また、コロナ禍にZoomを使ったリモート授業を子どもの肩越しにのぞき見て、その内容に不満を抱いた者もいる。テックエリートたちは、いわゆる「ウォーク」(woke/社会正義に目覚めた、意識の高い系の人々)文化からますます距離を取るようになり、自分の政治的・文化的信条に自分たちに合致する新たな選択肢を探し始めていた。
伝統的な教育機関のやり方を見て、「こんなのはばかげている。なぜこんな古くさい方法でやる必要があるんだ?」とシリコンバレーの親たちは考えている。こう語るのは、オルタナティブ教育プログラムのThe Socratic Experienceを創設したマイケル・ストロングだ。多くの親は、加速学習を認めない画一的なカリキュラムのせいで、成績優秀な自分の子どもが足止めされていると考えている、とストロングは説明する。「要するに、子どもが2時間でどんどん学習を進められるのなら、そうさせればよいということです」とストロングは言う。
AIチューターを活用
日常生活に生成AIが急速に浸透するなか、こうした流れはさらに拡がっていくだろう。マイクロスクールでは、各生徒に合わせたスクリーン越しの個別授業で、すでにAIチューターを活用しており、教室での時間は体験学習や社会性を育む活動にあてている。教育におけるAIの世界市場は、25年の70億5,000万ドル(約1兆円)規模から、34年までに1,123億ドル(約17兆円)規模に拡大すると、コンサルティング会社のPrecedence Researchは試算している。
こうしたオルタナティブ教育のビジョンは、テクノリバタリアンが標榜する「イグジット(脱出)」哲学と深く結びついている。機能不全のシステムから離脱して、並立する代替システムを民間セクターでつくり上げようという考え方だ。暗号資産やチャーター都市などの脱中央集権化運動も、同じ論理に端を発する。
『The Privateers: How Billionaires Created a Culture War and Sold School Vouchers(プライベティア──富豪たちはいかにして文化戦争を仕掛け、学校バウチャーを売り込んだか)』(未邦訳)の著者で、ミシガン州立大学で教育政策を研究するジョシュ・コーウェン教授は、公的資金で私立学校の学費を賄える教育バウチャー制度を「教育界のビットコイン」と呼ぶ。コーウェンは、教育民営化への反対を訴えて、地元ミシガンの連邦議会議員に立候補している。エリートたちは今後も社会との隔絶を続ける一方で、多くの民衆がコストを背負うことになる、というのが彼の考えだ。
「銀行にしろ医療にしろ学校にしろ、大規模なシステムから自分たちを除外して、『あとは好きにすればいい』と言っているようなものです」とコーウェン。「一部の人には好都合でも、ほとんどの人は恩恵を受けられません」
教育省解体とEdTech産業の成長
現在のマイクロスクールには、2020年に富裕層のあいだで爆発的に拡がった「パンデミック・ポッド」[編註:コロナ禍の休校中に自主的に始まった少人数のグループ学習]の進化版という側面がある。その一方で、もっと昔から存在する政治的プロジェクトの一部でもある。
学校選択制運動は、1950年代に、ブラウン対教育委員会裁判[編註:白人と黒人を分離した公立学校は不平等という判決を下した]を受けて、人種を統合した公立学校を白人家庭が避けるために始まったと、この運動に批判的な人々はしばしば主張する。現在の位置づけは、教育の効率を高めるひとつの方法として、社会経済的に幅広い境遇の親たちが、それぞれの子どものニーズに応じて学校を選択できるようにする運動とされている。だが実際には、いずれにしても私立学校を選ぶ傾向の強い裕福な家庭に、公教育のための資金が流れる結果となっている。
