2025年春に始動した女性起業家育成プログラム「Mashing Upアクセラレーター」が、いよいよ最終ステージへ突入した。2026年1月16日、これまでの集大成となる成果発表会「DEMO DAY 2026」が東京都のスタートアップ拠点Tokyo Innovation Base(有楽町)で開催された。

晴れの舞台に立ったのは、ファイナリストから11名(※)。3カ月にわたる集中メンタリングと実践的プログラムによって磨き上げた事業内容を、投資家・起業家・メディアの第一線で活躍する5名の審査員、そして会場に集まった支援者や観覧者に披露した。

(※)ファイナリスト12名のうち1名は都合により欠席。

ブラッシュアップされた事業内容を、投資家・支援者に発表

2025年9月に実施されたファイナリスト選考会後、各界のプロフェッショナルによるメンタリングを受け、事業における課題や注力ポイントなどをさらに掘り下げていった出場者たち。DEI支援、アパレルDX、動物保護、障害者雇用……といったさまざまな社会課題をインパクトのある事業へと成長させるため、11名は本プログラムでの学びを自信に変えて、堂々とした面持ちでステージに上がっていった。

Mashing Upアクセラレーター DEMO DAY 2026出場者一覧

東 真希「株式会社Remedies」原文の意図をそのままに誤りだけを検知する、日本語に特化した文章AI校正ツール「wordrabbit」を独自開発。野本 愛「LifeDecision.AI」家族との暮らしの“決断”に納得の軸を届ける、意思決定支援サービス「LifeDecision.AI」を開発。重田 美彩子「ReEssence」月経前症候群(PMS)対策として開発した、経皮吸収型アロマシールおよび健康状態を可視化する連携アプリの提供。谷口 佳穂「株式会社3volt」障害者の法定雇用率達成と、企業の採用力強化を同時に叶える障害者人材紹介及び雇用定着支援サービス「MEDIAVOLT」を提供。小黒 江莉果「株式会社ShlterMate」動物保護施設にいる犬猫等の個体情報を一元管理し、譲渡につなげるクラウドサービスを運営。呉 季樺「PNYO合同会社」匿名で気軽に話すことで、新しい居場所をつくる音声コミュニケーションアプリ「ランダムチャット」を提供。金 知賢「株式会社Own B」AIで仕様書作成と工場マッチングを行う、OEM・ブランド向けアパレル生産DXプラットフォーム「Own B」提供。清水 美樹「クロススキルラボ」育児経験をスキルと捉え直すことで、企業における能力開発の機会を広げるキャリア支援サービスを提供。室田 美鈴「株式会社ColoridaStyle」DEIの組織課題をAIで可視化し、施策実行までを一気通貫で支援するクラウドツール「IncluMo」提供。木村 千瑛「株式会社LUNDATTE」お腹の冷えをケアする、無縫製・ハイウエストの腸活ボクサーパンツ「腸いいパンツ®」を展開。黒平 紗弓「株式会社なぷしゃる」婚姻のミスマッチをなくし、愛の誓いをアップデートする、合意形成AIリーガルアプリ「なぷしゃる」を提供。

5つの指標から、それぞれ5名を表彰

審査にあたったのは、島田大介さん(エンジェル投資家/インサイトコア創業者)、井上加奈子さん(NEXT BLUE 代表パートナー)、荻原国啓さん(ゼロトゥワンCEO)、山口高弘さん(GOB取締役ファウンダー)、高阪のぞみ(Business Insider Japan Brand編集長)の5名。彼らは発表が終わるたび、事業内容や今後の展開について鋭い質問を投げかけるが、どの登壇者も落ち着いた様子で、どんな問いにも当意即妙に返答。審査員が大きくうなずく場面も多々あった。

本イベントの主な目的は、成果発表と投資家・支援者とのマッチングにある。そのため、あえて順位づけは行わず、以下の5つの指標からそれぞれ高ポイントを獲得した起業家が表彰された。

①ビジョンの明確さと共感性
②課題設定とソリューションの実効性
③成長性と展開の可能性
④独自性と競争優位性
⑤社会的意義とインクルーシブな視点

特筆すべきは、登壇した起業家全員が「①ビジョンの明確さと共感性」において高い水準にあると評価されたことだ。それを踏まえ、今回の表彰は②以降の各指標において、次の5名が選出された。

日本語特化型の文章AI校正ツールを開発「②課題設定とソリューションの実効性」で表彰されたRemediesの東真希さん「②課題設定とソリューションの実効性」で表彰されたRemediesの東真希さん撮影:伊藤圭

1人目は、日本語に特化したAI文章校正ツール「wordrabbit(ワードラビット)」を独自開発し、大手出版社やテレビ局への導入も進めている東真希(ひがし・まき)さん。現在、特許取得済みの論理エンジンと独自のAIモデルが相互に検証することによって、汎用型の生成AIにはできないプロが求める高精度の検出を可能にするという。

表彰したゼロトゥワンの荻原さんは、「課題に対する解像度の高さと、具体的な打ち手をすでに実行している点」を高く評価。東さんは3年もの開発期間を「サグラダ・ファミリアを作っているようだった」と振り返りつつ、「大学・研究機関などとの繋がりを活かし、今後は教育分野にも広げていきたい」と意気込みを語った。

アパレル業務を効率化するDXプラットフォームを提供「②課題設定とソリューションの実効性」で表彰されたOwn Bの金知賢さん「②課題設定とソリューションの実効性」で表彰されたOwn Bの金知賢さん撮影:伊藤圭

2人目は、アパレル生産DXプラットフォーム「Own B(オウンビー)」を提供する金知賢(キム・ジヒョン)さん。ただの製品管理ツールではなく、仕様書作成から工場量産までを一気通貫で実現させるところが画期的で、「生産性をアップさせるとともに、人の可能性を切り開く」(Business Insider Japan 高阪)点が高く評価された。

また、高阪が、世界から注目される“kawaii”が、近年では「自分らしく表現する」という意味で使われていることに触れると、金さんもゆくゆくは「(誰もが)自分のブランドを立ち上げられる社会を作っていきたい」と、受賞の喜びを噛みしめた。

腸活ボクサーパンツ「腸いいパンツ」を展開「③成長性と展開の可能性」で表彰されたLUNDATTEの木村千瑛さん(リモート登壇)「③成長性と展開の可能性」で表彰されたLUNDATTEの木村千瑛さん(リモート登壇)撮影:伊藤圭

無縫製ハイウエストボクサーパンツ「腸いいパンツ®」を展開する木村千瑛(きむら・ちあき)さんは、特にグローバル展開の可能性が期待されて受賞した。「ハイウエストを流行ではなく文化にしたい」という木村さんの想いは、薬に頼らずに、日常の選択からコンディションを整えたいと考えるアスリートやパフォーマンス志向の層にも支持が広がり、ファーストシーズンは完売したという。

現在のラインナップは主に男性がターゲットだが、審査員を務めたNEXT BLUEの井上さんは、「女性や子ども向けのラインができれば、さらに広がる」と有望視。木村さんは、「苦労した時期に見守り続けてくれた人々の存在に感謝」し、「お腹を冷やさない文化を世界中に広める」という目標に向かって、これからも邁進したいと語った。

動物保護施設のクラウドサービスを運営「④独自性と競争優位性」で表彰されたShelterMateの小黒江莉果さん「④独自性と競争優位性」で表彰されたShelterMateの小黒江莉果さん撮影:伊藤圭

100を超える起業・事業開発を支援してきたGOBの山口さんをもって、「独自性どころか唯一と言えるほど、相当特異なSaaS」で、「社会的意義があり、参入障壁も高い」と言うほどの評価を得たのは、動物保護施設のクラウドサービスを運営する「株式会社ShlterMate(シェルターメイト/登壇時はTailytics)」の小黒江莉果(おぐろ・えりか)さんだ。

人々の善意に頼る動物保護から、持続可能な仕組みへと社会を転換させるため、小黒さんが研究するシェルターメディスン(動物保護施設における獣医学)とテクノロジーを掛けあわせ、犬猫等の譲渡にまでつなげている。小黒さんは、「今回の受賞は私個人だけでなく、保護犬保護猫業界にとっても大きな一歩」と笑顔で花束を受けとった。

障害者雇用を義務ではなく企業の戦力に「⑤社会的意義とインクルーシブな視点」で表彰された3voltの谷口佳穂さん「⑤社会的意義とインクルーシブな視点」で表彰された3voltの谷口佳穂さん撮影:伊藤圭

障害のある人を「守るのではなく、攻めの姿勢で社会貢献する」点を評価されたのは、3volt(サンボルト)の谷口佳穂(たにぐち・かほ)さん。54%の企業が未達成という障害者の法定雇用率達成と、新卒か転職かに関係なく多くの求職者がSNSで情報収集する現状を踏まえ、谷口さんは障害者の定着支援と企業のwebマーケティングを同時にサポートする事業に挑んでいる。

この事業が持つ可能性について、エンジェル投資家の島田さんは、「健常者と障害者がまったく同じように働ける世の中になるのではないかと、非常にワクワクした」と述べ、「労働人口が減っていくなかで、大きなソリューションになる」と期待する。谷口さんは受賞を喜びながらも「会社をやっている以上、事業目標を達成してなんぼ」なので、「まずは今期1億円達成できるよう、全力を尽くしていく」と力強く語った。

大きく成長した姿に、審査員から「感動した」との声も審査員のメンバー。左から、荻原国啓さん(ゼロトゥワンCEO)、井上加奈子さん(NEXT BLUE 代表パートナー)、山口高弘さん(GOB取締役ファウンダー)、島田大介さん(エンジェル投資家/インサイトコア創業者)、高阪のぞみ(Business Insider Japan Brand編集長)審査員のメンバー。左から、荻原国啓さん(ゼロトゥワンCEO)、井上加奈子さん(NEXT BLUE 代表パートナー)、山口高弘さん(GOB取締役ファウンダー)、島田大介さん(エンジェル投資家/インサイトコア創業者)、高阪のぞみ(Business Insider Japan Brand編集長)撮影:伊藤圭

最後は全体を振り返り、審査員一人ひとりから総評が伝えられた。

今回、本プログラムに初参加した荻原さんは、他の審査員から聞く「伸び率、変化率がすごい!」「感動した!」との声に、Mashing Up アクセラレーターで学んだ1年がいかに良い時間であったかに思いを馳せたという。どの出場者も「ビジョンやミッションが本当に素晴らしく、文句のつけようがない」と述べ、これから事業の解像度を上げる段階で「困った時ほど施策やHOWの部分におぼれず、最初に抱いた志やこういう社会を作りたいという想いを背骨に取り組んでいってほしい」とエールを送った。

昨年9月のファイナリスト選考会で「数字計画が弱い」点を指摘した井上さんは、今回は全員が「しっかりと目線を上げて、大きな数字を具体的な目標に掲げていたことが個人的にもうれしかった」とコメント。「投資オファーをしたいところが6〜7社あった」と明かし、この先の関係構築に意欲を見せた。

「伸びていく社会起業家にはパターンがあり、今日の出場者はこの流れにかなり乗っている」と語ったのは、山口さん。内容や話す順番も含めて「とても聞きやすく、素晴らしいプレゼンだった」と、この日に向けて努力してきた出場者はもとより、彼女たちに伴走したメンターの尽力もおもんぱかった。

また、島田さんは「社会的に意義のあるビジネスは、難易度が高い」とこれから迎える困難への覚悟に言及。「ハードシングスが起こっても、あきらめず絶対にやるという強い気持ち」が必要で、起業した頃の自身の経験から「一つひとつ足元から解決していくと、いつか光が差し込んでくる」と背中を押す言葉を贈った。

そして、高阪は昨年7月に初めてピッチを見たとき、参加者から伝わる「原体験の強さに圧倒された」ことを思い出したという。この日の発表は原体験を語るパートは縮小され、数字の裏付けや市場性、ビジネスモデルなどがかなり強化されていた。だが、「原体験の話を控えめにした今日のほうが、さらに心が動いた」と率直な感想を述べた。

約1年にわたる本プログラムを通じて、顔見知りも増えたファイナリストたち。最終ステージを終えた安堵感も相まって、終了後のネットワーキング・タイムは和やかな空気のなか、互いの努力をねぎらいつつ、投資家や支援者との交流も図っていた。

終了後はネットワーキング・タイムが設けられ、出場者や来場者の間で交流が図られた。終了後はネットワーキング・タイムが設けられ、出場者や来場者の間で交流が図られた。撮影:伊藤圭

審査員が口々に語った成長を、誰よりも実感しているのは本プログラムに参加した女性起業家たちだろう。Mashing Up アクセラレーターでの学びを力に変えて、広い世界に羽ばたいてゆく姿を、Mashing Upはこれからも見守っていく。

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