パリを訪れる理由は人それぞれだ。街の名所を巡る人もいれば、美食を目的にする人もいる。一方で、フランス女性たちがどんな装いをし、どんな香りをまとい、そして髪をどうスタイリングしているのかを丹念に観察するためにパリへ向かう者もいる。今回の滞在は、仕事による一泊のみの弾丸トリップだったが、24時間あればパリジェンヌの最新ヘア事情をアップデートするには十分だった。ひと言で表すなら、その答えは「アン・ドゥ」。作り込みすぎない、無造作な髪だ。
思い浮かべたいのは、シャネル(CHANEL)の新しいムード。ちぢれ髪やボリューム、揺れを抑え込まず、自由に動くルーズな髪こそが今の空気感に近い。パリの街を歩く女性たちは、髪をタイトに整えたり、後ろへ流したりすることにほとんど興味を示していないようだった。アップヘアの人はごくわずかで、全体のムードはモダン・ボヘミアン。そこに、ほんの少しだけテクスチャーと“ざらり”とした質感が加わる。シーソルトスプレーをたっぷり効かせた、シエナ・ミラーのシグネチャースタイルを思い浮かべると分かりやすい。
パリ中で見られたこのラフで無造作なヘアは、2025年秋冬コレクションから派生し、春を前に一気にメインストリームへと広がったものだ。仏版『VOGUE』は、「ミュウミュウ(MIU MIU)の無造作な髪、プラダ(PRADA)のポニーテール、ケンゾー(KENZO)のシャギーなロック、ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)の曖昧なウェーブ、アレキサンダー マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)のクリンプされた根元、クロエ(CHLOÉ)の空気を含んだボリューム」とレポートしている。
この気負いのないスタイルが放つメッセージは明確だ。髪をスタイリングする時間がないだけでなく、そもそもそこにエネルギーを割く気もない。一本一本の毛を従わせようとするよりも、もっと大きく、切迫した人生がある──そんな価値観がにじみ出ている。


