.7倍高いことが示された(オッズ比:2.69、95%信頼区間:1.63-4.44)。さらに、年齢、性別に加えて、教育歴、婚姻状況、経済状況といった社会経済的要因、BMIや身体機能といった健康状態を調整した分析(モデル3)においても、「不幸である」と報告した参加者の死亡のリスクは依然として統計学的に有意に高く(オッズ比:1.85、95%信頼区間:1.09-3.16)、この関連は変わらなかった。また、追跡開始から1年以内に死亡した参加者を除外した感度分析においても、同様の傾向が確認された。

これらの結果は、アジアの人々を対象にした幸福感と全死因死亡率の関連について、これまで不足していた知見を補完するものである。社会経済的要因や健康状態を考慮した後も、幸福感が死亡率と独立して関連していることを明らかにした。この結果は、ウェルビーイングの一側面である幸福感が長期的な健康、特に長寿に影響を与える重要な要因である可能性を示唆している。

「幸福感」が長期的な健康の重要な予測指標になる可能性

同研究結果は、高い幸福感が日本の成人における全死因死亡率の低下と関連していることを示しており、幸福感が長期的な健康の重要な予測指標になる可能性を示唆している。この知見は、今後の公衆衛生に関する取り組みや健康政策の立案に対して有益な示唆を与えるものになることが期待される。幸福感などのポジティブな心理的健康を高めるための介入は、メンタルヘルスの維持・増進に寄与するだけではなく、最終的に死亡リスクの低下を含む長期的な健康の改善につながる可能性があり、今後の健康・福祉政策や健康づくりプログラムの設計において重要な視点となる可能性がある。

同研究の課題として、以下の点が挙げられる。同研究の分析には、健康状態の評価が自己申告によるBMIと身体機能に限定されており、客観的または臨床的に検証された指標が含まれていない。今後は、医師によって診断された疾患・疾病やバイオマーカーなど、より客観的かつ臨床的に裏付けられた健康指標を分析に取り入れることが求められる。また、追跡期間中の幸福感の変化については評価されておらず、幸福感が時間とともにどのように変化し、それが死亡率にどのような影響を及ぼすのかは明らかではない。今後は、幸福感の時間的な動的変化を捉える視点を取り入れることが課題となる、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

Write A Comment